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十三章:無知と罪
第107話 あっけなさすぎる
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クリスは立ちはだかる残党たちを蹴散らし、神殿の最奥部に待つ最後の扉を開く。薄暗がりになっているその部屋は、かつてとは明らかに雰囲気が違っていた。目を凝らした先の玉座には、ぼんやりとした人影が座り込んでいる。
「…ギルガルド」
クリスが呟いた。その声に反応して静かに顔を上げたギルガルドだったが、やがて躊躇いがちに席を立つ。反射的にクリスは拳銃を向けた。
「久しいな」
探りを入れているのか、ギルガルドは多くを語ろうとしない。一言だけ再会の挨拶を述べた後に再び沈黙が訪れた。
「…無様だ」
「それは何に対してだ ?俺の事か ?それともお前達がか ?」
「全てだよ」
ギルガルドの唐突な呟きにクリスも訝しんだが、それに対してギルガルドは酷く冷淡に返す。どこか諦観を抱いているようにも見えた。
「殺してくれ」
「…何のつもりだ」
突如として懇願してくるギルガルドに、若干の戸惑いを見せながらクリスは言い返す。もう少し抵抗してくるものかと思っていたせいか、少々の物足りなさが心の中に引っかかる。何より、素直に受け入れて殺せるほど純粋無垢ではなかった。
「どう足掻こうがブラザーフッドは風前の灯火だ。今更私が抗ってどうにかなるものではない…だが頼む…生き残っている者達については見逃してくれまいか… ?」
「さっきから何を――」
こちらへ一方的に話しかけるギルガルドへクリスがもう一度問いかけようとした時だった。辺りに生暖かい空気が流れ、黒い靄が彼の背後に現れるのをクリスは目撃する。
「ダメだろ、手筈通りにやってくれよ…」
そこにはネロがいた。彼の憎たらしい笑顔を見た瞬間、クリスは問答無用で弾丸を放ったが、闇の力で防がれてしまった。
「まあ落ち着けよ。それより爺さん、俺が今何を考えているか分かるか ?」
「…分かる筈など無いだろう」
ギルガルドの背後に忍び寄りながら、ネロは少し面白がっている様子で語り掛ける。
「憐れみだよ。あんたが日和って戦おうとしない点については…想定の範囲内だった。自分の命と引き換えに、生き残っている魔術師達を助けてもらおうとでもしたか …本当にマヌケと言うか何というか…」
「何…!?」
「言っただろ。お前に残ってる選択肢は破滅しか無いんだよ…お仲間も含めてな。今頃、他の集落は地獄絵図だろうぜ。さっさと倒されて死んでくれれば、教えるつもりは無かったがな」
ネロが嘲笑の末に不穏な事を呟くと、ギルガルドは顔を青ざめる。状況の分かっていないクリスは呆然と拳銃を握ったまま二人を見ていた。
「貴様…!!」
「おっと」
激昂したギルガルドだったが、その老体ではどうにもならなかった。軽くあしらわれた挙句、左腕に闇を纏わせたネロが彼の首を切断する。ヘラヘラした様子で転がった首の元へ近づくと、ネロはそれを拾い上げてクリスの方を見た。
「後で会おう…ほら、欲しかっただろ ?」
そう言ってネロはクリスの足元へ首を放り投げる。思わず攻撃を仕掛けようとしたが、既にネロの姿は無かった。
「…後で会おう、だと ?」
不穏な言葉を残した彼の意図が分からなくなっていた時、背後から動ける状態だったらしいデルシンが銃を携えて現れる。呆然と立ち尽くすクリス、その足元に転がる生首、不気味なほどに静かな部屋。当然の事ながらデルシンも状況を呑み込めずにいた。
「何があったんだ ?というか、この首…」
「…ブラザーフッドの親玉だよ」
「お、おお !つまり、やったんだな !」
「なあ、全員無事か ?少し話をしたい」
床に転がる生首についてクリスが答えると、安堵と高揚を顔に出したデルシンは明るい調子で喜びの声を上げる。だがクリスは特に反応するわけでも無く、生首を掴んでから全員の元へそそくさと戻り始めた。一体どうした事かとデルシンは不思議に思いつつも、辺りを警戒しながら彼を追いかけていく。
――――前線基地に戻った後、クリスはレグル、そしてシェリル以外の騎士達を集める。
「ネロが…!?」
「ああ、殺したのは奴だ。それと妙な事を話していた。どうも奴はブラザーフッドとは何か違う目的があったらしい…ギルガルドはただの操り人形だった」
驚愕した様子でアンディが食いつき、それに頷きながらクリスは一部始終を話した。任務自体は達成できたものの、手放しでは喜べる結果ではないという事実が一同に突きつけられ、しばし気まずい雰囲気に陥る。
「で、でもよお !何はともあれブラザーフッドは実質壊滅、だろ ?それに関しては喜んでも良いんじゃねえか ?ひとまず俺達は勝った。まずは帰って全員休もうぜ。その後に落ち着いて考えよう」
どうにかこの空気を打ち破ろうと、デルシンが励ましも兼ねて言い出した。死傷者も多い状況であり、何をするにせよ態勢を整えなければならない。全員は彼の言葉に応じて帰投の準備を各々で進める事になり、一人ずつその場から消えていった。
「大丈夫だって。ネロの追跡に関しては後で報告してから判断を仰ごう」
「…ああ」
絶対に何かがおかしいとクリスは椅子に座って項垂れ続けていたが、メリッサはそんな彼の気苦労を察してか気を楽にするよう言って来る。とりあえず彼女に返事をしたクリスだったが、やはり抑えきれない胸騒ぎを気色悪く思っていた。
「…ギルガルド」
クリスが呟いた。その声に反応して静かに顔を上げたギルガルドだったが、やがて躊躇いがちに席を立つ。反射的にクリスは拳銃を向けた。
「久しいな」
探りを入れているのか、ギルガルドは多くを語ろうとしない。一言だけ再会の挨拶を述べた後に再び沈黙が訪れた。
「…無様だ」
「それは何に対してだ ?俺の事か ?それともお前達がか ?」
「全てだよ」
ギルガルドの唐突な呟きにクリスも訝しんだが、それに対してギルガルドは酷く冷淡に返す。どこか諦観を抱いているようにも見えた。
「殺してくれ」
「…何のつもりだ」
突如として懇願してくるギルガルドに、若干の戸惑いを見せながらクリスは言い返す。もう少し抵抗してくるものかと思っていたせいか、少々の物足りなさが心の中に引っかかる。何より、素直に受け入れて殺せるほど純粋無垢ではなかった。
「どう足掻こうがブラザーフッドは風前の灯火だ。今更私が抗ってどうにかなるものではない…だが頼む…生き残っている者達については見逃してくれまいか… ?」
「さっきから何を――」
こちらへ一方的に話しかけるギルガルドへクリスがもう一度問いかけようとした時だった。辺りに生暖かい空気が流れ、黒い靄が彼の背後に現れるのをクリスは目撃する。
「ダメだろ、手筈通りにやってくれよ…」
そこにはネロがいた。彼の憎たらしい笑顔を見た瞬間、クリスは問答無用で弾丸を放ったが、闇の力で防がれてしまった。
「まあ落ち着けよ。それより爺さん、俺が今何を考えているか分かるか ?」
「…分かる筈など無いだろう」
ギルガルドの背後に忍び寄りながら、ネロは少し面白がっている様子で語り掛ける。
「憐れみだよ。あんたが日和って戦おうとしない点については…想定の範囲内だった。自分の命と引き換えに、生き残っている魔術師達を助けてもらおうとでもしたか …本当にマヌケと言うか何というか…」
「何…!?」
「言っただろ。お前に残ってる選択肢は破滅しか無いんだよ…お仲間も含めてな。今頃、他の集落は地獄絵図だろうぜ。さっさと倒されて死んでくれれば、教えるつもりは無かったがな」
ネロが嘲笑の末に不穏な事を呟くと、ギルガルドは顔を青ざめる。状況の分かっていないクリスは呆然と拳銃を握ったまま二人を見ていた。
「貴様…!!」
「おっと」
激昂したギルガルドだったが、その老体ではどうにもならなかった。軽くあしらわれた挙句、左腕に闇を纏わせたネロが彼の首を切断する。ヘラヘラした様子で転がった首の元へ近づくと、ネロはそれを拾い上げてクリスの方を見た。
「後で会おう…ほら、欲しかっただろ ?」
そう言ってネロはクリスの足元へ首を放り投げる。思わず攻撃を仕掛けようとしたが、既にネロの姿は無かった。
「…後で会おう、だと ?」
不穏な言葉を残した彼の意図が分からなくなっていた時、背後から動ける状態だったらしいデルシンが銃を携えて現れる。呆然と立ち尽くすクリス、その足元に転がる生首、不気味なほどに静かな部屋。当然の事ながらデルシンも状況を呑み込めずにいた。
「何があったんだ ?というか、この首…」
「…ブラザーフッドの親玉だよ」
「お、おお !つまり、やったんだな !」
「なあ、全員無事か ?少し話をしたい」
床に転がる生首についてクリスが答えると、安堵と高揚を顔に出したデルシンは明るい調子で喜びの声を上げる。だがクリスは特に反応するわけでも無く、生首を掴んでから全員の元へそそくさと戻り始めた。一体どうした事かとデルシンは不思議に思いつつも、辺りを警戒しながら彼を追いかけていく。
――――前線基地に戻った後、クリスはレグル、そしてシェリル以外の騎士達を集める。
「ネロが…!?」
「ああ、殺したのは奴だ。それと妙な事を話していた。どうも奴はブラザーフッドとは何か違う目的があったらしい…ギルガルドはただの操り人形だった」
驚愕した様子でアンディが食いつき、それに頷きながらクリスは一部始終を話した。任務自体は達成できたものの、手放しでは喜べる結果ではないという事実が一同に突きつけられ、しばし気まずい雰囲気に陥る。
「で、でもよお !何はともあれブラザーフッドは実質壊滅、だろ ?それに関しては喜んでも良いんじゃねえか ?ひとまず俺達は勝った。まずは帰って全員休もうぜ。その後に落ち着いて考えよう」
どうにかこの空気を打ち破ろうと、デルシンが励ましも兼ねて言い出した。死傷者も多い状況であり、何をするにせよ態勢を整えなければならない。全員は彼の言葉に応じて帰投の準備を各々で進める事になり、一人ずつその場から消えていった。
「大丈夫だって。ネロの追跡に関しては後で報告してから判断を仰ごう」
「…ああ」
絶対に何かがおかしいとクリスは椅子に座って項垂れ続けていたが、メリッサはそんな彼の気苦労を察してか気を楽にするよう言って来る。とりあえず彼女に返事をしたクリスだったが、やはり抑えきれない胸騒ぎを気色悪く思っていた。
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