小さなベイビー、大きな野望

春子

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ハルベルのお姫様

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ハルベル三兄弟は、かなり有名で、兄弟仲がかなり良く、三兄弟の悪口を言ってはならない。バカにしてはならない。幼い子でさえ、知ってる。
長男マルクスは、ハルベルの当主で、兄弟一、穏やか。弟と妹を溺愛しており、誰がなんと言おうとも、二人は、可愛くて、自慢の兄弟だと述べる。弟からは尊敬され、あのような穏やかな人はいないと言われており、妹のツェツリーエからは、最高な兄だと、言わしめてる。
次男、フランツは、生まれつき、多量の魔力を保持していて、魔法の才能があった。訳あって、いまは、魔法省に所属し、北の山にある"キングブレスト"と言う、年中、吹雪が舞う雪山に建つ収監の看守長を務めている。脱獄不可の険しい山でその山に生息している生物たちは生き抜くために、かなり強い。歴代の看守長の中でもスバ抜けた魔力で、威厳のある人。泣く子も黙り、道をあけ、かなりの悪人でも、彼の前では、大人しくなる。
兄からは、可愛い弟で、責任感が強く、優しい子だから、あのような苛烈な土地に、無理難題を押し付けられても、仕事をこなしてるのだと熱弁。妹は、フランツは、高潔で立派な人、優しくて、フランツを追いやった魔法省の奴等は、絶対、許さないわ!と息巻いてる。
そして、末っ子のツェツリーエ。唯一の女の子であり、二人の兄から、溺愛されて、育った。
美少女でもあり、良からぬ輩は、兄二人が裏から手を回していたが、ツェツリーエ自体、強かった。特に雷属性に適正が高く、気に入らない魔法省に幾度なく、稲妻をおとしては、嵐を呼び、使者をビンタし、兄たちが宥めなければ、大惨事である。
ちなみに兄二人は、魔法省に、可愛い妹の駄々ではないか。何をそう責め立てる?と取り合わなかった。
ツェツリーエが結婚しても、兄二人の扱い方は変わらなかった。


「あなたたち、用意なさい。」
双子はげっと眉をひそめる。ツェリの買い物は長い。総じて、女性は長いものではあるが、ツェリは一際、長いのだ。
「えー!サラトガおじさんと行きなよ。」
「お黙り。」
ピシャリ。
甥でも、容赦しない。甥からの立場からしたら、甘やかされたツェリの付き添いは、兄弟同士で擦り合いになるぐらい、嫌である。
「あなたたちもお兄様のような立派な紳士になるために、エスコートぐらい、スマートに出来るようになりなさい!」
「えー…。荷物持ちじゃん。」
「別に…紳士になりたいなんて言ってない。」
「なんですって?」
ぼそぼそ言う双子に、ツェリは一言。
双子は何でもありません!と直立不動。
「リーサ!!リーサ!!!来い!」
リーサは、フィルに甘えていたが、双子に呼ばれ、なーにと寄ってくる。
「お前もいくぞ。」
「どこにいくの?」
「ツェリおば様の買い物。」
「ままの買い物??まま、ゼネラルタのケーキ食べてもいい??」
「飽きたとかもうやだとか言わないならね。」
「うん!」
よし!と双子はハイタッチ。
リーサさえ、一緒に来れば、なんとかなる。



ツェリ御用達。
高級感のある質の良いオーダーメイド専門店。
"ベルベット・モア"
カランと入店する知らせが鳴り、店員が寄ってくる。ツェリは慣れたように、欲しいものを伝える。
「リーサ。勝手に品物を触らないのよ?」
「うん!」
「ツェリ様。よくいらっしゃいました。ちょうど、ご連絡しようかと思っていていたんです。かなりおすすめの品を手に入れまして。さあ。奥にどうぞ。」
「あら。見せて。ついてきなさい。」
店主がニコニコ顔で、ツェリたちを奥の部屋まで連れていく。
「とあるオークションで手に入れましてね。さる冒険者がダンジョンで取られた貴重価値のあるあのダイアモンドスパイダーの糸で作られたドレスです。この滑らかな質感に、うっとりするこの出来映え。…。」
うんたらかんたら…。双子の目は遠い。リーサは聞いておらず、母の膝に頭を乗せながら、あくびしてる。ツェリは真剣に聞いてる。

「ありがとうございました!」
見送る店主。げっそりしてる双子。ウキウキのツェリ。ケーキの事で頭が一杯なリーサ。
「素敵だわ。次は鞄を見に行くわ。小さめの鞄が欲しいのよね。出来れば、エナメル・スネークの皮で出来たやつがほしいわ。」
「まだ行くのかよ…。」
「早く終われ…。」
「何にしようかな。カボチャケーキ?あ。でもチョコもいいなあ。栗のもいいし。」
それぞれ、顔つきが違う。


何店舗が巡り、さすがにリーサがわめいた。
「飽きたあ!足が痛い!喉渇いたあ!」
「うるさいわ。リーサ。しょうがない子ね。もう。また行きたいお店があるのに。」
「やだやだ。お茶するんだい!!」
頑張れ。リーサ!!!と双子は、従姉妹にエール。
ツェリが折れて、カフェに向かう。

足が棒だし、腕はパンパン。すべては、ツェリの買い物によるものだ。
席に座れて、ほっ。レモンティーをゴクゴク。
一緒に頼んだイチゴタルトを頬張る。
ツェリはハーブティーに今日のケーキで日替わりのブルーベリーチーズケーキを頼み、リーサは、コーラと迷いに迷って、カボチャケーキ。
「目は肥えていて、損はないのよ!触れて、見て、知識を蓄える。何にたいしても通じるものだわ。」
「その前に気力と体力が削がれる。」
「体力ないわね。」
エスコートのやり方もビシビシとツェリに叩き込まれる。兄二人は当たり前に出来るし、サラトガもスマートにこなす。
リーサが不意に、横を向いた。
「あ!」
そちらに目が向く。ツェリが買ったたくさんの買い物袋のひとつを強奪する窃盗犯。
双子が目を見開く。
「ダメ!!」
リーサの抵抗では、遅すぎる。犯人は脱兎のごとく、逃げる。最早、出口に差し掛かろうとしたが、そんなうまいこといかない。何故ならば、ツェリがいるからだ。
「私のものを盗もうなんて、生意気だわ?」
素早く移動したツェリによる拘束。微弱だが、電流を長し、攻撃する。
その際、買い物袋が落ちた。
「よく見なさい!あなたが盗んだから、私の買い物袋が床に落ちたじゃないの!いい気分で買い物をしたのに、最低な行為で私の気持ちを害したわ!責任取りなさい!」
「まま。その人、お口から泡吹いてる。」
「ツェリおば様。落ち着いて。ほら、警備員、来るから。」
「中身、大丈夫だよ!」
締めすぎて、気を失う犯人。怒りが収まらないツェリ。宥める双子。リーサはツンツンと犯人を触る。
警備員がこの店からの要請で来たが、ツェリの姿を見て、顔がひきつる。
「ツェツリーエ様。お怪我はありませんか。」
「ないわ!これが、私の買い物袋を盗もうとした犯人よ!いまは意識ないけれど!ふん。小物風情の癖に。」
「ツェリおば様。落ち着いて。」
警備員は、引き摺りながら、連れていく。
「まま、ケーキ食べようよ!」
呑気に、母の服の裾を引っ張る。
「そうね!むしゃくしゃしたら、取り敢えず、糖分だわ!」
席に戻る。双子はほっ。


「ツェリ。聞いたよ!大丈夫だった?」
「問題ないわ。お兄様。」
マルクスはその事件を聞いて、居たたまれず、帰宅後にツェリに詳細を聞いた。
「誰も怪我はなかったわ。中身も無事だったし!」
「怖い思いをしたね。」
可哀想にと慰める父に、双子は、いやいや、ツェリは犯人にやり返してるよ。犯人はバカだよ。バカだけど、まさかああなるとはついぞ、思わなかったはずだ。
「そこでね!ままがね!見えないスピードでね!犯人をね!!」
ヒーローのように語るリーサは、フィルやサラトガに自慢気に話してる。
「か弱いツェリを狙うなんて!」
憤慨するマルクス。
遠目をする双子。
ツェリは、お兄様大丈夫よ!と安心するように、言葉を紡ぐ。

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