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3.隣国戦争

8.

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「焦らずこちらへ移動して下さーい!」

テントをたて終わった騎士達と共に村人達の避難誘導に来た。村人達は、皆不安そうな顔でこちらを見てくる。中には騎士に縋りつき村の安全を祈る者、憤りをぶつける者など様々な行動が見られた。

「おい、お前」
後ろから中年のおじさんに声を掛けられた。はい、何でしょう?と答えると腕の中で眠っているホワイトを指差して騒ぎ始めた。

「これから戦争だっていうのにペットなんか連れてきてるんじゃねーよ!それで俺達の事守れんのかよっ」

おじさんの怒鳴り声に避難している村人や騎士達が何事かとこちらをちらちら見てくる。

「大体てめーら、王都住みはどーせ贅沢してんだろ?俺達に少しは恵んでくれよ」
おらと手を差し出される。
「これは何の手でしょうか?」
「あ?決まってんだろ?金だよ。金よこせ」

この光景を見ていた人達がざわめきだす。またあいつ変な事やってるよという囁きが聞こえた為、この村でも変わり者なのかもしれない。

「すいません。今手持ちがないので」
「あ?だったらその小綺麗な顔使って体売って来いよ。騎士様なら俺達国民に尽くせよ」

腕の中にいるホワイトがうう~と牙を剥き出しにして唸り始めた。

「なんだ?やんのか犬っころ?」
噛んでみろよとホワイトの前に腕を出し挑発してくる。

「おじさんはいくつか勘違いをされている様ですね」
「あ?何がだよ」
「まず俺はこんな格好をしていますが正式な誇り高き騎士ではありません。魔法師でもありません。まだまだ未熟な人間です。そんな俺が何でここにいるかと言うとこの国の…いえアヒン殿下の為にここにいるのです」
「はっ、じゃーお前はただの一般人って事かよ」
「そうかもしれませんね」
「ふざけんな!これから戦争だっていうのに何でてめーみたいな無力なガキがここにいるんだよ!王都は国は、王族達はやっぱり俺達を見放したんだ!!」
「貴様、口を慎め!!」

近くで聞いていた騎士が剣を抜き男に刃を向けた。

「それ以上言ったら王族侮辱罪にあたるぞ!」
「ひっ!そうやってお前達は弱い者を脅すんだな!俺達は何もやってないだろっ」

ここまで騒いどいて何を言っているのだと騎士は思った。そしてこのまま収まりがつかなければ処罰をしなくてはならないなとも。

「騎士様、お待ち下さい」
「戦争が間近に迫りこの方は動転されているのだと思います。どうかその剣を納めて貰えないでしょうか?」
「王族を批判したこいつを見逃せと言うのか」
「そうです」
「なっ!ふざけているのか、貴様は!?」

思えばアヒン殿下のお気に入りだと言うこの綺麗な男がこんな戦場に来る事自体俺は反対だったのだ。聖女候補だなんだと周りは囃し立てているがこいつもライアス殿下を侮辱したとかで城を追い出されたと言うではないか。本当の聖女の力は姉の美優様にある為、こいつは見せしめとして戦場に送られたのだと皆んな噂している。村人の避難誘導すらまともに出来ないとは使えない奴だ。だが王族が決めたことに俺が口を出せる筈もない。この騒ぎに乗じて始末してしまおうか?

「巻き込まれたくなかったら下がっていろ」
「嫌です」

俺にびびって縮こまっている男を庇う様に立ち俺に対面してくる。その目に迷いはない。

「その剣をしまって下さい。皆怖がっています」

周りをみると怯えた様子でこちらを伺う村人達がいた。皆恐怖を感じている様だ。これではどちらが悪者か分からない。

「騎士様が今剣を向けるべき相手は国民ではない筈です」
「…………」

生意気なガキだと思った。一振りすれば遠くまで吹っ飛ばされそうな体のくせに騎士団長を任せられている俺の殺気に怖気つかず真っ直ぐとこちらを見据え喋ってくる。
だがこいつの言っている事も一理あり。ここで騒ぎを起こすのも良くないと思い剣を鞘にしまった。

「死ぬかとおもった…。王都住みの奴らは恐ろしい」
「恐ろしいのはあなたの方です」
「あ?なんだてめぇ喧嘩売ってんのか?」
「はは。あなたさっきから何をそんなに焦ってるんですか?」
「焦ってる?何の事だ?」
「その胸にある呪い…痛そうですね?」

服の上からでも分かる黒い禍々しい呪いの渦が三葉には
男の目が泳ぐ。

「何訳わかんない事言ってんだ。お前」
「あれ?さっきので分かると思ったんですけど…その胸にある呪いは直接心臓に繋がっている様ですね。貴方を従わせる為に掛けられた呪いなのではないですか?先程からここで騒ぎ立てているのは、内乱を起こしつけ入る隙を大きくする為」
「何をデタラメを…」
「じゃあ、その服脱いで下さい」
「ふざけんな!これ以上俺から奪うな」
「話の途中ですまないが、お前はさっきから何を言ってるんだ?」

剣を納めた騎士が声を掛けてきた。この状況に理解が追いついていない様だ。

「つまりこの方はスパイという事です」
「っ!」
「なっ!」

男が北の国に向かって全速力で走り出した。

「待てっ!」
騎士が男を追って走る。
「ホワイト、お願いあの人捕まえてきて?」

ホワイトを地面に下ろしお願いするとホワイトはこくんと頷き元のサイズに戻った。そして一っ飛びで男の元まで飛ぶと背中から飛び乗った。男は地面に突っ伏しホワイトに乗られ身動きが出来なくなった様だ。

「やめろ、はなせっ!どけ!この化け物!!」
わーわーと男が騒いでいる。
「何事だっ」

凛と響く声があたりに響き渡った。先程までの喧騒が嘘の様にしんと静まる。声の主はやはりアヒン殿下で、皆跪き頭を垂れた。

「ハイセン、状況説明しろ」
先程剣を抜いた騎士に殿下が命令するとはっとよく通る声で答えた。

「この男がスパイである可能性があり捕まえた所でございます」
「その根拠は?」
「それは…」

言い淀むハイセンに珍しいとアヒンは思った。今気づいたが男を抑えているのはいつも三葉の近くにいる聖獣じゃないか。ふっと辺りを見回すと黒髪が目についた。やはり三葉もいた。

「アヒン殿下、発言をお許し下さい」
「話してみろ」
三葉が発言権を乞うと殿下よりお許しを頂けた。

「この男の胸には呪いの力が掛けられています。その事からスパイではないかと疑うと急に走り出したのでホワイトに捉えてもらったのです」
「成る程。その男を本部へ連れて行け」

近くにいた騎士に命じるとホワイトの下敷きになっている男は引き摺り出された。

「嫌だ嫌だ嫌だ。痛い苦しい殺される。死ぬ、俺は死ぬのか!?嫌だ、誰か助けてくれぇぇぇぇ」
男が発狂し始めた。
「俺が楽にしてあげましょうか」

発狂しながら三葉の横を通り過ぎようとしていた男に声をかけるとぴたと止まった。

「助けてくれんのか!?」
「はい。殿下のお許しがあればですが」
「許可する。ただし命が尽きぬ程度にだ」
「畏まりました」

三葉は殿下からお許しを頂けたので深く頭を下げてから立ち上がった。両脇を騎士に抱えられ身動きが取れない男の胸の前に手を差し出す。そして集中力を高める為目を瞑り手に力を集約させた。男の胸に白い光の粒が集まる。周りから息を呑む音が聞こえた。少しすると白い光の粒が段々と消え始め治療が終わったのだと理解する。

「痛くない。あんなに痛かったのに…」

男が信じられないと目を見張っていた。そして三葉の事を見てありがとう。ありがとうと呟いた。騎士達に連れられていく間もずっと出来る限り三葉を見続けありがとうと感謝の気持ちを伝えてくれた。
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