上 下
108 / 118
魔功都市ジンフォルド

101 迎え

しおりを挟む
 バキッ!

 手に残る骨や肉を殴る感触。俺は息を切らして目の前のアルブリヒトに目をやる。

「ま、まだいるのか?」

「あと、五百人ちょっとよ」

 かくんと頭を垂らしてしまう。人数が人数だろ。なんだよ五百人ちょっとって。

「もういい加減逃げても良くないか?」

 俺のぼやきにアルブリヒトはフンと鼻で笑う。

「案外大したことないのね。まぁ、あとはアタシ一人で何とかなるからアンタは後ろで休憩でもしてなさい」

 が、こういう風に言われるとカチンとくるものもある。俺はムキになってアルブリヒトと交戦中の兵士を容赦なく殴りつける。

「はっは、ワロス!この程度でヘタるわけないだろ!」

「やってくれるわね」

 それからは敵を取るか取られるかの殴り合い。俺と交戦していた兵士をアルブリヒトが殴り倒す。それに張り合うように俺はアルブリヒトと交戦中の兵士を殴る。それらを繰り返し数時間。あたりには痛みに呻く兵士の山と、その真ん中に立つふたりの立つ影だけだった。

「ゼェ、は。はは。ははははっ!平兵士如きが俺に歯向かうなんぞ数百万年早いわ!」

「何言ってんのよ。アタシの方があんたより多くぶん殴ったでしょ?」

「いいや、俺の方が多いね」

「ふん。言ってれば?アタシが多いのは変わりないから」

 アルブリヒトは心底俺を見下した目で俺を見る。こいつ、いつか寝てる時にぶん殴ってやろうかな。そんな出来るはずもないことを考え、これからの方針を聞く。

「で、このあとどうするのさ?街にでも出りゃ見回りの兵士に追いかけられるのは目に見えてるし」

「その心配はないみたい」

「は?」

 今の現状を理解出来ていないが、アルブリヒトの言うことはさらにわからない。

「お迎えよ」

  アルブリヒトが空を指さす。その方向を見ると何かが空からこちらを目掛けて飛んでくる。え、ちょっと待って、待って待て!

「おいぃ!なんか近づいてくるのはいいけどスピードが落ちてないんですがー!?」

「ふ、ふん。ちゃんと止まるに決まって、る」

 むしろ止まるどころかスピードを上げてきている。猛スピード。それはその何かにふさわしいものだった。

「きゃぁぁ!?何で止まんないの!?」

「知るかよ!」

  俺達は思い切り逃げる。そして、

ズドン!

 酷く鈍い音が鳴り響き、地面に墜落する。砂ぼこりが舞い俺とアルブリヒトは軽くむせる。

「けほっ!うう、加減を知らないのかしら…」

「げふっ。それは俺が言いたい台詞だ」

 砂ぼこりのモヤから出てきたのは、

「全く、派手に暴れるなと言ったのに。本当、傭兵は扱いづらい」

 アロケルだった。呆れた表情で俺たちを見下ろしていた。

「ふむ。久しいというよりもまた会ったな、の方がいいのか?それにしても、貴様はなかなかどうしてしぶといな」

「は、そりゃお互い様だろ」

 「違いない」

 柔らかい笑みで俺を見つめる。おっほ!やばい!今のはキュンと来たぜ!え!?これがギャップ萌え!?やばい!まじやばい!やばいことがもうやばい!

「いやー。アタシ的には隠密行動だったんだけどなー」

 たははと後頭部を掻きながら苦笑いをするアルブリヒトに対し、アロケルはこめかみを押さえ苦虫を噛み潰したような顔をする。

「さて、もうそろそろ行くぞ。敵の軍勢がそこまで来ている。それに、マンモン様もお待ちだ」

「マンモン、ねぇ。一つ聞きたい」

 俺の言葉に、焦りの混じった顔でアロケルは頷く。

「今の状況は、ブリトニアが敵で、ジンフォルドが味方でいいのか?」

「いや、自分らジンフォルドは貴様の味方ではない。今はまだ敵対こそしていないが、いつ自分が貴様の敵になるかわからない。故に信じてもらっては困る」

 敵か味方か。俺はそれを決めなければならない。しかし、今この現状でそれを理解するのは難しい。

「そうか。なら俺がとる行動は、ここから逃げるか大人しくついていくか、だな」

 俺のその一言を聞いた途端、アルブリヒトとアロケルは俺を睨みつけてくる。

「貴様がもし、仮にだが。もしこの場から逃げようというのならば、ここで始末せざるを得ない」

「アタシも一応金のためとはいえ雇われている身だからねぇ。逃げるなら殺るよ?」

 この二人を相手にするのは少々骨が折れる。ので、ヘタレで情けない俺はヘラヘラと笑い誤魔化す。

「ははっ!冗談だよ。さ、早く行こうぜ」

 後に気づいたのだが、この時テレポートでも使っていれば逃げれていたよな。やはり、俺はどこから抜けているのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

転生者の取り巻き令嬢は無自覚に無双する

山本いとう
ファンタジー
異世界へと転生してきた悪役令嬢の取り巻き令嬢マリアは、辺境にある伯爵領で、世界を支配しているのは武力だと気付き、生き残るためのトレーニングの開発を始める。 やがて人智を超え始めるマリア式トレーニング。 人外の力を手に入れるモールド伯爵領の面々。 当然、武力だけが全てではない貴族世界とはギャップがある訳で…。 脳筋猫かぶり取り巻き令嬢に、王国中が振り回される時は近い。

処理中です...