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第3章 精霊王

魔道竜(第3章、2)

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それは青白い火の玉だった。

正確な距離まではわからないが、遠いようで近い。

まるでクラゲのようにゆらゆらと漂っている。





【よく来た】


歓迎してくれている感じの声音。

『ひ、人魂がしゃべった!?』

腰をぬかしかける。
たたらを踏んで踏み止まるのが精一杯だった。


【案ずるには及ばない。こちらへきなさい】


正直、人魂となんてお近づきになりたくはない。

しかしながら今のティアヌとて人魂と大差ない。
幽体離脱して精神体、生き霊状態さながらなのだから。

『行くしかないわね』

ティアヌは青白い火の玉に導かれるまま歩きだした。

だが習慣というのは根強いもので、足元が暗くておぼつかないことが妙に気になる。

それを見越してか青白い炎は【怖れずともよい】と声をかけてくれた。

意外に良い人魂のようだ。

ザクザクとはいかないまでも、そろりそろりと進む。

『な、なに!?』

唐突にも人魂は、くるりと反転してみせたかと思えば、青白い炎に黄色く光る二つの眼があらわれた。

【精霊条約書を求める魔道士よ、来るべくして時は満ちた。我が名は深淵を司る精霊、ブラッド】

そして、と言い継ぐ前にひときわ輝く電球のような光の珠があらわれ、パァーッとまばゆい光がティアヌを包み込む。

ぃ、一体何事!?

目を焼くほどの光量ではなく、温かみのある優しい光。

幼いころ母に抱かれたあの愛情に満ちあふれた陽だまりのよう。

【妾は聖なる光を司り、あまねく万物を照らす光の精霊、カナタじゃ】

堅苦しい言葉遣いのわりに底抜けに明るい光の精霊の出現によって、それまで暗闇に閉ざされていた空間に祭壇らしきものが出現した。

『…………』

ここは今までティアヌがいた空間とはまるで異なる理と秩序が支配している。

その証拠に壁などはなく、カナタによって照らし出された場所いがいはどこまでも暗い闇が支配していた。

【よいか、そこな娘。この祭壇に納められし精霊条約書を手にするがよい】

ぇ??

そんなに簡単にもらっちゃっても?

何かのトラップ?

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