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第四
しおりを挟む帰ろう。
真に帰る場所などないのに、旅人はそう呟いた。雨中、重くなった体を引きずるようにしてあるき出した旅人の背後に、ゴロゴロと唸るような雷鳴が轟く。
鈍く音をたてて何かが石畳の上に落下した。
「……あ」
旅人はその短剣を見た。同時に、今まで彼が掴んだ、否、掴まされた数々の痕跡を思い出していた。
「そうか……そうだったな」
旅人はその睫毛を伏せた。そうすると滝のような雨と風の隙間に、忌々しい音がはさまりだす。かの人に救い出されたあとに待っていた暗黒の日々がまざまざと脳にうつし出される。かの人を幻覚にするということは、旅人にとって最低最悪なさる日々のことを幻覚にするということで、そして今後も誰かに降りかかるであろうその悪夢を容認するということだ。
なぜ忘れていたのかと旅人ははっとした。思い出すだけで吐き気がするようで、それは腹の奥で熱く燃える憎悪となり、旅人に再び火をつける。拾い上げた短剣、その雨を弾く刃。これをかの人の首に通すまで止まらない。
立ち尽くす前の慈悲は消えていた。鮮やかに蘇った暗く苦しい記憶と、憎しみが、そんなものはいらないとかき消したのだ。
太陽は雲の向こう、山の下に息を潜めている。
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