小さなベイビー、大きな野望

春子

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虫の知らせ(4)

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ダグラスの言いつけにより、リーサたちは、お部屋から出れない。
しかも、大人のお話があるようで、子供は、聞いたらいけないらしい。
「大人のお話、きらーい。」
「ねー!つまんないよ。ん?メロ。おめめ、どうしたの?」
メロは、ギョロギョロと目を動かせ、ニヤッとしている。
「あ!メロ、お外、見てるの?いいなあ。」
「何を見てるの?ダグラスおじいちゃん?」
キャッキャッ。
二人が押し込められている部屋には、他にも、マッキー達がいる。もちろん、親たちの話し合いの参加はなし。
スペンサーが、盗聴器を仕込む。
トニーと作った試作品ではあるが、小さなてんとう虫のような形。
「よし、行け。」
「聞こえるのか、それ?」 
「任せろ。」
操縦機で操る。リーサ達だけでなく、下の子たちは、問答無用で、部屋での待機を命じられた。
「やめろよ。見つかるぜ?」
ジャッキーは、一応止めた。あのダグラスが、気づかないはずも無いし、その前に、使用人に気づかれる可能性が高い。
「ネフィ、行くなよ。ロクサスにキレられる。」
「ねえ。おかしくない?なんで僕はだめで、ナギは良いわけ?」
「胸に手を当ててみろよ。お前、リーサをダシに使いすぎ。
妥当な判断だろ。あ、これうまい。おかわり貰えるかな。」
ドライフルーツを齧りながら、ジャッキーは、ネフィルに告げる。
「ロクサスがいなきゃ、お前、そんな自由に動けないだろ。フランツ叔父上の怒りを買いたくないだろう。」
「なんでそこで、フランツ叔父上が出てくるんだ。」
「フランツ叔父上は、父さんのように甘くないから。」
フランツが甘さを見せるのは、兄や妹、あと、リーサぐらいだろう。
ネフィルが手を焼かせると判断したら、フランツは、容赦なく、甥であろうと、扱くはずだ。
味方につけば、最強であるが、敵に回れば、最恐な存在。
「フランツ叔父上は、かつて、キングブレストにいた曲者揃いを捻じ伏せた人だ。ネフィなんか、赤ちゃんを捻るように簡単だろ。」
「フランツ叔父上をバカにしたからだろ?」
「望まれて、行った矢先の、扱い方だよ。閉鎖的な場所で鬱屈した思いを抱いて、燻ってた輩が、ここぞとばかりに、フランツ叔父上に集った。リリーエおばあ様の耳に入らなかっただけ、マシだぜ。ツェリおば様は、荒れるし、父さんは怒り狂うし。フランツ叔父上が一掃になるって、嬉々として、〆たから事なきを終えただけ。忘れるなよ。フランツ叔父上は、離れてても、わかるぞ。」
「フランツ叔父上の扱きなんて、受けたくないよ。」
肩を竦める。フランツの軽い扱きを受けたことがあるのは、スペンサーである。あまりの悪戯っぷりに、フランツが軽いお灸を据えた。
他の兄弟も恐怖で、フランツに逆らわないことを決めている。
「お!聞こえる。」 
ガチャガチャと操作するスペンサーに聞き耳を立てる双子。




メロは、兄であるの目を通して、屋敷をを見ていた。
ロッシュヴォーク一家が揃っているから、警戒してる者とここぞとばかりに、手を出す輩と分かれている。
前者は、ダグラスにより、手を出してこないなら、見逃せと言われ、後者は、容赦なく、潰せと言われている。
ナイルの目を通して、わかる情報を、メロは、ダグラスに教えている。
本体ではない使役を飛ばしている何かを発見。
悪意に満ちた黒々しい魔力の物体を放ったのは、ロッシュヴォークと敵対している者の術だ。
コルルに対して、卑劣な術を幾度なく、放つ、馬鹿である。
メロはケラケラ笑う。性懲りもなく、やってくる阿呆を成敗するのは、メロの役目である。
「ケタケタ…。」
「メロ?どこ行くの?」
「メロだけ、ズルい!」
すくっと立ち上がり、メロは、頭を揺らしながら、壁をすり抜け、外に出ていく。
リーサとアルミンは、メロがどっか行っちゃったねと目を見合わせる。



ナイルは、目を閉じた。メロが、侵入者を成敗しに向かったのだ。もう問題ない。
隣には、スイレンが佇み、手を握っている。
ナイルとスイレンは、敷地内から出れない。故に、術者に向かって、制裁を行うことは出来ないが、敷地内に入ってきた敵には、手を出せる。
ロッシュヴォークには、借りがある。
自分達の聖域を守ってくれる代わりに、ロッシュヴォークの敵になる者を排除する。対等な関係性。
メロは、自分にとって、かわいい弟で、生まれて来た頃から、大事な弟。
メロは、母の腹に入ってきた頃から、他と違った。
身に宿らせている魔力が、あまりにも膨大であり、母の腹は神秘的な程の光を放っていた。
当時、長老は、一族の中でも一番の実力者になり、一族を守る戦士になるだろうと言っていた。
皮肉にも、そのメロによって、壊滅に陥った訳だが、それは、仕方ない。
幼いメロを戦士にしようと持て囃す両親も周りも、吐き気がした。メロはまだ幼い子だったのに。幼い子に刃物を持たすのか、生き物の急所を教えるバカが何処にいる。
本来は、優しい子のメロを、歪ませた奴らが憎い。
増幅した憎しみは成長する度に、己を縛った。
それを浄化させるのは、スイレンとメロ自身。
リーベルと誓約を交わした時に、ロッシュヴォーク家を守る事が決まった。
長きに渡り、ダグラスが当主になってからも。
ダグラスは、メロを、うまく使っている。
メロを相手に差し向ける時には、相手の最終通告の時だ。
悪意的な魔法を行う連中に、術返しだけでなく、メロの残虐性を味あわせる。
「ナイル。メロは、何もわかってない子ではない。自分に出来る精一杯のことをしてる。まあ…ちょっと、残虐性を持ってるのは、否めないが。」
「…。」
知ってる。あの子は、本当に強い子だって。メロがあの時、誰よりも攻撃をしたのは、長老と俺達に手を出した奴らに、両親だ。
あれらの魂は、成仏する前に、魂ごと、粉々に砕け散り、無に返った。誰にも供われることも思い出されることもないまま。
ナイルは、スイレンとともに、ダグラスの元に向かう。





「でー。…ナイル?」
話し合いに入ってきたナイルとスイレンの姿に、ダグラスは、口を閉じる。
あまり、姿を現さない二人の姿に、驚く面々。
ナイルは、指で何かを弾いた。
それは、小さなてんとう虫である。
『…それは、スペンサーが仕込んだ盗聴器だ。』
「スペンサー…。」
盗聴器の仕込みがバレ、あっちでは、やべえと、慌てふためいている。
『あの女の信者が動いた。メロが向かってる。妖精王を怒らせたバカだ。』
「…性懲りもなく。命を削られただけじゃあ、バカは治らんか。マルクス、落ち着け。その信者とやらは、検討がついてる。メロが向かった。地の果てまでも追い詰める。」
『妖精王とやらの元にリーサやアルミンの友がいるのだろう。教えてやれ。お前の孫娘を傷つけた奴が現れたって。』
「妖精王がこちらに降りてくるならば、相当な事だ。荒れるぞ。」
妖精王はかつて、孫娘を、とある馬鹿に傷つけられた。
妖精にとって、大事な綺麗な髪を切られたのだ。嫁入り前だったのだ。髪を切られた悲しさから、孫娘は、しばらく、外に出れなかった。当時、国際問題では済まされない大事件に発展し、怒り狂った妖精王は、主犯の命とその主犯に命じた女を罰した。
「メロが戻るまで館に戻れ。」
『メロが戻るまで、ここにいても問題ない。』
「…驚いた。どうした。」
『俺のかわいい弟を差し向けたんだ。』
『…メロが奴の元に行くのをナイルは心配してるんだ。』
スイレンが口をはさむ。
『あの女、変な魔力を感じる。嫌な感じだ。ナイルの目を通して、見たけど、不愉快な感じだ。…ガルガンズが反応したろ。』
「カール、リーサの様子を見てこい。」
「御意。」
カールは、リーサの元へ向かう。



「何だか、お腹がもぞもぞするぞ?」
「お腹痛いの?」
リーサは、お腹がもぞもぞすると違和感を覚える。
「ねえ、リーサ、ガルガンズが、反応してるよ。《ガルガンズ、何してるの?だめだよ。リーサの体の中で暴れたら。》」
んー?とリーサは体を揺らしている。
アルミン達の側に静かにいたアイシャが、口を開く。
「ー来る!」
「アイシャが喋った!!」
驚愕する従兄弟たち。
リーサの意識が薄まって、ガルガンズが表に出てきた。





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