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災厄 三

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チュンチュン

鳥の音が聞こえる。

気が付くと既に夜が明けていた。

昨日はどうしていたのだろう。
記憶をたどっていく。

そうだ。
確か悪夢を見て、それから布団の中に駆け込んだんだ。

まだほんのわずかに頭痛のようなものがするが、あまり気にならない程度だった。

時間を確かめようとスマートフォンを探す。

なかなか見つからない。
どこだろうと思い、立ち上がって部屋の中を歩く。

ビシッ!

唐突に何かを踏んづけたような鈍い音がした。

足元を見てみると自分のスマートフォンがあった。
前の事故の後に母親に新しくしてもらったのに、踏んだことも兼ねて画面がバキバキに割れてしまっている。
目を凝らしてみると、割れ目の間からわずかに時間を確認することができた。

画面にはこのように表示されていた。

13:30

時間を見た浩一は驚いた。

今日は必修科目の実習があるのに、開始時間をとっくに過ぎていた。
この実習は一回でも出席しないと単位をとることができないのだ。

「どうすればいいんだよ......」

遅れてでも行くべきなのだろうか。
うちは貧乏な家庭だったのに、もし留年でもしたら母親に厳しく叱られるだろう。

急いでバッグに荷物を詰め、大学に向かおうと家を出る。

「とりあえず、乗り換えを調べるか......」

スマートフォンを片手に、前も見ず歩く。
すると、橋に差し掛かったところで急に肩に強い衝撃を感じた。

ドン!

思わずスマートフォンを落としてしまう。

「痛っ!」

目の前にいたのは強面の老人だった。

「あぶねーな! 気をつけろ、バカヤロー!」

老人は悪態をつき、そのまま通り過ぎていった。

「なんだよ......」

イライラしながらスマートフォンを探す。
だが、見つからない。

今いるのは橋の上だ。
自分の近くを見てみると、橋の欄干が見えた。
欄干には隙間があり、ここから落ちた可能性は高い。

やはりそうだ。
身を乗り出すと、川底に自分のスマートフォンのようなものが見える。

「うそだろ......」

この高さだと流石に拾い上げることはできない。
それに、ここは橋の真ん中だ。
諦めるしかないだろう。

仕方なく駅までの道のりを歩く。
毎日通っていた道だから大丈夫なはずだ。

そう思いながら急ぎ足で一本道を進む。

しばらく進むと交差点のところで工事を行っていた。
気にも留めずにその場を通り過ぎようとしたとき、急に嫌な予感がした。

上を見ると、上にクレーン車が何やら鉄骨の束のようなものをぶら下げている。
その縄は今にも切れそうだ。

自分の直感を信じ、一目散にその場から走り出す。
次の瞬間、鉄骨の束が凄まじい音を立てて真横に落ちてきた。

ガシャーン

鉄骨の束は浩一のすぐ足元に落ちてきた。
あと1秒でも遅かったら下敷きになっていただろう。

「大丈夫ですか!?」

工事現場の作業員の声が聞こえる。
心臓の鼓動が激しく波打っていた。

急いでその場を通り過ぎ、駅の方へ行く。
今は何時何分だろうか。
スマートフォンがないのでいつ電車が来るかわからない。

運行時間を確認しようと電光掲示板の方へ視線を向けると、唐突にアナウンスが聞こえてきた。

「当駅では13時45分に起こった人身事故により運転を見合わせております......」

アナウンスによると、運転再開の目処は立たないようだ。
このままだと実習が終わってしまう。
だが、実習の次も必修の講義がある。

それに遅延のせいで遅れたと講師に説明すれば、少し大目に見てもらえるかもしれない。

浩一はホームで電車を待つことにした。

1時間ほどして電車が動き出した。
電車へ乗り、大学への道を急ぐ。



しばらく進むと、大学の門が見えた。

大学へ行く途中も、浩一は数多くの災難に見舞われた。
階段で足を躓かせて転んだり、人にぶつかられたり、車に轢かれそうになったりと、偶然ではない何者かの力を感じるような巡り合わせであった。

急いで講義室に入るが、既に講義は終了していた。

ため息をつきながら講義室から出ようとすると、唐突に誰かの声が聞こえた。

「おい君! なんで今日講義こなかったんだ!」

主任の山田先生だ。
この人は前々から厳しそうだと直感では思っていたが、こんなところで目をつけられてしまうとは。

「す、すみません。電車が遅延してしまって......」

咄嗟に考えていた言い訳で弁解をする。
しかし、その言い訳は山田先生を余計に苛立たせるだけであった。

「遅延? うちの生徒の中で遅れてきたのは君だけなんだが、そもそもなんで午後の講義なのに今頃に鳴ってくるんだ!? 必修ならもっと1時間前とかにきておくべきじゃないのか?」

山田先生の非の打ち所がない正論に、浩一はひたすら頭を下げることしかできなかった。
けれども、その際に言った発言が誤解を招き、再び山田先生の怒りを買ってしまう。

「そういう思いで来ているのならこの講義を受けなくていい! 単位も渡すつもりはないからな!」

山田先生はそう言い切ると、不機嫌そうな様子でその場を立ち去った。

浩一は微動だにせず、その場に立ち尽くしていた。

「どうしてこうなるんだ......」

ここまで叱られたのはいつぶりだろうか。
少し涙目になっていた。

このまま帰ろう。
そう思い、講義室を出て正門の方角へと向かおうとする。

だが、足取りが重い。
このまま帰ってどうするのだろうか。

スマートフォンだって壊れてしまったし、この運や巡り合わせの悪さだってどうすれば改善できるのかもわからない。

大学の入口の近くで途方に暮れながら、うなだれながらそう考えていたその時だった。
唐突に、誰かから声をかけられる。

「田中くん?」

声がしたほうを振り向く。
そこにいたのはオカルト研究会の部員__逢さんだった。

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