小さなベイビー、大きな野望

春子

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魔法瓶

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魔法瓶と言う鍋があり、主に、薬などを作ったりする代物で、学校で習う。
初等部5年の時に、必須科目として、習うのだ。
専用のお鍋を買ってもらい、ちょっとした通過儀礼である。
4年までは、火や刃物を使うことは、錬金術科でなければ、基本、やらせない。
「魔法瓶、欲しいよね!」
「ねー。スペンサーのお鍋を触らせて貰ったことがあるよ!でも、直ぐにめっ。て言われた。」
「ナイフでさ、ザクザク、葉っぱを切るんでしょ?こうさ、ぽいぽいしてさ?」
「グツグツ、煮るんだよ!」
おままごとキッチンで遊ぶ二人は、キャッキャ。
火も刃物も一切合切、近寄ってはいけない、使用してはならないとキツく、言われてる二人。
「トニーのお鍋からさ、すごい色の泥が出来たんだよ!トニーのままが、怒ってた!」
「何を作ってたの?」
「んーとね、刺激玉。」
鼻を殺られるほどの強烈な悪臭を放つ程の代物で、流石に、温厚だと言われてるトニーの父親が、拳骨を浴びさせていた。何故なら、部屋中に、臭いが取れなかったのだ。一週間。ちなみに側にいたスペンサーとリーサの体に染み付いてしまい、フィルが絶叫した。
「ままは、古狸に浴びせなさいって言ってたあ。」
「デヴィット?避けるんじゃないの?素早そうだよ?」
「リーサもお鼻が治るのに、ちょっとかかったよ!」
「えー!」
リーサは嗅覚が鋭い。鼻がもげたんじゃないかと、心配した。ちなみに、作業中は、マスクをつけていたが、対抗出来なかった。無念。
「こうさ、よく、フラスコ?ってやつにさ、振るうじゃない?なんかカッコイイ!」
「知ってる。じいっと中身を見るんだよね!」
キャーキャーする二人とは裏腹に、数年後、訪れるその課題の未来図を想像しているフィルは、この二人に、あの授業を受けさせなければ、いけないのかと心配をした。
まだナイフや包丁などを使わせたことはないし、火も、大人が、いなければ、やらせたりしない。
眼の前には、豪快に、おままごとの野菜をたたっ斬るリーサと必要以上にかき混ぜているアルミンに一抹の不安を感じてしまう。
「ねーねー。アルミン、そのお鍋は何を作ってるの?」
「ごった煮。」
アルミン、ごった煮は、ほぼ、野菜がメインだと思うの。何故、魚が入ってるのかしら?
ベイビー、そんな豪快に、お鍋に放り込まなくても良いのよ?
「リーサのお鍋はなーに?」
「えっとね!混沌。」 
「混沌ってなーに?」
「知らなーい!」
キャーキャー!!
アイシャがやってきた。おままごと参戦。
「フィル、どうしたの?」
コルルが近づいてきた。
「ええ。ちょっと未来を想像して、ちょっと不安だわ。ベイビーたちは、“調合”の授業を5年で受けるじゃない…。」
「…気を落とすには、まだ早いわ。ほら、ツェリやカイヤも受けてきたのよ?大丈夫だわ。」
あの二人に刃物を持たせてはいけない。過保護に育てられた二人ももちろん、受けた。
しかし、二人の成績は、他の科目に比べて、悪かった。
何故なら、材料を切ることが、困難であり、先生の介助が必須。火加減も難しかったらしい。
二人はひたすら、おかしいわ?と首をかしげ、何とか、やっていた。
決して、不真面目にやってるわけでもなく、本人達は、真面目にやってるので、先生もそこは、認めていた。
「リーサ、お鍋欲しいなあ。」
「アルミンも。」
大人ぽい。



スペンサーが自由研究の為に、使用しているお鍋を興味津々に見つめる要注意人物二人。
やらかす為、後ろに、カールがいる。
「手突っ込むなよ?火傷するからな。」
「うん!」
薬草のような匂いがする。
それとなく、カールが危ないものを排除していく。
「湿布みたいな匂い。」
「ハッカ入れてるから。ここまでが、基本中の基本。これから応用編だ!!」
「スペンサー様、それで十分かと思われます。」
控えめに話すカールの話は聞いてない。
「いいか、リーサ、アルミン!!開発に大事なのは!?」
「想像力!」
キリッ!
「俺の見立てでは、このシースルハッカを足すと、もっと効果が増すような気がする!」
シースルハッカとは、普通のハッカの倍以上の効果を持ち合わせているが、ただ一つ。大怪我や大火傷等の治療に使用されてるので、あながち、間違いではない。間違いではないが、普通のハッカとシースルハッカを混ぜてはいけない。
「よし、ふたりとも、入れろ!」
「はーい!」
ぽちゃぽちゃ、沈んでいくシースルハッカ。カールが悩んでいるが、そんなカールに気づかない。
鍋の中が炭酸のように、パチパチ、跳ねている。
「んー?清涼剤も入れておくか?香りは大事だって、言ってたし?レモンがいいかな。」
「入れよう入れよう。」
スペンサーが5年の時に、この調合の科目を受ける際、フィルは、頭を抱えていた。
やらねば、ならないので、もちろん、鍋を与えたが、何分、スペンサーはこの調合の科目が好きである。
そして、奇天烈な物を作るのだ。
忘れもしない、その様を見せるんだと張り切ったスペンサーは、両親の前で、作り、本来ならただのポーションの筈だったのに、こうした方がいいと、安易に入れたものが、地獄絵図を生み出した。
咄嗟に、マルクスが、止めたが、大惨事一歩手前である。
ポーションが何故、しびれ薬になるのか。
両親は習った材料以外は使用禁止だと口酸っぱく言うが、スペンサーは、めげない。




「んーと、まあわかるよ。でも、シースルハッカと普通のハッカを混ぜるとね。効能が効きすぎるんだよ。反発しあってしまってね。スペンサーには可哀想だけど、使用は不可かな。」
スペンサーの理解者。サラトガが、困り顔で言う。
「えー!」
「自由研究だからね。結果を知るのは大事だよ。それをレポートに書いてみたら。」 
「スペンサーの、失敗したの?」
「成功じゃないの?だってさ、変な匂いも倒れもしてないしさ?」
「世の中には、掛け合わせてはいけないのがあるんだよ。」
サラトガは、充分、優しく、三人を諭している。
「まあ!良いか!宿題一個、片付くし。まだまだ、やりたいことはあるし。」
前向きに捉えるスペンサーに、そうだねとサラトガが言う。
「サラトガ、やめて頂戴な。スペンサーを甘やかすのは。」
一連のやり取りを見ていたツェリは、ため息をつく。
背後にフィルがいるのに気づいてないのね。スペンサー。

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