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2章:砂上の安寧
第27話 到着
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「それは本当なのか⁉」
道中で乗せてもらった馬車の中、積まれていた荷物に囲まれる中でルーファンはジョナサンを問い詰める。
「お、落ち着いてくれ…ああ、海岸に漂着した避難船からパージット王国の難民が幾らか保護されている。国土も壊滅して、復興させるためのまともな人材すら残ってない状況で送り返すなんて、そんな酷な真似出来る訳無いだろう ?」
「そうか…彼らはどこにいるんだ ?」
「首都だ。職業訓練を受けたり、学校に行かせたり、専用の地区で暮らしてる…と言っても期待はするなよ。あまり待遇を手厚くしすぎると、それはそれで国民から反感を買うんだ。難民を見殺しにするなって騒いでた癖に、融通利かせると文句を言い出す…勝手だよな」
パージット王国から流れついた者達の現況を語ると、ジョナサンは溜息をつきながら自国の民の身勝手さをせせら笑った。人間は自分が責任に問われないと分かれば何だって言う。何かしてくれるわけでもない民衆という名のワガママ集団など行政や議会も無視してしまいたい所だろうが、それが出来ないのが民主主義の性であった。
「彼らに会いたい…どうにか出来ないか ?」
「ああ、時間がある時に顔を出せばいい。その前に僕の頼みを色々聞いてもらうがね。なあに、損はさせないさ」
二人がそうして話している間、御者台には手綱を取る旅人とその子供がいた。子供の方はというと、御者台の方に座ったサラザールの膝の上である。
「お友達の方は話が盛り上がってるな。会話に混ざりたいだろうがすまん。何しろデカいもんだからよ、アンタ」
「大丈夫、こういう扱い慣れてるから」
男性が申し訳なさそうに言うと、サラザールは膝の上にいる子供に腕を回したまま返答した。
「おばさんって何でそんなに大きいの ?」
どうも寂しくなったのか、少年は彼女の顔を見上げながら無邪気に尋ねる。
「たらふく食べて、良く動くのが秘訣。それとオバサンじゃなくてお姉さん。次からは間違えないでね」
そんな彼に優しく言い聞かせた上でサラザールが忠告をしていると、大きな橋が見えて来た。石で組まれたアーチ状の橋の先には関所と思わしき巨大な門がそびえ立っている。
「ノルドバだ…スアリウスの首都が見えて来たぞ」
男性は希望に満ちたような顔で語った。それを聞いた直後、目的地に着きそうだと分かったジョナサンとルーファンが仕度を始める。暫くして橋を渡り切ると、ライフル銃を持った兵士と獣人が待ち構えていた。屈強そうな体躯と鋭い牙を見せながらこちらを睨む姿に、少年は怖気づいてサラザールの後ろに隠れてしまう。
「通行手形を見せろ」
兵士が言われると、全員が何やら長ったらしい文章と署名が入った書類を兵士に見せる。受け取った兵士は書体や認可した者の署名、そして押印をくまなくチェックする。
「よし通って良いぞ」
そのまま不愛想な顔で手形を返され、全員は無事に門をくぐって行く。開かれた扉の先にあったのは、見た事も無い程に高い塔や大規模な工場、そして煉瓦や大理石で作られた建物が軒を連ねる市街…自身の故郷とは大きく違う景観を前にルーファンは息を呑んでいた。
「のんびりと観光名所の案内…と行きたいところだが後回しだ。うちの会社に寄って行ってくれ。色々と段取りを決めないとな。さあ、こっちだ ! せっかくだし手短に言うが、あそこの工場では――」
ルーファンの驚く顔が見れたジョナサンは満足げな表情でルーファンが背負っている剣の鞘を叩き、自分の会社がある方へと案内を始めた。サラザールも仲良くなってしまった少年に手を振ってから別れを告げて後を追う。その後ろ姿に見とれつつ、「俺もあんな風にデカくなりたい」と少年は父親に願望を伝えた。
――――とある建物の内部では、せわしく人々が資料を片手に動き回り、タイプライターや印刷機の稼働する音が響き渡り続けていた。その中の一室では、スキンヘッドの男が机に飾ってあった写真を手に取って眺めている。写真には分かりし頃の彼とジョナサンが写っており、彼らの背後にはレイヴンズ・アイ社の看板が飾られていた。
”必要なのは正義ではなく真実 !”
写真の片隅にその様な殴り書きのされた紙切れも添えられていた。
「そう簡単にくたばるタマじゃいないってのは、分かっているんだがな…」
懐かしい思い出に耽っていた時、オフィスのドアが勢いよく開かれる。
「いや~懐かしい臭いだ。紙とインク ! それと…センスの欠片も無いバラの香水の匂い。なあスティーブン !」
ジョナサンが言いながら部屋に入ってくると、作業をしていた者達もを手を止めて彼の周りに集まる。スキンヘッドの男も彼の声に思わず反応し、思わず席を立ってから彼の方に寄って行く。
「ジョナサン ! やっぱり生き延びたか、悪運の強い奴め !」
「スティーブン、当たり前だろ。俺を誰だと思ってる ?」
二人が抱擁を交わす中、ルーファンとサラザールも部屋に入って来た。見慣れない顔を前に従業員たちも皆ざわつき出す。ジョナサンは二人を見た後に再びスティーブンの方へ顔を向け、ニヤリと笑って見せた。
「おい待て。まさかそいつは…」
何かを悟ったスティーブンは驚愕した。
「そのまさかだ…二人共、紹介するよ。スティーブン・マードックだ。ウチの新聞社の編集長をやってる」
ジョナサンがそのままスティーブンの事を紹介し、スティーブンも落ち着かない様子で握手を求めた。警戒していたルーファンとサラザールだが、拒否をするというのも悪いと思ったのか仕方なく応じる。
「よろしくな…ところでジョナサン。彼らの事について教えてくれ」
「もうなんとなく察してるみたいだな。皆聞いてくれ ! この二人こそが巷で囁かれている噂…鴉の異名を持つ怪人の正体だ」
スティーブンの質問に答える形でジョナサンが二人の事を教えると、辺りが一気に静まり返った。そして希望、畏れ、驚愕…様々な思いの籠った視線がルーファンとサラザールに突き刺さる。気まずさとこっぱずかしさにルーファンは苛まれ、一刻も早くその場を離れたくなっていた。
道中で乗せてもらった馬車の中、積まれていた荷物に囲まれる中でルーファンはジョナサンを問い詰める。
「お、落ち着いてくれ…ああ、海岸に漂着した避難船からパージット王国の難民が幾らか保護されている。国土も壊滅して、復興させるためのまともな人材すら残ってない状況で送り返すなんて、そんな酷な真似出来る訳無いだろう ?」
「そうか…彼らはどこにいるんだ ?」
「首都だ。職業訓練を受けたり、学校に行かせたり、専用の地区で暮らしてる…と言っても期待はするなよ。あまり待遇を手厚くしすぎると、それはそれで国民から反感を買うんだ。難民を見殺しにするなって騒いでた癖に、融通利かせると文句を言い出す…勝手だよな」
パージット王国から流れついた者達の現況を語ると、ジョナサンは溜息をつきながら自国の民の身勝手さをせせら笑った。人間は自分が責任に問われないと分かれば何だって言う。何かしてくれるわけでもない民衆という名のワガママ集団など行政や議会も無視してしまいたい所だろうが、それが出来ないのが民主主義の性であった。
「彼らに会いたい…どうにか出来ないか ?」
「ああ、時間がある時に顔を出せばいい。その前に僕の頼みを色々聞いてもらうがね。なあに、損はさせないさ」
二人がそうして話している間、御者台には手綱を取る旅人とその子供がいた。子供の方はというと、御者台の方に座ったサラザールの膝の上である。
「お友達の方は話が盛り上がってるな。会話に混ざりたいだろうがすまん。何しろデカいもんだからよ、アンタ」
「大丈夫、こういう扱い慣れてるから」
男性が申し訳なさそうに言うと、サラザールは膝の上にいる子供に腕を回したまま返答した。
「おばさんって何でそんなに大きいの ?」
どうも寂しくなったのか、少年は彼女の顔を見上げながら無邪気に尋ねる。
「たらふく食べて、良く動くのが秘訣。それとオバサンじゃなくてお姉さん。次からは間違えないでね」
そんな彼に優しく言い聞かせた上でサラザールが忠告をしていると、大きな橋が見えて来た。石で組まれたアーチ状の橋の先には関所と思わしき巨大な門がそびえ立っている。
「ノルドバだ…スアリウスの首都が見えて来たぞ」
男性は希望に満ちたような顔で語った。それを聞いた直後、目的地に着きそうだと分かったジョナサンとルーファンが仕度を始める。暫くして橋を渡り切ると、ライフル銃を持った兵士と獣人が待ち構えていた。屈強そうな体躯と鋭い牙を見せながらこちらを睨む姿に、少年は怖気づいてサラザールの後ろに隠れてしまう。
「通行手形を見せろ」
兵士が言われると、全員が何やら長ったらしい文章と署名が入った書類を兵士に見せる。受け取った兵士は書体や認可した者の署名、そして押印をくまなくチェックする。
「よし通って良いぞ」
そのまま不愛想な顔で手形を返され、全員は無事に門をくぐって行く。開かれた扉の先にあったのは、見た事も無い程に高い塔や大規模な工場、そして煉瓦や大理石で作られた建物が軒を連ねる市街…自身の故郷とは大きく違う景観を前にルーファンは息を呑んでいた。
「のんびりと観光名所の案内…と行きたいところだが後回しだ。うちの会社に寄って行ってくれ。色々と段取りを決めないとな。さあ、こっちだ ! せっかくだし手短に言うが、あそこの工場では――」
ルーファンの驚く顔が見れたジョナサンは満足げな表情でルーファンが背負っている剣の鞘を叩き、自分の会社がある方へと案内を始めた。サラザールも仲良くなってしまった少年に手を振ってから別れを告げて後を追う。その後ろ姿に見とれつつ、「俺もあんな風にデカくなりたい」と少年は父親に願望を伝えた。
――――とある建物の内部では、せわしく人々が資料を片手に動き回り、タイプライターや印刷機の稼働する音が響き渡り続けていた。その中の一室では、スキンヘッドの男が机に飾ってあった写真を手に取って眺めている。写真には分かりし頃の彼とジョナサンが写っており、彼らの背後にはレイヴンズ・アイ社の看板が飾られていた。
”必要なのは正義ではなく真実 !”
写真の片隅にその様な殴り書きのされた紙切れも添えられていた。
「そう簡単にくたばるタマじゃいないってのは、分かっているんだがな…」
懐かしい思い出に耽っていた時、オフィスのドアが勢いよく開かれる。
「いや~懐かしい臭いだ。紙とインク ! それと…センスの欠片も無いバラの香水の匂い。なあスティーブン !」
ジョナサンが言いながら部屋に入ってくると、作業をしていた者達もを手を止めて彼の周りに集まる。スキンヘッドの男も彼の声に思わず反応し、思わず席を立ってから彼の方に寄って行く。
「ジョナサン ! やっぱり生き延びたか、悪運の強い奴め !」
「スティーブン、当たり前だろ。俺を誰だと思ってる ?」
二人が抱擁を交わす中、ルーファンとサラザールも部屋に入って来た。見慣れない顔を前に従業員たちも皆ざわつき出す。ジョナサンは二人を見た後に再びスティーブンの方へ顔を向け、ニヤリと笑って見せた。
「おい待て。まさかそいつは…」
何かを悟ったスティーブンは驚愕した。
「そのまさかだ…二人共、紹介するよ。スティーブン・マードックだ。ウチの新聞社の編集長をやってる」
ジョナサンがそのままスティーブンの事を紹介し、スティーブンも落ち着かない様子で握手を求めた。警戒していたルーファンとサラザールだが、拒否をするというのも悪いと思ったのか仕方なく応じる。
「よろしくな…ところでジョナサン。彼らの事について教えてくれ」
「もうなんとなく察してるみたいだな。皆聞いてくれ ! この二人こそが巷で囁かれている噂…鴉の異名を持つ怪人の正体だ」
スティーブンの質問に答える形でジョナサンが二人の事を教えると、辺りが一気に静まり返った。そして希望、畏れ、驚愕…様々な思いの籠った視線がルーファンとサラザールに突き刺さる。気まずさとこっぱずかしさにルーファンは苛まれ、一刻も早くその場を離れたくなっていた。
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