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第3章 精霊王

魔道竜(第3章、10)

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「一つだけ訊かせて。なぜこの船を選んだの?   海賊船で行くこともできたはずよね?」

「何度も探したわ!  ーーでもダメだった。地図をなめるようにしてそれらしき海域を入念に巡ったわ。それでも島らしきものも、手がかりひとつ得ることもできなかった。そんな時だったわ。ラグーンを探して航海にでる船がいると。これはわたしの最後の賭けだった」

「行き着けると思う?」

「ぇぇ。わたしにはダメだったけれど、きっと、あなたなら」

願いを叶えるためだけに生きることを優先させてきたセイラの眸はそらすことができないほど清く澄み、そのあふれでる輝きはティアヌの心をとらえ魅了してやまない。緑目に吸い込まれそうだ。

まるで折り重なるようにして水面をただよう睡蓮の葉のよう。

純真無垢。邪心など少しもない。


「正解だったわね、私の船に乗って」

ふ、と苦笑する。

おバカなくせしてセルティガには人をみる目がある。

セイラは心のかよいあった私達のだ。

「手に入れたの!?  精霊条約書を!!」

ガバッと布団を蹴上た。

「私を誰だと思っているの、当たり前じゃない」

「お願い!  ティアヌ、わたしも連れて行って!!」

ティアヌのマントにしがみつく。

その手はかすかに震えている。

「連れていくもなにも、あなたはこの船の立派な乗組員じゃない。ついてきてもらわなくちゃ、契約金返してもらうわよ?」

「じゃぁ…………連れていってくれるの?」

「もちろん。でもこれだけは約束して。この船の乗組員らしからぬ行動はしないと」

「海賊とは縁をきってきた、足を洗ったの、絶対しないわ」

「ならいいの」

嘘はつきはしたもののセイラにはそうせねばならないだけの理由があった。

隠し事、という意味ではまだ二人に話せずにいることもあるので、お互い様、ということだ。

「じゃぁ、セイラはゆっくり休んで。私達も休ませてもらうわ」

「ぇぇ」

「ほら、セルティガ、何してるの、行くわよ」

話が落ち着いた段で、セルティガが口をひらく。

「な、あれはどうした」

「あれって何よ。いつも藪から棒ね」

「アノあと、邪蛇と何があったのか」

「ぁぁ、それ?  またでいいわよ、セイラをゆっくり休ませてあげなきゃ、ね!  おひらきにしましょう、解散!」

強制散会にもってこうとする。が、この時ばかりはセルティガの方が一枚上手だった。

「ほぅ?  なら、ゴキブリの生態について朝までこんこんと熱く語らおうか?」

「!?」

「どうだ、話す気になったろう?   セイラも聞きたいよな?」

「ぇぇ。気になって眠れないかも」

「セ、セイラまで!?  仕方がないわね」

ティアヌは渋々ながら、かいつまんで語りだした。

「実は…………」

ただし林檎をかじった事による変化については触れずに。

驚愕と感嘆の声があがるなか、その夜はセイラの睡眠薬が功を奏すまで淡々と語り明かした。
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