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本編
さん
しおりを挟む長い坂を、ブレーキをかけず一気に下る。
ジージー五月蝿くないていた蝉の数も減り、黄昏時の風を感じながら自転車をこいでいた。
憤りと憎しみと妬みと諦めと、自分への失望。
汗のしみた服が、風に吹かれて冷たくなっている。
あの体育館にいた全員をぶん殴ってやれたら、どんなに楽しいか、なんて。
どうにもならない妄想をしながら記憶された道を半ば自動的に帰る。
言いたいこと全部吐いて、あの野郎共――コーチ、先輩、先生――の顔面をぶん殴って、誰一人目覚めなくなった体育館で、狂った勝利に歓喜の叫びをあげて。
それで警察がきたら、へらっ、と笑って……そう、これまでで一番の笑顔を、全てから解き放たれた笑みを、見せてやる。
ああでも、あいつだけを最後に残して、なすすべなく全てを壊す様を見せつけてやるのも良いかもしれない。
……。
この世界に悪役なんていないのに。
でも。
もしいるなら、私だろうなと。
輝かしい未来に向けて努力する先輩たちと、それを時に優しく、時に厳しく指導するコーチ、生徒を思い、支える先生。
そのなかに何故かいて、先輩の愚痴を吐く、気の回らなくて覚えが悪い、使えない後輩。
きっとこれは先輩たちの物語で、私はチーム内の障害となる存在。
そんな気がした。
家に帰ると、風呂場へ直行した。
自分にとって忌々しい枷と化した部活着を脱ぎ捨てて。
ぎゅっと捻って、痛いくらいの勢いのシャワーを浴びて。
浴槽に浸かりながらバスタオルで髪をグシャグシャに拭いて、風呂を出る。
使ってボロボロにした体はろくにマッサージもせず放置だ。
毎晩ろくに寝てもいないし偏食だからか、体は悲鳴をあげていたが、それも無視する。
カバンの中身もそのまま。
母が弁当箱くらい洗いなさいと言ったが、きこえなかったふりをして二階の自室へあがった。
窓の外。ジジジ、と鳴いて道路に落ちた蝉がひとしきりもがき、そして息たえた。
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