小さなベイビー、大きな野望

春子

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フランツからの便り

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メイドが手紙を持ってきた。
手紙には、蝋で溶かした印が押されており、そのマークが、気高き黒馬が封蝋されたもの…フランツからだ。
「フランツからだ。」
デニエルは、手紙の封を大事に切る。


親愛なる父上、母上へ 

今年もまた夏日が続き、暑い日が続いております。
お二人が、体を参らせないか、心配しております。
キングブレストにいると、夏の暑さなど、関係がないほど、暑さに無縁な場所にいるので、少しでも、涼やかな気持ちになればと、贈らせて頂きます。
恥ずかしながら、近々、バタバタと忙しく、遅くなりました。気に入って頂ければ、幸いです。
兄上たちも、来ている頃合いでしょう。
ささやかながらも、そちらも贈らせて頂いたので、よろしくおねがいします。

           あなたの息子
           フランツ



デニエルは、その手紙に細工がされているのに気づいており、解読の術を施す。
魔力を目に宿すように集めて、見つめると、文面が変わる。


浮かび上がるフランツからの報告だ。



親愛なる父上、母上へ

スヴェラータの害虫共が、羽虫を唸らせているようで、忌々しく、此度、キングブレストに態々、嫌味を言いに来た愚かな連中は、この私が対処したことを報告致します。
オリマージュから一切、出てこないといいと願いつつ、ため息を尽きながらも、あのようなバカどもから、多少、溢れた話では、あの阿呆の信者共が動いてる様子。
奴がいるのは、このキングブレストの地下深くに、封印されてるにも関わらず…愚かはいつまでも治らないようです。
ああ…一部のバカがリーサをキングブレストに寄越すなど世迷い言を申しましたので、つい、シメてしまい…お恥ずかしい限りです。
滑稽で忌々しい奴らは、小さなリーサが怖いのだそうです。なんと器の小ささだと鼻で嘲笑ってしまうほど。
リーサは忘れている位、幼い頃にやり返された程度で、情けないと思いますが… 
知らせを寄越しましたが、あちらの方にも知らせを送りました。おそらくは大丈夫でしょう。
私も監視を強めますが、何分、阿呆の考えは、何が起きるかわかりません。用心をしておいて、損はないでしょう。
ああ…それから最後に。
アレックス叔父上の怒りが収まってないようです。
当たり前の事ですが。
禁術の証拠を隠滅しようとするなど、バカのやることです。アレックス叔父上が隠居された事を甘く見てるようですが、そんな甘さなど、ないと、尽力をしてくれています。ええ。致し方ありません。どうせ、バレるような真似をする輩がいけないのですが…デヴィットが出て、手打ちにするでしょう。
もしかしたら、アレックス叔父上の制裁を止めるように、母上に使者を放つやもしれません。
もしくは、かわいいツェリを刺激するかもしれません。
盟約があるとはいえ、調子に乗ってるようならば、この私が始末をつけます。

           あなたの息子
           フランツ



「忌々しいね。」
デニエルは愛しい息子からの手紙に眉をひそめる。
リチャードは、静かに佇み、次の命令を待つ。
「リチャード…我が家に要らぬ虫が入ってきたみたいだ。害虫駆除を頼んだよ。など刺されたら、大変だからね。」
「かしこまりました。旦那様。」
「こっちはリリーエに見せられる内容だから、見せなきゃね。ああ。これが?涼やかな。」
手紙とと共に贈られてきたものに、感嘆を溢す。



「フランツおじちゃんからお手紙?いいなあ。なんて書いてあったの?」
デニエルにまとわりつきながら、聞くリーサ。
「これはどうやって作られたものかしら。細かい魔法陣。」
「これは複雑な…。」
魔法陣が彫られている黒壇の対になる扇子。
淑女らしい繊細な作りをしている扇子は優雅で、仰げば、涼やかな風が優しく吹く。
対して、もう一つの扇子は、手持ちがしっかりしていて、一振りすれば、冷却効果が強い。
リリーエは、嬉しそうに、扇子を開いては、仰ぐ。
「珍しいお菓子だね。へえ。触ると周りが溶けるんだね。もちもちとしたお餅のような食感。」
大勢いる甥っ子達の為に、届けられたお菓子。
キングブレスト周辺でしか、作られていない貴重なお菓子で、カチンコチンに凍った餅をスプーンか指で触ると、溶け出し、つるんとした餅のお菓子が、出てくる。
その餅をそのまま、食べてもよし。炙ってもよし。焼いて焦げ目をつけてもいいし、スープの具に入れても構わない。
「フランツおじちゃん、寂しい?って?」
「気軽に会えればいいんだけどね。」
フランツのいるキングブレストは、遠く、一々、黙らせなければならない連中を黙らせてからではないと行けないのだ。
恐ろしくて、キングブレストに入れない愚かな連中め。

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