シノビと盗賊少女

海王星型惑星

文字の大きさ
上 下
8 / 10
プロローグと序

紅蓮

しおりを挟む
シルヴィアが立ち上がったことは、理源にとって完全に予想外の出来事であった。


本気と言いつつ加減はしたものの、あの一撃は喰らえば通常の人間ならしばらく立ち上がる事はできない程だった。


それだけではなかった。


シルヴィアの様子も違う。


(笑ってやがる...?)


不敵な笑みを浮かべ、がっ、と目を見開き、理源をまっすぐ見つめるその瞳には、赤い炎が宿っている。


目の色が変わったのは、外傷のせいなのだろうか。


                            ‼︎!


次の瞬間、ナイフを構えたシルヴィアが理源の目と鼻の先の距離まで突っ込んできた!


「っ⁉︎」


予想外の動きに思わず後ろに飛び退く。


しかし地面を力強く蹴り、シルヴィアは喰らいつくように理源に向かってくる。


接近したシルヴィアは、逃げに徹しようとした先程とは対照的に、ナイフで理源を四、五回切りつける。


風を切る音が耳元をかすめるのを感じながら、理源はすぐさま平常心を取り戻し、加速する斬撃を紙一重で避けていく。



そしてシルヴィアが理源の喉元を突き刺そうと大きく踏み込み、ナイフを突き出した瞬間、一転して反撃に出た。


前方に傾けた上体と重心、伸び切った腕、そしてガラ空きとなった胴部。


一歩も下がることなく上体だけ反らして突きを回避し、リーチの長い脚でシルヴィアの腹に蹴りを入れる。


ヂッと激しく擦れる音と同時にシルヴィアは右方に蹴り飛ばされた。
数回転がり、壁に当たって止まった。


(こいつ...殺しに来やがったな...!)


先程から感じている、まるで別人のようなシルヴィアの動きに対する疑念は更に深まった。



(なぜ今のに反応できる?)


威力の乗らない体勢での蹴りではあったが、シルヴィアを一撃で昏倒させるには充分であった。


加えて隙の大きい攻撃を狙ったカウンターはタイミングも含めて的確だった。


ただの活発な少女に過ぎないシルヴィアでは反応すら出来ないはずだ。


(こいつには...)


ダメージを極力まで軽減したシルヴィアはすぐに立ち上がり、再びナイフを構えた。


(何が見えてやがる...?)


先程と似た形で、再びシルヴィアが突進してくる。


しかし先程と違うのはその速さだ。


「ッッッ‼︎‼︎‼︎」


更に数段速くなった斬撃を、またもやすんでのところでかわしていく。


(どこまで速くなんだよっ‼︎)


理源も徐々にギアを上げていくが、シルヴィアは理源が避けた先まで刃を振りかざす。


まるで初めから理源がそこに来ると分かっているかのようだった。


(しょうがねえなっ!)


やや体勢を低くし、斬撃をかわした理源は刈り込むような足払いをシルヴィアの脚に繰り出す。


しかしシルヴィアは攻撃の真っ最中であったにも関わらず、飛び上がりそれを避ける。


だか少し遅れたようだ。


わずかに両者の脚が接触し、シルヴィアは空中でバランスを崩す。


その隙を理源は見逃さなかった。


シルヴィアの懐へ飛び込み、距離を詰めると、倒れかけたシルヴィアを支える形で右腕を掴んだ。



緊迫した空気の流れる小さな通りにわずかな静寂が訪れた。


「30...過ぎちまった」


シルヴィアが我を取り戻し、元の状態に戻った。


「えっ...もう...?」


理源はいぶかしむような目つきでシルヴィアを見つめていたが、やがて手を離すと、大きなため息をつく。


「しょうがねえ、約束は約束だ」


シルヴィアの顔がぱっ、と輝く。


「ホントか⁉︎ほんとに本当か⁉︎」


「ただし、命の保証はしねえぞ。いいんだな⁉︎」


「おう!任せとけ‼︎」


シルヴィアは自慢げに胸を張った。


「凄かったわシルヴィア!まるで別人みたい!」


2人が抱き合って喜びを分かち合ったあと、セレーネはシルヴィアの瞳を見つめながら優しく言った。


「判断はあなたに任せるけど、酷い怪我をする前に帰ってきてね。何かあってからじゃ遅いから」


「うん...分かった。ありがと!」

シルヴィアはこくりと頷いた。


セレーネは理源に向き直って頭を下げた。


「それでは理源さん、シルヴィアをよろしくお願いします」


「任せといて下さい」


(ほんとこいつ...)

紳士的な態度に早変わりする理源に呆れるシルヴィアだった。

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

2人は市内の南端にある鉄門の前にいた。


ここを通ればそこからはシルヴィアにとって未知の領域。

危険も伴うだろう。


だがそれよりも興奮がはるかに上回っていた。

シルヴィアは自分の頰が熱くなるのを感じていた。


ギィィィと重い音を立てて門が開く。


新しい光と風がシルヴィアを迎え入れているような気がした。


ゆっくりと深呼吸して、新鮮な若葉の匂いを嗅ぐ。



大きく広がった視界に一本の道があり、遥か遠くの森にまで続いている。


あれがきっと南の森だろう。


「よーし!やるぞーっ‼︎」


高まる気持ちを叫びながら一歩ずつ踏み締めるように歩みを進めていく。


「ちなみに今昼だか、着くのは早くても日が沈むかどうかぐらいの時間だ」


「ゔっ...」


早くも歩みが遅くなるシルヴィアだった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

ダンジョンシーカー

サカモト666
ファンタジー
高校生の武田順平はある日、不良少年の木戸翔太や幼馴染の竜宮紀子らと共に、「神」の気まぐれによって異世界へと召喚されてしまう。勇者としてのチート召喚――かと思いきや、なぜか順平だけが村人以下のクズステータス。戦闘もできない役立たずの彼は、木戸らの企みによって凶悪な迷宮に生贄として突き落とされてしまった。生還率ゼロの怪物的迷宮内、絶体絶命の状況に半ば死を覚悟した順平だったが、そこで起死回生の奇策を閃く。迷宮踏破への活路を見出した最弱ダンジョンシーカーが、裏切り者達への復讐を開始した――

処理中です...