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プロローグと序
盗賊少女 Ⅰ
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バラク市西大通り。
市庁舎を中心としたこの街には十字を描くような大きな通りがある。
住宅地が所狭しと並ぶそばで、通りに沿って時々市場が開かれている。
野菜や果物、森で獲れる動物の肉や薬草などが並んでおり、多くの市民が屋台で買い物を楽しむ賑わいを見せている。
そして、こういう屋外で行われる市場では必ずと言っていいほど問題が起きる。
「待てガキ、ふざけんじゃねぇ!」
男が怒声を上げる。
しかし人が多すぎるせいで声は遠くまで聞こえず、
近くにいた人々がなんだなんだと男が追いかける方を眺めるだけだった。
「やっべ!ソッコーでバレた!」
あひゃひゃと愉快そうな高笑いをするフードを被った子供。
いつもの手口で男がほかの客に気を取られている隙に商品を盗んだのである。
相当逃げるのに慣れているようだ。行く道を塞ぐような人々の間を縫うように軽快に走る。
「盗っ人だ!通してくれ!」
男は叫び散らしながらなんとか見失わないように追っているが、
人混みを掻き分けて進むうちにやがて二人の間には大きな距離が出来る。
「へへっ、楽勝楽勝!」
屋台の屋根を跳び乗り、通りの真ん中で車輪をガラガラ鳴らしながら走る馬車を追い越し、もう一つの小さな通りとの交差点を跳び越す。
自分たちの頭上を高々ととび越える子供の姿を見て、人々は驚きの表情を見せる。
人だかりの少ない場所に着地する。
もう追ってこないだろう、フードを被った子供が一息つく。
しかし運が悪かった。
目の前に出てきた大柄な男が彼を見つけた。
先ほどの男よりもはるかにガタイのいい、いかにも強そうな感じのする男だ。
彼もまたこの盗っ人に先日商品を盗まれた者だった。
「あ?」
不機嫌そうな彼と目が合った。
(やばっ...)
再び逃げ出そうとして背を向けたが、今度はそうはいかなかった。
肩をがっちりと掴まれる。
サーッと子どもの顔から血の気が引く。
「てめぇ逃げれると思ってんのか?」
顔は見えないがきっと激怒しているのであろう、ドスの効いた声で凄む。
「あっ、いやー、そのー、...ね?」
慌てて受け答えをするが、男に頬を叩かれる。
ぶべっ!と声を上げて子供が道路に転がる。フードが外れた。
「ってぇな!そもそもあんたらがぼったくり商品出すのが悪りぃんだろうが!」
顔を見られないように、と被っていたフードが外れているのにも気付かず反抗する。
盗っ人は少女だった。
短めの髪は赤とオレンジの中間の色で、やや吊り気味の大きな茶色の瞳が不満そうに男を睨みつける。
盗んだ事は悪くないと思っているようで、口をきゅっと一文字に結んでいる。
「おかしいだろ小魚一匹で200フィートとか!せめて100フィート以内だろ普通!オレらがガキだからって値段高くしても文句言わねえと思ってんのか!」
興味を持った周りの市民が集まってくる。
「金がねえなら体でも売って稼ぎな!それが出来ねぇならの垂れ死ね!」
怒鳴った後に まあ、とあざ笑うように付け足す。
「こんな薄汚ねえガキ誰も買わねえけどな!」
ハッ、と嗤う男に少女が殴りかかる。
しかし、男には簡単に払われてしまう。
「ガキが調子乗りやがって。俺が躾けてやるよ!」
払われてよろけた彼女の腹を死なない程度に殴る。
「ゔぐっ...」
膝が地面についた。視界がぐらつく。男の姿もぼやけるが、蹴りを入れようとしているのだけは見えた。
彼女は転がりながらなんとかそれを避ける。
起き上がろうとした少女を、男が体重をかけて踏みつけようとする。
これはもう避けられない。
思わず目をつぶった。
次の瞬間だった。
黒い「何か」が上から降ってきた。
市庁舎を中心としたこの街には十字を描くような大きな通りがある。
住宅地が所狭しと並ぶそばで、通りに沿って時々市場が開かれている。
野菜や果物、森で獲れる動物の肉や薬草などが並んでおり、多くの市民が屋台で買い物を楽しむ賑わいを見せている。
そして、こういう屋外で行われる市場では必ずと言っていいほど問題が起きる。
「待てガキ、ふざけんじゃねぇ!」
男が怒声を上げる。
しかし人が多すぎるせいで声は遠くまで聞こえず、
近くにいた人々がなんだなんだと男が追いかける方を眺めるだけだった。
「やっべ!ソッコーでバレた!」
あひゃひゃと愉快そうな高笑いをするフードを被った子供。
いつもの手口で男がほかの客に気を取られている隙に商品を盗んだのである。
相当逃げるのに慣れているようだ。行く道を塞ぐような人々の間を縫うように軽快に走る。
「盗っ人だ!通してくれ!」
男は叫び散らしながらなんとか見失わないように追っているが、
人混みを掻き分けて進むうちにやがて二人の間には大きな距離が出来る。
「へへっ、楽勝楽勝!」
屋台の屋根を跳び乗り、通りの真ん中で車輪をガラガラ鳴らしながら走る馬車を追い越し、もう一つの小さな通りとの交差点を跳び越す。
自分たちの頭上を高々ととび越える子供の姿を見て、人々は驚きの表情を見せる。
人だかりの少ない場所に着地する。
もう追ってこないだろう、フードを被った子供が一息つく。
しかし運が悪かった。
目の前に出てきた大柄な男が彼を見つけた。
先ほどの男よりもはるかにガタイのいい、いかにも強そうな感じのする男だ。
彼もまたこの盗っ人に先日商品を盗まれた者だった。
「あ?」
不機嫌そうな彼と目が合った。
(やばっ...)
再び逃げ出そうとして背を向けたが、今度はそうはいかなかった。
肩をがっちりと掴まれる。
サーッと子どもの顔から血の気が引く。
「てめぇ逃げれると思ってんのか?」
顔は見えないがきっと激怒しているのであろう、ドスの効いた声で凄む。
「あっ、いやー、そのー、...ね?」
慌てて受け答えをするが、男に頬を叩かれる。
ぶべっ!と声を上げて子供が道路に転がる。フードが外れた。
「ってぇな!そもそもあんたらがぼったくり商品出すのが悪りぃんだろうが!」
顔を見られないように、と被っていたフードが外れているのにも気付かず反抗する。
盗っ人は少女だった。
短めの髪は赤とオレンジの中間の色で、やや吊り気味の大きな茶色の瞳が不満そうに男を睨みつける。
盗んだ事は悪くないと思っているようで、口をきゅっと一文字に結んでいる。
「おかしいだろ小魚一匹で200フィートとか!せめて100フィート以内だろ普通!オレらがガキだからって値段高くしても文句言わねえと思ってんのか!」
興味を持った周りの市民が集まってくる。
「金がねえなら体でも売って稼ぎな!それが出来ねぇならの垂れ死ね!」
怒鳴った後に まあ、とあざ笑うように付け足す。
「こんな薄汚ねえガキ誰も買わねえけどな!」
ハッ、と嗤う男に少女が殴りかかる。
しかし、男には簡単に払われてしまう。
「ガキが調子乗りやがって。俺が躾けてやるよ!」
払われてよろけた彼女の腹を死なない程度に殴る。
「ゔぐっ...」
膝が地面についた。視界がぐらつく。男の姿もぼやけるが、蹴りを入れようとしているのだけは見えた。
彼女は転がりながらなんとかそれを避ける。
起き上がろうとした少女を、男が体重をかけて踏みつけようとする。
これはもう避けられない。
思わず目をつぶった。
次の瞬間だった。
黒い「何か」が上から降ってきた。
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