上 下
105 / 118
魔功都市ジンフォルド

98 追跡者

しおりを挟む
 逃げることは素晴らしい、スタコラサッサと逃げてスマートに帰るつもりだったのだが、

「待てぇ!」

「逃がさねぇぞ!」

 追手がいました。おそらく、アロケルの方が一枚上手だったようだ。俺が逃げることを想定して四方八方に兵士を配置していたらしい。

「あー!もう!なんでこうなんだよ!いっつもスマートに行かねぇよな!」

 あと最近逃げてばっかりですよね。

「ゼェゼェ。しんどい…。体力があるわけじゃないんだよなぁ」

 そして今思い出す。転移魔法のことを。らくできるじゃん!

転移魔法テレポート!」

 そしてものの見事にジンフォルドの外へ。あー、もう逃げるのやめよっかな…。

「な、何とかなった…」

 安心も束の間。目の前にローブを深くかぶった人物が立っていた。

「久しぶりだな」

 ローブの隙間からこぼれるように艶のある伸び放題の赤髪が覗く。

「えー、と。ああ!あの時の!」

 ロイハイゲンで俺とぶつかった女性だ。綺麗なので覚えていた。あとは、この女性に対する違和感。人間ではないと確信は持てる。

「そうそう。あの時の女性だ。儂を覚えているとは、なかなか見どころのあるやつではないか」

 ローブをパサっと脱ぐ。赤と黒のオッドアイの目。綺麗なはずなのに、薄気味悪い笑み。口元には八重歯が覗いている。美女というのかそれとも可愛らしいというのか、どっちつかずな感じだ。身長は俺とほとんど同じ。弩級の美女でさらに弩級の胸。あっはっは!変態ではないぞ!

「自己紹介がまだだな。儂は、サタン。七つの大罪、そして七天魔王の憤怒を司るサタンである」

「…。は?」

 わけわからんぞ?なして?いきなり自己紹介に入りそしてこの名乗り方。頭がおかしいのか?

 そんな俺の間抜け顔を見てサタンと名乗る女性は、鼻で笑う。

「ふんっ。何度も言わせるな。儂は正真正銘のサタンであるぞ。何なら、力比べでもしようか?」

 普通、ここで断るのがセオリーだ。だがしかし!好奇心には勝てん!

「いいだろう。かかってきな」

 構えて、しばらくの沈黙。そして、

 パンッ!

 サタンが先に動く。もはやそれは走り来るというより瞬間移動だ。

「ふっ」

 即座にガードの姿勢に入る。次の瞬間にはサタンの重い一撃が俺にぶつかる。

「ぐっ!」

 ガードしきれずそのまま後ろへ。負けじとばく転し勢いを抑え、なんとか壁との衝突を回避する。この時点でまだ一分もたっていない。

「なかなかやるではないか。だが、次はどうか…なっ!」

 またもパンッという音とともにサタンが消え、俺の前に現れる。それを好機と俺はサタンめがけて魔力を帯びた拳で殴りつける。

「甘い」

 その言葉の意味がわかった時にはもう遅い。

「ふんっ!」

 殴りつけようとガードを崩したのが間違いだったことに気づく。

「…ゲッ…ッ!?」

 メキメキッ。嫌な音が鳴り響く。おそらく肋骨が数本折れた音だろう。口の中が血の味で満たされていく。

「まだまだぁ!」

 サタンはもう一度と言わんばかりの一撃を繰り出す。それが見事右肩にヒット。ぎゅぼと肩が外れる。

「あ、かっ…」

 痛みは感じにくいが流石にこれは痛い。と、いうより激痛だ。

 何故だ!?と考える暇はなく、俺は必死に酸素を肺の中に取り入れようとするが、なかなかどうしてうまくいかない。折れた肋骨が肺に刺さっているのだろうか。咳き込むと同時に血反吐ちへどが口から飛び出す。

「けぼっ、はっ」

 ふらふらと俺の足取りはおぼつかない。これが七天大魔王の頂点の力。正直侮っていました。  

「ふふん。その程度では儂と力比べは出来んぞ?貴公の剛撃なんぞアリの噛み付きの方がよほど効くわ」

 艶のある長い赤髪がゆらりと揺れる。流石に危ない。これは死ぬかも…。

「儂等は捨てられた身。あの忌々しい研究者め。そして貴公はその研究者にそっくりではないか。ちょうどいい憂さ晴らしもできるもんだわい」

 パンッ!という音とともに瞬く間にサタンがふらつく俺の元まで来る。

「だが安心せぇ。儂は貴公を大変気に入っておる。ベルゼブブを倒せれば儂も倒せるやもしれんな?それまではくたばってくれるなよ?」

 ゴッ。鈍い音が響くと同時に視界が揺さぶられる。 

「あがっ!?」

 下顎を殴られたことに気づいた時には俺の意識は深淵の中へ引きずり込まれていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす
ファンタジー
 病院で病死したはずの月島玲子二十五歳大学研究職。目を覚ますと、そこに広がるは広大な森林原野、後ろに控えるは赤いドラゴン(ニヤニヤ)、そんな自分は十歳の体に(材料が足りませんでした?!)。  時は、自分が死んでからなんと三千万年。舞台は太陽系から離れて二百二十五光年の一惑星。新しく作られた超科学なミラクルボディーに生前の記憶を再生され、地球で言うところの中世後半くらいの王国で生きていくことになりました。  べつに、言ってはいけないこと、やってはいけないことは決まっていません。ドラゴンからは、好きに生きて良いよとお墨付き。実現するのは、はたは理想の社会かデストピアか?。  月島玲子、自重はしません!。…とは思いつつ、小市民な私では、そんな世界でも暮らしていく内に周囲にいろいろ絆されていくわけで。スーパー玲子の明日はどっちだ? カクヨムにて一週間ほど先行投稿しています。 書き溜めは100話越えてます…

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう
ファンタジー
 町の電気工事士であり、なんでも屋でもある織田玄徳は、仕事をそこそこやりつつ自由な暮らしをしていた。  結婚は人生の墓場……父親が嫁さんで苦労しているのを見て育ったため、結婚して子供を作り幸せな家庭を作るという『呪いの言葉』を嫌悪し、生涯独身、自分だけのために稼いだ金を使うと決め、独身生活を満喫。趣味の釣り、バイク、キャンプなどを楽しみつつ、人生を謳歌していた。  そんなある日。電気工事の仕事で感電死……まだまだやりたいことがあったのにと嘆くと、なんと異世界転生していた!!  これは、異世界で工務店の仕事をしながら、異世界で独身生活を満喫するおじさんの物語。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

処理中です...