上 下
118 / 118
魔功都市ジンフォルド

110 純白なる光と確かなる意志

しおりを挟む
 近づいてくる光の剣。避けようがない。俺は唖然とする。まさかここまでの大技を持っているとは思ってもみなかった。

「ああ、なんて美しいんだ」

 ただただ、心の底から思う。本心だった。復讐の力とは程遠い純白の光。だからこそ、俺は…。

 負けられない。

魔法抵抗マギレジスト!!」

 マナを自身の周りに集められるだけ集め固める。久しぶりに使う魔法だが、以前よりは強くなっていることはわかる。

「無駄だ!!その程度の防御魔法は途中で綻びるのが定石!せいぜい持っても数十秒!!」

 丁寧な説明ありがとうございます。ランスロット。でも俺は負ける気がしない。

 光の剣が進行を止める。俺の防御魔法にぶち当たったのだ。しかし、ランスロットの言う通りマナがひび割れ始める。

「負けて…」

 バキンッ。だんだんのマナは失われる。防御は手薄。もはや絶望だけが俺の頬を伝う。

「たまるかぁぁぁぁ!!」

 防御魔法を再構築する。割れては再構築し、俺はその場に踏ん張る。周りの兵士たちは動きを止め俺たちを呆然と見ている。

「おお…っ!おおああああ!!」

 少しづつ後退しつつも俺は防御魔法の再構築を続ける。まだ、まだやれる。不死身とはいえこれを食らって木端微塵になると即座に再生するとは思えない。

「私は!お前を打ち倒さねばならないのだ!!」

 ランスロットは光の剣の魔力をさらに上げる。常人であれば死に至るほどの魔力。それでもランスロットの決意は死など無価値に等しい。

 かっこいいじゃねぇか。上等だクソッタレ。完膚無きまでに敗残させてやる。

「トリストぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「ランスロットォォォォォォ!!」

 互いに譲れはしない。俺は防御魔法の魔力を倍以上増やす。ランスロットもそれにならい、さらに魔力を上げる。

 鼻から生暖かい血が吹き出し、口角からも血が垂れる。手は皮膚がすべて剥がれ筋肉が剥き出しになる。体のあちこちが悲鳴をあげる。だが、それはランスロットも同じだった。

 睨み合いそれでも光の剣は途切れることは無い。けど、ここで終わらせる!!

魔力吸血マナドレイン!!」

 そう唱えた途端、光の剣の魔力が俺の中に急激に流れ込んでくる。膨大な魔力は俺の体の中で暴れ、肉を裂き、溢れ出る。それでも魔力を吸い続ける。

「貴様ッ!!死ぬ気か!!」

「死ぬ?死ぬだって?俺はただの一度も死のうなんて思っちゃいねぇよ。俺は、勝つために自分を犠牲にする!!てめぇらの間違った正義とやらをぶっ潰すために!!」

 視界がぼやけチカチカと点滅する。このままでは魔力に飲まれる可能性もある。

「ああ、あああああああ!!!」

 瀕死の力を振り絞り最後の光の剣の魔力を吸い取る。光は消え、あたりが静まる。両国の兵士たちはもはや戦うことなどしなかった。

 カムランの丘の中心には俺とランスロットが立っていた。膝が笑いまともに立っているのもやっとの状態。ランスロットはアロンダイトを杖に、俺はそこいらの兵士の剣を杖にしていた。

「げぶっ…」

 俺は思わず血を吐く。ランスロットの魔力が未だに体の中で暴れているようだ。体が重くて仕方ない。再生はまだまだ時間がかかる。

「はぁ…はぁ…。まさか…、すべて…、吸い尽くすとは…。はぁ…」

「は、はは…。ゲホッ…。やってやったぞ…、ヒュッ…。まだ…、決着は…はぁ…。ついてねぇからな」

「ああ…。ぜぇ…、ゴホッ…。まだ…だ…」

 互いに剣を杖にして、歩く。フラフラと、倒れそうになるたび踏ん張る。ボタボタと血が流れでることももうどうでも良くなるくらいに。

 ざっ、ざっ。カムランの丘に響く音は2人の馬鹿の足音だけ。ようやくランスロットの前に立つ。

 ランスロットはアロンダイトを鞘に収め、俺は剣を捨てる。一呼吸。そして、俺はランスロットの顔面を殴りつける。しかしそれを踏ん張り、お返しと言わんばかりの拳が俺の顔面に直撃。俺も負けじと踏ん張る。

「は、はは」

「く、くふ」

「ははははははははは!!!」

「くはははははははは!!!」

 何故か分からないが笑いが込み上げてくる。ランスロットも俺も笑いなが互いを殴る。殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。何時間だっただろうか。もはや日は落ち夕闇が空に迫っていた。

 地面には俺たちの血飛沫で赤く染まっていた。兵士たちは未だ呆然としている。

 やがて、ランスロットは膝を着く。俺もそれと同時に膝をついた。そこでようやく、ランスロットが呟く。

「私の…負けです…」

 そう言い残し倒れる。気絶したようだ。

「ああ…。俺の勝ちだ…」

 よもや戦争などとは程遠い。子供の喧嘩のような殴り合い。それでも、そこには確かな意志があったのだ。

「行かなきゃな…」

 兵士たちは俺を避けていく。体は大分再生し、歩けるようにはなった。万全では無いものの、アーサー王を見つけて、ヴォーディガンを倒すのには十分だ。

「全く、かっけぇよ」

 そう言って俺はキャメロットに向かって足を歩み始めた。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

処理中です...