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オカルト研究会
しおりを挟むその後、浩一の家では怪奇現象が収まることはなかった。
浩一の母もノイローゼがひどくなり、別の団地へ引っ越しをせざるを得ない状況になった。
引っ越しをした後は、浩一も危険な儀式や遊びを行うことはしなくなったので、怪奇現象や霊的な現象が起こることはなくなっていった。
浩一自身も、高校二年生以降は進学塾に通い始め、自然とオカルトや危険な儀式のようなものに目を向けることはなくなった。
そして、高校を卒業し、第一志望の大学に合格した浩一は、県外のアパートに一人暮らしをすることになった。
「今日から一人暮らしかー!これで親の目を気にせずにのびのびと生活できる。夜更かしもやり放題だ」
浩一はこれから始まる一人暮らしの生活に胸を弾ませていた。
だが、この時の浩一は、ここからが本当の恐怖の始まりだということを知る由もなかった。
ある日の事、大学の講義が終わると、浩一は一人窓の外を眺めながらぼーっとしていた。
「最近暇だな。サークルに入るか」
浩一は、大学にあるサークルの紹介が書かれたパンフレットを手に取った。
パンフレットを開くと、そこには様々なサークル名と共にその概要が記されていた。
「バスケ部、サッカー部、テニス部......運動系は苦手なんだよな......」
そう言いながら次のページをめくると、そのページには文化系のサークルの一覧が記されていた。
「クイズ研究会、漫画研究会、鉄道研究会......あまりいいのがないな......」
最後のサークルだけ見たらパンフレットを閉じよう、そう考えながらページの右下に目を向けた瞬間ーー浩一の目に、これまでにないほど興味を引くサークル名が飛び込んできた。
そこには、「オカルト研究会」という名前と共に、「オカルト、都市伝説、占いに興味のある人はいませんか? どんなジャンルでも大歓迎!」という説明が記されていた。
「オカルト研究会か......!」
浩一は長らく忘れかけていた情熱が心の中で湧き上がるような、そんな衝動に駆られた気がした。
そして、気付いたときには体が勝手に動き出していた。
「オカルト研究会の部室はどこだ?」
浩一はパンフレットに書かれた部室の場所を便りに校舎を抜け、部室塔の方へと歩いていった。
部室塔の階段を上ると、小さな部室がいくつも並んでいる廊下が目に入ってきた。
その廊下の突き当りをよく見てみると、扉が黒いビニールで覆われ、その近くにお化けや死神のような紙が貼られた部屋が見える。
「もしかして......」
浩一はそう言いながら廊下を進んだ。
予想通り、そこはオカルト研究会の部室だったようだ。
その証拠に、黒いビニール袋で覆われた扉の上を見ると、紫色の画用紙で「オカルト研究会」という文字が作られていた。
浩一は中を確認しようと部室の扉に手をかけた。
ガラガラ――
扉が開く音と共に、顔に生暖かい空気がふわっと流れ込んできた。
部室は浩一が住んでいるアパートの一室と同じぐらいの大きさだった。
机の上を見ると、オカルトや都市伝説に関する本が乱雑に置かれていた。
誰もいないかもしれないが、念のために人がいるかを確認しよう、そう思いながら浩一は大声で呼びかけた。
「すみません。誰かいませんかー?」
だが、部室の中には人のいる気配はない。
電気も点いておらず、そこにはただ薄暗い空間が広がっていた。
「誰もいないのかな......」
その時だった。
部屋の奥から「ガサッ」という物音と一緒に、黒い髪の毛のようなものが見えた。
「えっ......」
浩一はビクッとして、一瞬恐れおののいた。
今のは何だーーわずかな不安が心の中に湧き上がる。
しかし、その不安はすぐになくなった。
「誰......?」
視線の先にいたのは、幽霊ではなく、一人の女子生徒だった。
その髪は肩まで伸び、清楚な印象を感じた。
浩一は一瞬慌てそうになったが、相手が人間だと分かると落ち着いて話し始めた。
「あっ、自分は......人文学部一年の田中浩一です。オカルト研究会に興味があって、ここに来ました......」
すると、女子生徒は落ち着いた様子で話し始めた。
「入部希望の子だね。ちょっと暗いよね。待ってて」
そう言うと、彼女は部室の隅にある電気のスイッチを入れた。
薄暗かった部屋の中が一気に明るくなった。
少し間が空いた後、彼女は話し始めた。
「自己紹介がまだだったね。私は人文学部2年の秋山逢(あきやま あい)って言うの。この部活では副部長をやっているよ」
「秋山さんですね。よろしくお願いします。」
浩一は緊張したように返答した。
そういえば、大学に入って以来全然女の人と話したことがなかったな。
浩一はそう考えると、次に何を話そうかと少し戸惑った様子であった。
「緊張しなくていいよ。今からこのサークルでやっていることを説明するね」
逢はオカルト研究会のパンフレットを取り出すと、浩一の前にそれを見せた。
「まず、このサークルではオカルトとか超常現象、都市伝説、占い、黒魔術とかを研究しているんだ。ちなみに私は占いや黒魔術が好きでよく部室の電気を消して実験しているよ」
「へ、へえ......そうなんですね。」
さっき彼女が部室で行っていたのは、もしかすると黒魔術だったのかもしれない。
そう考えると、さっきそれを間近で目撃してしまった上に、儀式を途中でやめてしまったのは大丈夫なのだろうか。
「あっ、でもさっきやっていたのは、このアロマキャンドルを試しに点けていただけだから気にしなくて大丈夫だよ」
そう言うと、逢はお化けのイラストが描かれたアロマキャンドルを見せた。
「他にも部員が4人いて、私の他に女子が1人と男子が3人かな。浩一くんと同じ学年の子もいるから馴染みやすいと思うよ。ちなみに、他の男子の部員は、UFOとか怪談、ひとりかくれんぼに興味があったりするね」
「本当ですか!?」
浩一は、自分と同じような趣向を持つ生徒がいることを知り、親近感を覚えた。
「たぶん、そろそろ来るはずかな」
逢がそう言うと、ちょうどその言葉を聞いていたかのように一人の男子生徒が部室に入ってきた。
「お疲れ」
その生徒は髪が短く、眼鏡をかけており、どちらかというとあまり活発そうではない印象を感じた。
「あれ、この人は入部希望?」
「興味があって見学しに来たみたい。」
逢と男子生徒の会話が少し続き、一人取り残された浩一は、少し気まずいような気持ちになった。
すると、男子生徒が浩一の方へ振り向いた。
「自分は、3年の長岡雄二(ながおか ゆうじ)っていうんだ。ここでは部長をやっているよ。もしこのサークルに入ったらその時はよろしく」
「自分は、田中浩一っていいます。どうもよろしくお願いします」
浩一は丁寧に自己紹介をした。
「そんなかしこまらなくていいよ。普通に話して大丈夫だから」
「は、はい」
「まあ、ここの部活はオカルト研究会って言っても、オカルト関連の事を話し合ったり、適当にそれ関連の本とかを読んだりしかしてないかな。時々占いとか黒魔術とかもやろうとしたりはするけどそこまで危ないことはしないから大丈夫だよ。もし興味があったら入部してみて」
雄二は浩一に落ち着いた様子で説明をし、サークルの説明が書かれた紙を渡した。
「よろしくお願いします」
「まあ、こんな感じかな。今日はあまり部員来ないかもしれないから、明日また来た方がいいかもね」
「わかりました。では、これで失礼します」
そう言うと、浩一は部室を後にした。
「オカルト研究会か......部員の人もいい人そうだったし、なんか入ってみたくなったなあ......」
浩一は新たなサークルへの出会いに心を躍らせていた。
◇
次の日、浩一はサークルで渡された紙を再び見た。
「とりあえず、入部してみるか」
オカルト研究部のある部室まで行ってみると、何やら騒がしいような声が聞こえた。
「失礼します」
浩一が扉を開けると、部室の中には男子生徒が3人と女子生徒が1人いた。
秋山さんと長岡さん、それに見ない顔の男子生徒が2人だ。
「あっ、昨日の子だね」
雄二は浩一に気づくと、すぐに他の部員にも紹介をした。
「この子が昨日の入部希望の子だよ」
「あっ、よろしく」
「よろしく......」
残りの2人の男子生徒は初めて見る顔だった。
一人は明るい雰囲気だが、最後に挨拶をしてきたもう一人は根暗な印象だ。
「よろしくお願いします」
浩一は丁寧に挨拶をすると、雄二に話しかけた。
「すみません。自分もこのサークルに入部して大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。この入部用紙に学年と名前を書けば大丈夫だね」
雄二はそう言うと、「入部届」と書かれた紙と近くにあったペンを浩一の前に差し出した。
「はい」
その時、浩一は大事なことを聞き忘れていたことに気づいた。
「そういえば、費用などはこのサークルだとどれぐらいかかるんですか?」
すると、雄二は朗らかな顔で言った。
「サークル費用に関しても特に学外での活動以外はかからないから大丈夫だよ」
「わかりました。では、これでお願いします」
「はい、じゃあこれからもよろしく。そうだ、残りの部員も一応彼に紹介しないとな」
雄二がそう言うと、その横に座っている男子生徒が浩一の方を見た。
「俺は、社会学部2年の佐藤影夫(さとう かげお)っていうんだ。よろしく」
そして、影夫の横にいる根暗な感じの生徒も自己紹介を始めた。
「自分は、人文学部1年の鈴木幽也(すずきゆうや)といいます.....」
「よろしくお願いします」
「だから、かしこまらなくていいよ。今日からここの部員だからリラックスして大丈夫だから」
雄二は苦笑いをしながら言った。
「はい。ところで今日はどんなことをやるんですか?」
「特にやることはないけど、もし今までオカルト的な経験とかあったら一緒に話してみるのもいいかもね。まあ、立ってるのもあれだし、ここに座っていいよ」
雄二は、浩一の近くにある机の椅子を指差した。
「あっ、はい」
浩一は椅子を引いてそこに腰掛けた。
浩一が腰かけると雄二が最も聞きたいと考えていた質問をした。
「田中くんは今まで何かオカルトとか心霊的な経験はしたことはある?」
「はい。あります」
浩一はこれまでに「こっくりさん」や「さとるくん」、「チャーリーゲーム」、「生き人形遊び」をした事、そして、その結果起こった怪奇現象などを順を追って説明した。
それを聞いていた他の部員達も、話が進む中でその内容に興味を示していった。
「田中くんすごいね。そんなに怪奇現象って起こるものなんだ」
逢が浩一に言う。
「まあ、結構『やってはいけない儀式とか遊び』ってそういうの起こりやすいのかもしれないですね」
浩一は少し照れくさそうに言う。
あまり話したことがない女の子に自分の話について興味を持ってもらえたことに、少しばかりうれしさと恥ずかしさのようなものを感じていた。
すると、それを聞いていた影夫も口を開いた。
「俺も怪奇現象的な経験少しあるんだけど、話しても大丈夫かな」
「はい!」
浩一は興味津々に返答をする。
自分以外で怪奇現象に遭遇した事のある人の話はとても新鮮であったからだ。
「ネットで調べたら普通に出てくるんだけど、五芒星とその真ん中に『飽きた』って文字を紙に書いて、それを枕の下に敷くやつがあるんだよ」
「はい」
「それを試しにやってみた訳だよ。確か俺が1年の時だけど。そしたら、夜に金縛りが止まらなくなって、俺の横を黒い人影のようなものが横切ったんだよ。俺怖くて仕方なかったよ」
「何それ。こわい!」
逢は影夫の話を軽く怖がっている様子だった。
オカルト研究部の部員といってもやはり怖いものは怖いんだなと浩一は思った。
それと同時に、インターネットを調べると自分がまだ知らない「やってはいけない遊びや儀式」がたくさんあるのだなとも考えていた。
その日は、各部員の恐怖体験や占いやおまじないの話を聞いてサークル活動が終了した。
浩一にとっては一日だけでも多すぎる情報量だった。
家に帰ると、浩一は部員達から聞いた「やってはいけない遊びや儀式」をインターネットで調べ尽くした。
だが、以前にも実家で怪奇現象が止まらなくなり、引っ越しを余儀なくされたこともあったので、今回は見るだけにとどめておくことにした。
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