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部長の家
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ここはオカルト研究会の一室。
部室にいるメンバーたちは、浩一の置かれた状況を打開すべく、今後の方針を話し合った。
「私は過去に霊媒師に相談したことで解決したから、一度霊媒師やスピリチュアルカウンセラーに相談見るのがいいんじゃないかな」
最初に意見を出したのは逢だった。
「そうかもなあ。やっぱり素人だと解決はできないと思う」
部長もその意見に同意している様子だ。
「塩とかを撒いたり浄霊対策をするのは無理だったんだよね?」
影夫は浩一に再度確認をする。
「はい。インターネットで調べた浄霊対策は試せるだけ試しました......」
浩一は後ろめたい気持ちになりながら返答をする。
普通に考えてプロの霊媒師などに相談するのが基本的な解決策なのに、勝手な判断で調べた浄霊対策を行ったことを話すのは気が引けるからだ。
その後も少し話し合い、その日の部活は終了した。
浩一の家には悪霊などがいる可能性があるため、今日は部長の家に泊まったほうがいいという結論になった。
霊媒師に関しては、逢からの紹介で浩一の話を聞いてもらうことにした。
「部長、本当にいいんですか泊まってしまって......」
帰りの道中、浩一は億劫になりながら部長に話しかける。
「大丈夫だよ!それにまた家に帰って田中くんに何かあったらそれこそ一大事だし」
この人が部長で本当に良かった。
浩一はしみじみとした思いになる。
しばらく歩くと大きなマンションのようなものが見えてきた。
「ここが今住んでいるところだよ」
部長は指を指してマンションの一室を指差す。
ホールに入り、鍵を回すと入口が開いた。
「うちは10階にあるんだよね」
エレベーターに乗りながら浩一は考える。
「部長ってこんな大きなマンションに住んでいたんだ......」
自分の住む木造アパートと比較すると、風格の違いが際立つように思えた。
チーン
エレベーターが開き、フロアを歩く。
少し進むと、部長が住んでいると思われる部屋が見えてきた。
鍵を開けると、玄関ドアが開く。
「さあ、入って」
部長は、歓迎する様子で浩一を招き入れる。
「し、失礼します......」
浩一は少し戸惑いながらもマンションの一室に足を踏み入れた。
入った途端、中の空気が変わったように感じられた。
なんだろう。
普段からアロマオイルかお香のようなものを炊いているのだろうか。
とても落ち着く香りがする。
リビングへと続く道を進みながら浩一は思った。
「ここがリビングだね。色々と開運関係の道具が多いけど」
部長はリビングを紹介する。
真ん中にはテレビが置かれており、その近くに文字通り、古今東西の開運グッズが丁寧に飾られていた。
「すごい......」
思わず息をのむ。
「まあ、うちの実家が開運関係の会社を経営していてその所以なんだけどね......」
部長は苦笑をしながら言った。
「そうだ。僕の部屋も案内するよ」
部長はリビングから廊下の方へ戻り、壁際にある部屋の扉を開けた。
扉を開けた途端、中からとても良い香りが漂ってきた。
「この香りはなんですか?」
思わず聞いてしまう。
「これはお香だね。心身を清めたり、悪いものを祓ったりするといわれているんだ」
それを見て浩一は思う。
そうか......。
部長もオカルト研究会には入っていてその類いの話もよくしているけど。
その反面、人一倍、自分の身に関しては注意を払っている人だったんだな。
それに引き換え、自分は何も考えず、好奇心のままに『危険な遊び』に手を出してしまった。
何だか後ろめたい気分だ。
そう考えていると、部長が話しかけてくる。
「どうしたの? 入って大丈夫だよ」
「は、はい!」
慌てたように返事をして、部長の部屋に入る。
部屋の中央にはテーブルが置かれていた。
部長に続いて自分もそのテーブルの前に座る。
他人の家にあまり遊びに行った経験がないからだろうか、少し身体が緊張している。
「大丈夫だよ! そんなに緊張しないでいいから!」
部長が苦笑しながら緊張をほぐしてくれる。
「す、すみません」
浩一は照れ隠しをするように言う。
「そうだ。何か飲み物とかお菓子持ってくるよ!」
部長は立ち上がろうとする。
「だ、大丈夫ですよ!」
思わず遠慮してしまう。
「遠慮しなくて大丈夫だから。せっかく来たんだから。色々持ってくるよ」
部長は立ち上がり、キッチンの方へ歩いていった。
「なんか申し訳ないな......」
自分のために部屋に招き入れてくれたことや高級感を感じる部屋の雰囲気からなのだろうか、浩一は更に緊張感をつのらせていた。
「おまたせ!」
少し待っていると、部長が部屋に戻ってきた。
手にはお盆を持っており、そこにはポテトチップスなどのお菓子、ジュース、グラスが置かれていた。
「わざわざすみません!」
やはり、気を遣わずにはいられない。
「そんなかしこまらないで! どんどん食べて大丈夫だから!」
部長はグラスを浩一の前に置き、ジュースを注ぐ。
それから二人は、少しの間談笑をした。
「実はうちの親が売れ残った開運関係のグッズを押し付けてきて困っているんだよ」
部長は笑いながら話す。
「開運グッズって実際効果があったりするんですか?」
浩一は、ふと疑問に思ったことを尋ねる。
「そうだね。お香とかは気分が優れないときに炊くと少し心が落ち着くし、パワーストーンはあったら少しお守りみたいで自信がつく感じはあるよ。だから、ないよりはあったほうがいいと思うよ。」
部長は部屋にある開運グッズを見回しながら返答したのち、唐突に何かを思い出したように話題を切り替える。
「そうだ! 今日は田中くんが悩まされていることについて作戦会議をしにきた訳でもあるよね」
そうだった。
まるで、異世界にきたような部屋の雰囲気で自分もここに来た理由を忘れてしまっていた。
浩一も、改めて真剣な心持ちになる。
部長が再び話し始める。
「とりあえず、田中くん自身はお祓いみたいなものをしてもらうのが一点。アパートについてはすぐに出たほうがいいかもね。お母さんにちゃんと理由を話して、ここは合わないから出たいと伝えるべきだと思うよ」
それを聞いて浩一は、「すごい」と思った。
自分は度々起こる怪異に恐れおののき、何もできずに独りで震えていた。
問題の解決方法も何も思いつかなかったんだ。
その一方で、部長は流れるように解決策を提示してくれた。
やっぱりいざという時に頼れる先輩や友達は持っておくべきだ。
「一応うちでもできることはやるから、深刻にならなくて大丈夫だよ」
部長は浩一を安心させるように言う。
そして、コップに注がれたジュースを一気に飲み干した。
「ありがとうございます......」
本当にありがたい気持ちでいっぱいだ。
なにかお礼をシたいけれど、自分にはできることはないかもしれない。
「そうだ! そういえばホラー映画とか好き?」
唐突に部長が尋ねてくる。
「えっ、まあまあ好きです!」
思わず答える。
「本当!? 実は、うちにホラー映画がたくさんあるんだ。洋画や邦画、ジャンルは問わずいろいろなのがあるんだけど、なかなか見れなくて困っていたんだよね」
部長はそう言いながら、部屋の隅に置かれたボックスをテーブルの上へと持ってきた。
「よいしょっと!」
そのボックスには、ホラー映画のDVDがたくさんつまっていた。
そこからいくつかを部長が取り出す。
「これは、『ロング』。有名なホラー映画だよね。次は......」
部長が取り出したホラー映画のDVDはどれも有名で、ホラー映画初心者にはうってつけのものだった。
浩一自身も、夏休みに見たことがある懐かしい映画を見つけ、感慨深い雰囲気を覚えた。
部長と浩一は二人で意見を出し合い、見たい映画のDVDを選定した。
そして、それらを夜になるまで視聴したのであった。
◆
どれぐらい時間が経っただろうか。
時刻は夜の八時を回っていた。
「そろそろお腹すいてきたな......」
部長は時計を見ながら独り言を言う。
夜ご飯はどうするのだろう。
ふと、浩一は考える。
すると、部長は浩一の方を見ながら言う。
「待ってて、今から夜ご飯を作ってくるから」
もしかして、わざわざ自分のために作ってくれるのだろうか。
浩一はそう思う。
いくらなんでも申し訳ない。
「大丈夫です! 自分はカップラーメンとかでも構わないんで!」
遠慮がちに断ろうとする。
「そんなことないよ! せっかく来てくれたんだし。それに最近は料理にはまっているからこの機会に披露できなきゃ意味がないと思うから。ゆっくり待ってて!」
部長はそう言うとキッチンの方へ足を運ぶ。
そして、信じられないほどの手際の良さで料理を作った。
数分後____。
「おまたせ」
手にお盆を持った部長が浩一のほうへ歩いてきた。
お盆の上には、上品で美味しさが一際目立つ、カルボナーラが入ったお皿が置かれている。
カルボナーラの上には海老が盛り付けられ、その周りにはパセリとバジルが均等に散りばめられていた。
とても香ばしい香りだ。
自然とお腹が鳴る。
見た目もそうだが、自分では到底作れないぐらいの質の高さを感じる。
部長がお皿を浩一の方においてくれた。
浩一は料理に目が釘付けになり、それには気づかない様子だ。
だが、ふと我に返るとあまりの料理の出来に感謝の意を示さずにはいられなかった。
「すみません......こんなに上品な料理を.......!」
まるで会社の取締役に話すようにかしこまった浩一を見て、部長は言う。
「真面目すぎだよ。こんなの誰でも作れるから。さあ、冷えちゃうから早く食べよう!」
部長は、そう言うとフォークを手に持った。
浩一もフォークを手に持ち、二人同時に「いただきます!」と言った。
早速、カルボナーラにフォークを絡ませ、口にゆっくりと運ぶ。
カルボナーラが口に入った途端、あまりのおいしさに飛び上がりそうになった。
やはり、ただのカルボナーラではない。
浩一は、夢中になりながらカルボナーラを口へと運ぶ。
気が付いたときには、皿の上のカルボナーラはすべて無くなっていた。
それを見た部長が「おかわりあるよ」と、キッチンの方を指差す。
浩一はお言葉に甘えて、それらも美味しくいただくことにした。
「ごちそうさまでした」
食べ終わると、部長は口を開いた。
「でも、おいしく食べてくれて本当にうれしいよ。誰かに手料理を振る舞う機会や一緒にご飯を食べる機会なんてなかったし!」
部長の表情はとてもうれしそうで純粋無垢な感じがした。
見ているこっちまで元気になりそうだ。
浩一は温かい雰囲気を覚えた。
「いえいえ、自分も部長の家にこれて本当に良かったです!」
今まで友達とあまり遊んだり、歓談をした経験がなかった浩一はとてもこの時間が楽しくてたまらないように覚えた。
浩一はご飯を作ってくれたお礼に皿洗いを手伝った。
部長はそんな誠実な浩一を見て、より一層好感を覚えた。
次の日の土曜日も、明くる日の日曜日も、二人は明るく、楽しい時間を過ごしていった。
部室にいるメンバーたちは、浩一の置かれた状況を打開すべく、今後の方針を話し合った。
「私は過去に霊媒師に相談したことで解決したから、一度霊媒師やスピリチュアルカウンセラーに相談見るのがいいんじゃないかな」
最初に意見を出したのは逢だった。
「そうかもなあ。やっぱり素人だと解決はできないと思う」
部長もその意見に同意している様子だ。
「塩とかを撒いたり浄霊対策をするのは無理だったんだよね?」
影夫は浩一に再度確認をする。
「はい。インターネットで調べた浄霊対策は試せるだけ試しました......」
浩一は後ろめたい気持ちになりながら返答をする。
普通に考えてプロの霊媒師などに相談するのが基本的な解決策なのに、勝手な判断で調べた浄霊対策を行ったことを話すのは気が引けるからだ。
その後も少し話し合い、その日の部活は終了した。
浩一の家には悪霊などがいる可能性があるため、今日は部長の家に泊まったほうがいいという結論になった。
霊媒師に関しては、逢からの紹介で浩一の話を聞いてもらうことにした。
「部長、本当にいいんですか泊まってしまって......」
帰りの道中、浩一は億劫になりながら部長に話しかける。
「大丈夫だよ!それにまた家に帰って田中くんに何かあったらそれこそ一大事だし」
この人が部長で本当に良かった。
浩一はしみじみとした思いになる。
しばらく歩くと大きなマンションのようなものが見えてきた。
「ここが今住んでいるところだよ」
部長は指を指してマンションの一室を指差す。
ホールに入り、鍵を回すと入口が開いた。
「うちは10階にあるんだよね」
エレベーターに乗りながら浩一は考える。
「部長ってこんな大きなマンションに住んでいたんだ......」
自分の住む木造アパートと比較すると、風格の違いが際立つように思えた。
チーン
エレベーターが開き、フロアを歩く。
少し進むと、部長が住んでいると思われる部屋が見えてきた。
鍵を開けると、玄関ドアが開く。
「さあ、入って」
部長は、歓迎する様子で浩一を招き入れる。
「し、失礼します......」
浩一は少し戸惑いながらもマンションの一室に足を踏み入れた。
入った途端、中の空気が変わったように感じられた。
なんだろう。
普段からアロマオイルかお香のようなものを炊いているのだろうか。
とても落ち着く香りがする。
リビングへと続く道を進みながら浩一は思った。
「ここがリビングだね。色々と開運関係の道具が多いけど」
部長はリビングを紹介する。
真ん中にはテレビが置かれており、その近くに文字通り、古今東西の開運グッズが丁寧に飾られていた。
「すごい......」
思わず息をのむ。
「まあ、うちの実家が開運関係の会社を経営していてその所以なんだけどね......」
部長は苦笑をしながら言った。
「そうだ。僕の部屋も案内するよ」
部長はリビングから廊下の方へ戻り、壁際にある部屋の扉を開けた。
扉を開けた途端、中からとても良い香りが漂ってきた。
「この香りはなんですか?」
思わず聞いてしまう。
「これはお香だね。心身を清めたり、悪いものを祓ったりするといわれているんだ」
それを見て浩一は思う。
そうか......。
部長もオカルト研究会には入っていてその類いの話もよくしているけど。
その反面、人一倍、自分の身に関しては注意を払っている人だったんだな。
それに引き換え、自分は何も考えず、好奇心のままに『危険な遊び』に手を出してしまった。
何だか後ろめたい気分だ。
そう考えていると、部長が話しかけてくる。
「どうしたの? 入って大丈夫だよ」
「は、はい!」
慌てたように返事をして、部長の部屋に入る。
部屋の中央にはテーブルが置かれていた。
部長に続いて自分もそのテーブルの前に座る。
他人の家にあまり遊びに行った経験がないからだろうか、少し身体が緊張している。
「大丈夫だよ! そんなに緊張しないでいいから!」
部長が苦笑しながら緊張をほぐしてくれる。
「す、すみません」
浩一は照れ隠しをするように言う。
「そうだ。何か飲み物とかお菓子持ってくるよ!」
部長は立ち上がろうとする。
「だ、大丈夫ですよ!」
思わず遠慮してしまう。
「遠慮しなくて大丈夫だから。せっかく来たんだから。色々持ってくるよ」
部長は立ち上がり、キッチンの方へ歩いていった。
「なんか申し訳ないな......」
自分のために部屋に招き入れてくれたことや高級感を感じる部屋の雰囲気からなのだろうか、浩一は更に緊張感をつのらせていた。
「おまたせ!」
少し待っていると、部長が部屋に戻ってきた。
手にはお盆を持っており、そこにはポテトチップスなどのお菓子、ジュース、グラスが置かれていた。
「わざわざすみません!」
やはり、気を遣わずにはいられない。
「そんなかしこまらないで! どんどん食べて大丈夫だから!」
部長はグラスを浩一の前に置き、ジュースを注ぐ。
それから二人は、少しの間談笑をした。
「実はうちの親が売れ残った開運関係のグッズを押し付けてきて困っているんだよ」
部長は笑いながら話す。
「開運グッズって実際効果があったりするんですか?」
浩一は、ふと疑問に思ったことを尋ねる。
「そうだね。お香とかは気分が優れないときに炊くと少し心が落ち着くし、パワーストーンはあったら少しお守りみたいで自信がつく感じはあるよ。だから、ないよりはあったほうがいいと思うよ。」
部長は部屋にある開運グッズを見回しながら返答したのち、唐突に何かを思い出したように話題を切り替える。
「そうだ! 今日は田中くんが悩まされていることについて作戦会議をしにきた訳でもあるよね」
そうだった。
まるで、異世界にきたような部屋の雰囲気で自分もここに来た理由を忘れてしまっていた。
浩一も、改めて真剣な心持ちになる。
部長が再び話し始める。
「とりあえず、田中くん自身はお祓いみたいなものをしてもらうのが一点。アパートについてはすぐに出たほうがいいかもね。お母さんにちゃんと理由を話して、ここは合わないから出たいと伝えるべきだと思うよ」
それを聞いて浩一は、「すごい」と思った。
自分は度々起こる怪異に恐れおののき、何もできずに独りで震えていた。
問題の解決方法も何も思いつかなかったんだ。
その一方で、部長は流れるように解決策を提示してくれた。
やっぱりいざという時に頼れる先輩や友達は持っておくべきだ。
「一応うちでもできることはやるから、深刻にならなくて大丈夫だよ」
部長は浩一を安心させるように言う。
そして、コップに注がれたジュースを一気に飲み干した。
「ありがとうございます......」
本当にありがたい気持ちでいっぱいだ。
なにかお礼をシたいけれど、自分にはできることはないかもしれない。
「そうだ! そういえばホラー映画とか好き?」
唐突に部長が尋ねてくる。
「えっ、まあまあ好きです!」
思わず答える。
「本当!? 実は、うちにホラー映画がたくさんあるんだ。洋画や邦画、ジャンルは問わずいろいろなのがあるんだけど、なかなか見れなくて困っていたんだよね」
部長はそう言いながら、部屋の隅に置かれたボックスをテーブルの上へと持ってきた。
「よいしょっと!」
そのボックスには、ホラー映画のDVDがたくさんつまっていた。
そこからいくつかを部長が取り出す。
「これは、『ロング』。有名なホラー映画だよね。次は......」
部長が取り出したホラー映画のDVDはどれも有名で、ホラー映画初心者にはうってつけのものだった。
浩一自身も、夏休みに見たことがある懐かしい映画を見つけ、感慨深い雰囲気を覚えた。
部長と浩一は二人で意見を出し合い、見たい映画のDVDを選定した。
そして、それらを夜になるまで視聴したのであった。
◆
どれぐらい時間が経っただろうか。
時刻は夜の八時を回っていた。
「そろそろお腹すいてきたな......」
部長は時計を見ながら独り言を言う。
夜ご飯はどうするのだろう。
ふと、浩一は考える。
すると、部長は浩一の方を見ながら言う。
「待ってて、今から夜ご飯を作ってくるから」
もしかして、わざわざ自分のために作ってくれるのだろうか。
浩一はそう思う。
いくらなんでも申し訳ない。
「大丈夫です! 自分はカップラーメンとかでも構わないんで!」
遠慮がちに断ろうとする。
「そんなことないよ! せっかく来てくれたんだし。それに最近は料理にはまっているからこの機会に披露できなきゃ意味がないと思うから。ゆっくり待ってて!」
部長はそう言うとキッチンの方へ足を運ぶ。
そして、信じられないほどの手際の良さで料理を作った。
数分後____。
「おまたせ」
手にお盆を持った部長が浩一のほうへ歩いてきた。
お盆の上には、上品で美味しさが一際目立つ、カルボナーラが入ったお皿が置かれている。
カルボナーラの上には海老が盛り付けられ、その周りにはパセリとバジルが均等に散りばめられていた。
とても香ばしい香りだ。
自然とお腹が鳴る。
見た目もそうだが、自分では到底作れないぐらいの質の高さを感じる。
部長がお皿を浩一の方においてくれた。
浩一は料理に目が釘付けになり、それには気づかない様子だ。
だが、ふと我に返るとあまりの料理の出来に感謝の意を示さずにはいられなかった。
「すみません......こんなに上品な料理を.......!」
まるで会社の取締役に話すようにかしこまった浩一を見て、部長は言う。
「真面目すぎだよ。こんなの誰でも作れるから。さあ、冷えちゃうから早く食べよう!」
部長は、そう言うとフォークを手に持った。
浩一もフォークを手に持ち、二人同時に「いただきます!」と言った。
早速、カルボナーラにフォークを絡ませ、口にゆっくりと運ぶ。
カルボナーラが口に入った途端、あまりのおいしさに飛び上がりそうになった。
やはり、ただのカルボナーラではない。
浩一は、夢中になりながらカルボナーラを口へと運ぶ。
気が付いたときには、皿の上のカルボナーラはすべて無くなっていた。
それを見た部長が「おかわりあるよ」と、キッチンの方を指差す。
浩一はお言葉に甘えて、それらも美味しくいただくことにした。
「ごちそうさまでした」
食べ終わると、部長は口を開いた。
「でも、おいしく食べてくれて本当にうれしいよ。誰かに手料理を振る舞う機会や一緒にご飯を食べる機会なんてなかったし!」
部長の表情はとてもうれしそうで純粋無垢な感じがした。
見ているこっちまで元気になりそうだ。
浩一は温かい雰囲気を覚えた。
「いえいえ、自分も部長の家にこれて本当に良かったです!」
今まで友達とあまり遊んだり、歓談をした経験がなかった浩一はとてもこの時間が楽しくてたまらないように覚えた。
浩一はご飯を作ってくれたお礼に皿洗いを手伝った。
部長はそんな誠実な浩一を見て、より一層好感を覚えた。
次の日の土曜日も、明くる日の日曜日も、二人は明るく、楽しい時間を過ごしていった。
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