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2.城下町での暮らし
9.
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「はあ?」
コーナンさんの発言にヨハンさんが思いっきり顔を歪める。黙っていればイケメンなのに勿体ない。
「戻す方法はあるんですか?」
「聖女様だったら」
聖女という言葉にドキとする。
「ばっかじゃないの?本当に召喚されたかどうかも分からない聖女に頼ろうって!?」
「いる筈だ」
「はぁ?その根拠は?聖女が召喚されたらお披露目式がある筈だろ?ないって事は召喚されてないのか失敗したって事だろ?」
失敗…確かにその言葉は間違っていない。俺と美優さんはまだ力が安定してなくて一人前の聖女とは言い難い。こんなんでは国民に晒す事も出来ない。
「じーさんがいると言っていた」
主祭様が?
「じーちゃんが?そしたらいるのか…?」
え、主祭様の言葉なら聞くんだ…2人の疑う様子のないその言動に少し驚く。
2人の中で主祭様の言葉は絶対らしい。
「グルルルル」
それまで黙っていた黒い生き物がいきなり唸り出した。
「大丈夫か!?」
生き物は何かにうなされている様だ。凄く辛そうで可哀想に見えて来る。2人の会話からしてまだこの生き物は魔物ではないらしい。ただ限りなく魔物に近いという事は魔物になりかけているのかもしれない。
余りにも苦しそうなので俺も側による。すると生き物は俺に凄い威嚇し始めた。コーナンさんの比ではない。
「ほらみっちゃん危ないよ」
今にも齧りつかれそうだ。
コーナンさんが頭や体を撫でてあげるが一向によくなる気配はない。
「もうそいつは助からない。諦めろコーナン」
「せめて最後までいさせてくれ」
余程愛着があったのか生き物から離れようとしない。
「呆れた。そいつが魔物に完全に堕ちる前に殺してやるのがお前の役目じゃないの?」
「っ」
「良い。お前がやらないなら僕が殺す」
どっから出したのかヨハンさんの手にはナイフが握られていた。本気で殺す様だ。その殺気を感じ取ったのか生き物はヨハンさんを睨み威嚇している。
「僕を食べたくて仕方ないって顔だな」
「グルルルル」
「やめろっヨハン」
「そこをどいてコーナン」
「グルルルル」
「どかないなら怪我してもしらないよ」
ヨハンさんがナイフを上に振り上げる。そのままコーナンさん越しに刺し殺す気だ。
「おい落ち着けっ」
コーナンさんに匿われている生き物も今すぐヨハンさんに飛びつきそうでコーナンさんが一生懸命抑えている。
ナイフが振り下ろされる瞬間、俺の体は無意識にコーナンさんを守る様にヨハンさんの目の前に飛び出していた。
刺されると思った瞬間後ろから衝撃が走った。後ろからの衝撃で前に吹っ飛び生き物の下敷きになりメガネが吹っ飛んだ。
「~~いっつ」
全身が痛い。特に右肩が痛い。右肩を見るように振り返ると黒い生き物が俺の肩に齧りついていた。鋭い牙から俺のだろう赤い血が見える。
「みっちゃん!」
「三葉!」
2人が俺から生き物を退けようとしてくれるが俺の肩に更に牙をたててくる為上手く剥がせない。
生き物は何故か苦しそうだ。ああ、そういう事か…
「お前ずっと苦しかったんだな」
今ならよく視える。
「ちょっと重いからどいてくれないか?」
生き物は俺の言葉が分かるのか少し体を浮かせてくれた。その隙間を利用して仰向けに転がるとおいでと生き物を抱き寄せた。
「みっちゃん!?」
何してるんだという顔で2人がこちらを見ているのが生き物越しで見える。今はそんな2人に構っている余裕はなくて目の前の生き物を思いっきり抱きしめた。
何故か目の前の生き物が泣いている様に思えたのだ。
「どうか俺にお前のその苦しみを解放させてくれ」
これは暗示の様なものだ。俺の未知で不安定な力にどうかと願い苦しそうな目の前の生き物の鼻にキスをした。
「きゃうっ」
生き物が情けない声を出すと森がざわめき始め強風が俺達の元を駆け抜けた。あまりの強さに生き物を胸に抱え込み目をつぶってやり過ごした。
良かった。上に乗ってくれてなかったら俺は飛ばされていたかもしれない。
「えっ?」
安堵しながら目を開けると知らない生き物がいた。
「キャウ」
さっきまで真っ黒な大きな生き物が俺に乗っかっていたのに今は真っ白…否、白銀に光る立派な毛並みを持った生き物が俺の上にいるのだ。そして嬉しそうに尻尾を振りながら俺の顔をべろべろと舐めて来る。
「信じられない…」
ヨハンさんが凄い間抜け…驚いた顔でこちらを見ている。驚いていないで早く俺の上からこの生き物を退けて欲しい。
「今何をしたんだ?」
コーナンさんが俺を生き物の下から引っ張り出してくれた。
何って言われても見たまんまの事だ。まさか上手くいくとは思わなかったけど。
「さあ?強風が吹いて目を開けたらこうなってました」
「嘘はよくないよ。みっちゃん」
「ああ。三葉が魔物堕ちから救ったんだろ?魔素がなくなっている」
ああ2人は誤魔化せそうにないな。
「黙っててすいません。実は俺…………聖女召喚の儀式で召喚された内の1人なんです」
「「っ!?」」
2人は目を見開き驚いて声が出ない様だ。
「待って待って待って、頭が追いつかない。みっちゃんが聖女様って事?それで魔物堕ちし掛けていたこの生き物を救ったって?何で聖女様がここにいるの?それに内の1人って何?」
1人いち早く復活したヨハンさんが今度は矢継ぎ早に質問してきた。普段の彼からは信じられない程のノンブレスで早口だ。
「俺の素性を全てお話しします」
コーナンさんの発言にヨハンさんが思いっきり顔を歪める。黙っていればイケメンなのに勿体ない。
「戻す方法はあるんですか?」
「聖女様だったら」
聖女という言葉にドキとする。
「ばっかじゃないの?本当に召喚されたかどうかも分からない聖女に頼ろうって!?」
「いる筈だ」
「はぁ?その根拠は?聖女が召喚されたらお披露目式がある筈だろ?ないって事は召喚されてないのか失敗したって事だろ?」
失敗…確かにその言葉は間違っていない。俺と美優さんはまだ力が安定してなくて一人前の聖女とは言い難い。こんなんでは国民に晒す事も出来ない。
「じーさんがいると言っていた」
主祭様が?
「じーちゃんが?そしたらいるのか…?」
え、主祭様の言葉なら聞くんだ…2人の疑う様子のないその言動に少し驚く。
2人の中で主祭様の言葉は絶対らしい。
「グルルルル」
それまで黙っていた黒い生き物がいきなり唸り出した。
「大丈夫か!?」
生き物は何かにうなされている様だ。凄く辛そうで可哀想に見えて来る。2人の会話からしてまだこの生き物は魔物ではないらしい。ただ限りなく魔物に近いという事は魔物になりかけているのかもしれない。
余りにも苦しそうなので俺も側による。すると生き物は俺に凄い威嚇し始めた。コーナンさんの比ではない。
「ほらみっちゃん危ないよ」
今にも齧りつかれそうだ。
コーナンさんが頭や体を撫でてあげるが一向によくなる気配はない。
「もうそいつは助からない。諦めろコーナン」
「せめて最後までいさせてくれ」
余程愛着があったのか生き物から離れようとしない。
「呆れた。そいつが魔物に完全に堕ちる前に殺してやるのがお前の役目じゃないの?」
「っ」
「良い。お前がやらないなら僕が殺す」
どっから出したのかヨハンさんの手にはナイフが握られていた。本気で殺す様だ。その殺気を感じ取ったのか生き物はヨハンさんを睨み威嚇している。
「僕を食べたくて仕方ないって顔だな」
「グルルルル」
「やめろっヨハン」
「そこをどいてコーナン」
「グルルルル」
「どかないなら怪我してもしらないよ」
ヨハンさんがナイフを上に振り上げる。そのままコーナンさん越しに刺し殺す気だ。
「おい落ち着けっ」
コーナンさんに匿われている生き物も今すぐヨハンさんに飛びつきそうでコーナンさんが一生懸命抑えている。
ナイフが振り下ろされる瞬間、俺の体は無意識にコーナンさんを守る様にヨハンさんの目の前に飛び出していた。
刺されると思った瞬間後ろから衝撃が走った。後ろからの衝撃で前に吹っ飛び生き物の下敷きになりメガネが吹っ飛んだ。
「~~いっつ」
全身が痛い。特に右肩が痛い。右肩を見るように振り返ると黒い生き物が俺の肩に齧りついていた。鋭い牙から俺のだろう赤い血が見える。
「みっちゃん!」
「三葉!」
2人が俺から生き物を退けようとしてくれるが俺の肩に更に牙をたててくる為上手く剥がせない。
生き物は何故か苦しそうだ。ああ、そういう事か…
「お前ずっと苦しかったんだな」
今ならよく視える。
「ちょっと重いからどいてくれないか?」
生き物は俺の言葉が分かるのか少し体を浮かせてくれた。その隙間を利用して仰向けに転がるとおいでと生き物を抱き寄せた。
「みっちゃん!?」
何してるんだという顔で2人がこちらを見ているのが生き物越しで見える。今はそんな2人に構っている余裕はなくて目の前の生き物を思いっきり抱きしめた。
何故か目の前の生き物が泣いている様に思えたのだ。
「どうか俺にお前のその苦しみを解放させてくれ」
これは暗示の様なものだ。俺の未知で不安定な力にどうかと願い苦しそうな目の前の生き物の鼻にキスをした。
「きゃうっ」
生き物が情けない声を出すと森がざわめき始め強風が俺達の元を駆け抜けた。あまりの強さに生き物を胸に抱え込み目をつぶってやり過ごした。
良かった。上に乗ってくれてなかったら俺は飛ばされていたかもしれない。
「えっ?」
安堵しながら目を開けると知らない生き物がいた。
「キャウ」
さっきまで真っ黒な大きな生き物が俺に乗っかっていたのに今は真っ白…否、白銀に光る立派な毛並みを持った生き物が俺の上にいるのだ。そして嬉しそうに尻尾を振りながら俺の顔をべろべろと舐めて来る。
「信じられない…」
ヨハンさんが凄い間抜け…驚いた顔でこちらを見ている。驚いていないで早く俺の上からこの生き物を退けて欲しい。
「今何をしたんだ?」
コーナンさんが俺を生き物の下から引っ張り出してくれた。
何って言われても見たまんまの事だ。まさか上手くいくとは思わなかったけど。
「さあ?強風が吹いて目を開けたらこうなってました」
「嘘はよくないよ。みっちゃん」
「ああ。三葉が魔物堕ちから救ったんだろ?魔素がなくなっている」
ああ2人は誤魔化せそうにないな。
「黙っててすいません。実は俺…………聖女召喚の儀式で召喚された内の1人なんです」
「「っ!?」」
2人は目を見開き驚いて声が出ない様だ。
「待って待って待って、頭が追いつかない。みっちゃんが聖女様って事?それで魔物堕ちし掛けていたこの生き物を救ったって?何で聖女様がここにいるの?それに内の1人って何?」
1人いち早く復活したヨハンさんが今度は矢継ぎ早に質問してきた。普段の彼からは信じられない程のノンブレスで早口だ。
「俺の素性を全てお話しします」
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