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本編

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 布団のなかでため息をつく。

 次の日は土曜、休日だ。
 休日は嬉しい。嬉しいのに、憂鬱なのだ。

 明日は休日、そして、部活がある日。

 頭のなかに、嫌な声が響く。
 先週の、記憶。

 素晴らしい技術と才能を持つ、コーチ。
 目標に向かい一直線な、先輩。
 生徒のやりたいようにと寛容な、顧問の先生。

 ……。

 カチ、コチ、カチ、コチ。

 静かな空間に時計の音だけが響く。

 早く寝ないと、早く起きれない。寝坊すれば当たり前だけど怒られる。
 寝ないと、と思えば思うほど目が覚めて、焦燥から頭をかきむしる。

――ずる。

 ばたばたと寝返りをうっていると、タオルケットと敷き布団との間に、冷えた影が潜り込んできた。
 遠慮がちな感じで入ってきたそいつの、濃緑を沈めた瞳に見つめられて目をそらす。

 黒い触手が伸び、頬に触れる。
 ひやっとして心地よい。

 もう一本、心臓を探してしばらく這い、見つけたのか左胸の上にそれは添えられる。
 心臓がばくばくとなる。

 一本、また一本。
 ゆっくりと絡みついてくるそれに、喉が締め付けられたようになって声にならない悲鳴をあげる。
 金縛りにあったみたいに体が動かない。

 補食される。

 そう思ったが、いつまでたってもそんなことはなかった。

 怪物は優しく、抱き抱えるように、自身で彼女を包み込んでいた。

 やがて心臓の鼓動もおさまり、冷や汗もひいていく。
 憂鬱な気持ちも不安も嫌悪も、全て消えていく。

 影のゆりかごのなかで、彼女は久しぶりに、深い眠りについた。


 少し蒸し暑い夏の夜。満月が南の空から、忙しない都市の光を見下ろしていた。


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