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番外編

1.もう1人の異世界人

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(アヒンサイド)

今迄こんなに忌々しいと思った人間はいただろうか?ライアスの母に殺されそうになった時でさえこんなに目障りで憎いと思った事はない。

目の前のこいつが憎い。そんな私の思いが伝わったのだろうか?何よ。と威嚇してくる女。だが目の奥には怯えが垣間見えた。
先日私がこいつの手首を落としたからだろう。三葉の手前あれだけにしたが本来なら1番太い首を落としていた。

手首を落としたのが遂10日前。その間塩らしくしていたかと思ったが従者の話だと出されたご飯に飛びついてお代わりまで要求して来ていたらしい。どこまでも図太い女だ。

「早く私を出しなさいよ」
「何故?」
「何故って私は聖女候補で三葉の姉よ?ここに入れられてるのはおかしいわ!」
頭が痛い。

「はぁ。お前が犯した罪も理解していないんだな」
「罪?ライアス様の婚約者面してるあの女との事?だとしたら私は何も悪い事してないわ!ライアス様には私の方が合ってる。それを言っただけなのに馬鹿にした様に笑われたからちょっと触っただけじゃない。そしたらあの女騒ぎ立てて私の事地面に倒して腕を捻ったのよ?私に向かってそんな事するなんて…ここに入るべきなのはあの女よ!!」
この女は本当に頭がおかしい様だ。ちょっと触ろうとしただけとは女が奇声をあげて殴りかかる事を言うのか?サーシャのした事は立派な正当防衛だ。

「ライアスにお前の方が似合ってる?という根拠は?」
「根拠?聖女は王子と結ばれる運命だからよ」
さも当然とばかりに言う女。
「それでは根拠にはならない、それにお前は聖女ではない」
「はあ!?私に聖なる力があるのは事実よ?あんただって私の力を頼りにしてたじゃない」
三葉が城から追い出された後、こいつの力を借りた事があった。確かに聖なる力は認められたが三葉と比べて純度が悪くて遅い。そもそもこいつの力を借りたのもライアスに虚偽の報告をして三葉を追い出したこいつの所為だ。

「お前の力は後天的な力だ。異世界から転移した影響で聖力が開花したのだろう。だが、元々聖なる力を持っていた三葉には遠く及ばなかった様だな」
「私があいつより劣ってるとでも言うの?」
「ああ」
凄い形相で睨みつけてくる女を冷ややかに見下す。

「お前が三葉より優っている事など何一つない」
「ふざけないで!王子だからって何でも言っていい訳じゃないでしょ!?ここから出たら私の事を侮辱した罪であんたをここにぶち込んでやる」
どうやって私を入れる気なのだろうか?自分にそんな権限があると思っているのだろうか?そもそも王族が罪を犯した場合の留置所はこんな所じゃない。

「それは楽しみだな。まあお前が明日もここに居られればの話だがな」
「どう言う意味よ?」
ガシャんと檻を掴み身を乗り出してくる。
「そのままの意味だ。今日お前に処罰を下す」
「ちょ!私聞いてないわよ!?」
「何故お前に事前に伝えなきゃいけない?」
頭が悪くてイライラしてくる。キーキーその後も私に向けて罵詈雑言を吐き捨てて来たが全く耳に入らない。私は無視して処刑に使う魔法陣の準備を進める。

「処刑って何よ?私殺されるの!?ふざけないで!!ごめんなさいっ謝るから!だから殺さないでっ」
怒ったり謝ったり忙しい。更には泣き始めた。女子供の涙には多少心動かされる事があるがこいつの涙には一切心が揺れない。

「ちょっと!聞いてるの!?三葉連れて来てよ!ねぇ!家族なんだから最後くらいいいでしょ!?ちょっと!アヒン殿下っ!お願いっ」
「家族?よくお前がそんなセリフ吐けるな?生憎三葉は遠征中だ」
だからこの日を処刑に選んだ。三葉はあんな事をされたのにこの間手首を切断したのも綺麗に治してしまう程のお人好しだ。今回もそれが狙いだろう。三葉は気づいてない。こいつが三葉に見えてない所で治療後ほくそ笑んでいたと言う事に。三葉がいない日を選んだのはもう一つ理由がある。単純にこれ以上冷酷な姿を三葉には見せたくなかったからだ。普段なら会えない時間があるのは辛いが今日に限っては有難い。

「嫌よ!私は最後に三葉に挨拶してからが良いわ!お願いっアヒン殿下っ」
今迄散々人に楯突いていた癖に今はうるうるした目で縋ってくる。こんな分かりやすい態度に騙された家臣達が情けない。一度家臣達の見直しが必要だな。
私は無視して描き続ける。間も無くして魔法陣を描き終えた。

「最後に言い残す事はあるか?」
「嫌よ…本当に?私死ぬの?」
「それが最後の言葉で良いか?」
「違う!!あの…えと…殺さないで…私何でもするから…お願い…します…」
徐に服を脱ぎ始めた女に益々頭が痛くなる。下着姿になった女が胸を寄せてお願いとまた言ってくる。豊満な胸が下着から溢れ出そうだ。

「私に色仕掛けしてるつもりか?」
「三葉には内緒にしてあげる…」
一歩近づいた私に小声で呟き微笑む。
「きゃぁぁぁぁ!?」
顔スレスレに閃光を放つと遅れて理解した女が奇声を上げた。
「あんた、私を殺す気!?」
閃光が着地した壁に穴が開いてるのを見ながら私に発狂してくる。

「お前の処刑内容を通達する」
私の言葉にびくっと体を揺らした女がゆっくりとこちらを振り返った。怖い癖に興味はあるらしい。








(ジョルビナサイド)
俺は朝から最高にイライラしている。その元凶であるオモール国第一王子 アヒン ジ オモールが目の前で感情が読めない顔でニコニコと微笑んでいる。通信機で相手の姿を写し出しているだけなので一発殴れないのがまた癪だ。

「てめぇ、やってくれたな?」
「何の事でしょう?」
「惚けるんじゃねぇ」
俺が隠しもしてない怒りを露わにしているがこいつには効いてないらしい。

「昨日の夜、変なが俺の国に落ちて来た」
「変なモノ?そんな話を聞くほど私も暇ではないのですが」
こいつ、一々棘があるな。まだミツバに手を出してた事を根に持ってるのか?

「それがどうやらお前の国のモノらしい」
「私の国の?」
「あんな高度な魔法陣を組めるのはお前しかいねーだろ。まさか、異世界人を飛ばしてくるなんてな」
そう。昨日の夜、いきなり空に現れた魔法陣から人が落ちて来たと部下から報告があった。部下が保護した人は黒髪の女で何故か下着姿だった。混乱した女の口からアヒンの名前やミツバの名前が聞き出せた事でそいつがミツバと共に召喚された異世界人だと理解した。勿論、一度会った事があるモルダミとトーリにも見せ2人からの証言も貰っている。

「無事到着した様で良かったです」
白々しい言葉に胡乱な目を向ける。
「それで?」
本題を促す。
「実はジョルビナ陛下におりいってお願いがあるのです」
「願い?」
「ええ。そいつは我が国で大罪を犯した人間です。ですが聖女の召喚の際に巻き込まれ、誤って召喚された哀れな人間なのです。うちも召喚した手前、直接手を下す事が出来ず困っております。幸い、召喚された影響で後天的な聖力が開花し本物の聖女よりは劣りますが雀の涙程度には役に立つ事もありましょう。どうかそちらで処分して頂けないでしょうか?」
「正直に言え。お前が直接手を下せない訳ないだろ?ミツバに嫌われたくないから俺に押し付けたとな」
「理解が早くて助かります」
にこっと今日1番の笑顔を向けられる。

「ふざけるな!俺だってミツバに嫌われたくない!」
婚約したと言え直ぐに恋心が消える訳ではない。
「諦めろ。三葉は私のだ」
「おい口調戻ってるぞ?」
「失礼しました」
白々しい。こいつの敬語は何処までも白々しい。

「ミツバもこちらに渡せ」
「無理です」
「じゃー定期的に会わせろ」
「無理です」
「お前交渉した事ねーのか?これのどこが取引になるんだよ!?俺にいい事全然ねーじゃねーか!」
自分がミツバに嫌われたくないからとオモール国から遠いツワニヤ国に飛ばして厄介者を押し付けただけじゃないか。

「分かりました…年に1回聖女様をそちらの国へ向かわせましょう」
「1ヶ月に1回だ」
「10ヶ月に1回で」
「3ヶ月に1回だ」
「…半年に1回で」
「よし!交渉成立だな」
本当は毎日会いたい位だが引き際も大事だろう。こいつに臍を曲げられてはミツバに一生会えない事もあり得るからな半年に1回でも会えるのは好都合だ。

「こんな形でジョルを頼る事になりすまない」
「ふん。俺はお前と取引をしただけだ。罪人はこちらで上手く活用させて頂く」
ありがとうございます。とアヒンは礼を言うと通信機を切った。

「さて、お前ら話は聞いてたな?後は任せた」
後ろに控えていたモルダミとトーリを仰ぎ見ると2人ともすごく嫌そうな顔をしていた。

「主人~あの女話通じないんですよ~?どうする気ですか~?」
「私が処分しましょうか?」
トーリが一切表情を変えず申し出る。
「殺しはしない」
「ではどうする気で?」
「竜の契約を使い、抵抗できない様にし無償で人々の治療に専念をさせろ。それとあいつは騎士寮に住まわせろ」
「それは何とも…」
「何だ?不満があるのか?」
「いえ、仰せのままに」
モルダミは片膝を着き頭を下げた。

「下がれ」
「「はっ」」
モルダミとトーリが下がった後、机の上にあった罪人の報告書をゴミ箱に捨てた。

騎士達の統率の為にも多少の慰みは必要だろう。
半年後が楽しみだ。




end
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