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第1章 禁断の魔道士
魔道竜(第1章、3)
しおりを挟む漆黒につつまれ時満ちて顔をだした満月(フルムーン)。
月光をうけて浮かびあがる穏やかな黒い海。
あたりは静寂すぎるほどどこか不自然な夜。
さざ波の音と揺りカゴのような船にゆられ航海初日の晴れがましい気分で一夜をむかえた。
先ほどまで酒瓶をかかえ騒いでいた船乗りたちも眠りについた真夜中、月が頭上をかすめ冴えわたりたる冷たい寒気によって黒雲にその身をかくしはじめた。
小より立つ海原が波紋をひろげ、激しく波打たせると甲板(かんぱん)の松明(たいまつ)が突風であおられた。
火の粉が流れゆく風に身をまかせ暗がりの海に姿を消した。
やがて辺りは異様な気配につつまれた。
水面をすべるような濃く白い霧………海面に浮かびあがる闇よりもなお暗き影。音もなく招かれざる客が訪れ、旅立ちの日の歓迎セレモニーが今まさにはじまろうとしていた。
神の領域、虚海。
虚海とは誰もが知るところであり、なかでも冒険者たちにとって禁断の地にもひとしく口にするのも憚(はばか)れる。それほど危険な所へ行こうとしているのだ。
ある者は『あんな所、よっぽどの暗禺(バカ)じゃなきゃ行かない』と口にし、『精霊の島がある』と言う者もいる。
魔道士を志す者には『神聖なる神殿がある』と口々に語り、トレジャーハンターは『世界最古の最強の竜が宝の山をまもっている』と豪語(ごうご)するやからまでいる。
早い話が伝説で伝えられているだけでそんな島はこの世には存在しない。
その島に旅だった者は誰一人として帰ってこないため実在する島なのか定かではないのだ。
「意気込んで旅に出たはいいけれど、手掛かり一つすらないじゃない」
手にした地図をみつめる。
「本当にこの虚海のどこかに伝説の島、ラグーンは存在するのか……無謀だったかな」
ティアヌはハッと我にかえり、「ダメ、弱気なんて! だいたいからして私らしくないじゃない!無理無謀は承知の上で旅にでたんだから」
後悔の念が燃え立つ心を諫(いさ)めた。
虚海の果てには何もない…というのが現在ちまたで通説化されつつあり、実際に途中で引きかえした冒険者たちの言い分からして異口同音、代わりばえのないものばかりだ。
虚海の果てには何もなかった。その島は実在しない架空の丁稚(でっち)あげだ。
不自然だ。
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