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4.ツワニヤ国

7.

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どうしよう。あの一件以来ジョル様の顔をまともに見れなくて避ける様になってしまった。何だかんだ王様の仕事が忙しいジョル様とは3日会わずに済んでいる。
一国の王様に対して失礼な態度だとは分かっているんだけど、最後に言われた言葉がどうしても恥ずかしくて会えない。

「よお~坊主~」
「モルダミさん」
今日もモルダミさんがダルそうに絡んできた。最初に会った時の紳士なモルダミ団長は最早見る影もない。まあそのギャップが下に慕われる要因の一つなんだろう。

「暇か?」
「ええ、何もする事はないですね」
こちらに来てから何もする事がなくて城を歩き回っている日々が続いていた。そろそろ何かやらして欲しい。

「じゃ~出かけようぜ」
「良いんですか!」
ウキウキとモルダミ団長について竜の停留所に行く。
いつ見ても大きい竜にお~と声が漏れてしまう。その中でも立派な竜が既に待機しており俺を俵抱きにしたモルダミ団長が一っ飛びで竜の背中に乗った。

「どこに行くんですか?」
ウキウキとモルダミ団長に声をかける。
「今日はちょっと遠出だな」
「楽しみです」
「よし、じゃ~楽しんで来いよ~」
と言うとモルダミ団長は俺を1人残して地面に降り立った。

「えっ!モルダミさん!?」
俺はパニックだ。この高さから自力で降りる事は出来ない。どうすればいんだ!?
「待たせた」
1人パニックになっていた所今度は別の人物が竜の背中に飛び乗って来た。
「ジョル様っ!?」
数日間避けていた人物がいきなり現れたので声が裏返った。
今日はお出かけ用なのかいつもより軽装だ。またそれも似合っている。
「さ、出発するぞ」
「え?あっはい。宜しくお願いします」








「怒ってるか?」
出発してからお互い会話はしていなかったがジョル様が声をかけて来た。

「怒る?何に対してですか?」
「こんな騙し打ちみたいな事をした事だ」
「正直びっくりしました…けど、俺の方が失礼な態度だったので…逆に怒られてないか不安です」
肩越しにチラッとジョル様を盗み見る。

「ふっ、俺の事避けてた事か?」
「っ…はい…」
そんなにズバリと言われると恥ずかしい。
「別に怒ってなんてない。少し退屈だったがな」
「退屈…」
この人俺の反応を見て楽しんでるだけなんじゃ…?聖女がもう1人いた事も知っていたのに黙ってたしな。あの時言われた言葉も俺の反応を楽しむために言っただけだったのかもしれない。何だそれ…そしたら俺馬鹿みたいじゃん。
呆れて肩の力が抜けた。

「ジョル様、俺帰りたい場所があるんです」
「保護された教会か?」
そこまで知ってるのか…この人に隠し事は出来なさそうだ。
「そうです。必ず生きて帰ると約束したんです。だから俺を帰してくれませんか?」
「そうだな…考えとく」
思った通りの返事じゃなくて少しため息を吐く。

「そんな落ち込むな。俺はお前を手放したくないだけだ」
客観的に見れば確かに手放したくはないだろう。聖女の力を持った者がこの世界に2人しかいないのだ。その内の1人美優さんは召喚国であるオモール国が保護しもう1人の俺は新和国で保護されれば国としての関係も丸く収まる。それに力が劣ると言われている俺がこちらにいる事で召喚国のオモールの威厳も保たれる。
つまりジョル様の言葉は一国の主人としての責任ある言葉。何の私情もない。






「見えて来たぞ」
暫く空の旅を楽しんでいると小さな集落が見えて来た。山に囲われた中にひっそりとあるその集落に今日は用事があるらしい。

「降りるぞ」
集落の広場だろうか?少し開けた場所に竜が着地すると村人達が竜を囲む様に集まって来ていた。
俺をひょいと横抱きにかかえると地面に飛び降りた。

「お~久しぶりだな~ジョルビナ」
「久しぶり皆んな、元気にしてた?」
「お前のおかげで元気だよ」
凄く親しい間柄みたいだ。何人かとハグしては屈託なく笑顔を見せている。

「そちらは?」
「偉い別嬪さんだな~」
「ジョルビナの嫁か?」
「黒髪黒目だ…伝説の聖女様みたい」
村人達の声がチラホラ聞こえて来て小っ恥ずかしい。

「俺の大切な客人だ」
「三葉と言います。初めまして」
意外だ。聖女の事言わないんだ…
「ジョルビナの客人ならわしらの客人でもあるな。さっ、疲れただろ?こっちで休みな」
「お姉ちゃんこっちだよ!ぼくがあんないしてあげる!」
小さい男の子が俺の手を握ると誘導してくれた。
「ありがとう」
お姉ちゃんじゃないけどという言葉を飲み込んで男の子について行った。
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