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第15話 王様の言い分

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翌朝。朝議での席でのことだった。

「陛下。いつまでも紫輝の姫君を迎賓館へとめおかれるのはいかがなものでしょう」

「どういう意味だ」

殷禿は不機嫌そうに低く発した。

ずらりと並んだ臣下の一人、近衛府長官・司馬青しばせいからの提議に、一同顔を見合わせざわめく。

「迎賓館はもとより長期滞在するには不向き。不便なところも多く、また警備がいささか手薄であります。いずれ後宮に入られるのであれば、いっそのこと皇女のお住まいを後宮に移されるのはいかがかと」

「まだ誰のもとへ嫁がれるかは決まってはおらぬぞ」

まったく時期尚早である。
が、遅かれ早かれ、提議されてしかるべき問題ではあるが。

「おおよそ、いぇ、十中八九間違いなく王様をお選びになられるのでは?」

「!?」

皇女が王弟に嫁ぎたがるはずがない。
もとより前王に嫁ぎにきた皇女。だから王を選ぶに違いない、そう言いたいのだろう。


ーーが。余は今それどころではない!!


ぐずぐずしているうちに一夜明け、姫たち一行は王宮をあとにして、秘湯とやらにむけて三泊四日の旅へ。

一昨日も、昨日も、伎玉に会えなかった。むろん今朝もそうだ。

今朝は馬車にのりこむ後ろ姿だけはかろうじて拝めた。


ーーぁぁ。余も行きたい。何とかして合流するすべはないものか。


綿密にたてられた旅の予定は、我ながら惚れ惚れするぐらいに一分の隙もない。
余計なものは極力はぶき、休憩場所には余の母方の実家の総本家・先の右大臣であるお祖父様の邸を休憩場所としたのは上々だった。

これ以上伎玉に悪い虫がつかないよう、爺しかおらぬあそこなら万全の防虫といえよう。

あわよくば、国内視察を目的とした行幸という名目で行けるかもしれない。

いゃ、無理だ。王位を継承したばかりで国政に支障をきたすような期間の留守をが許すはずがない。

なぜ王には休日がないのだ!?
王にだって休息日があってしかるべき。なのに玉座に毎日のように縛り付けられ。
何をするにもわずらわしい女官どもがべったりとはりついてくる。


ーーぁぁ、ひとりになりたい。


そう思ってもままならぬのが現状だ。


馬屋の前には兵士が交代で片時も離れずに警戒にあたっている。

昔から抜け出し癖があったため見張りは厳重だ。宮城をうろつく分には目こぼしされてはいたが、抜け出すとなると至難の技。手引きするものが必要。

余には心のおける、余の気持ちをくんでくれる者がいない。ゆえに手引きも期待できぬ。爺やに頼めば逆に長官に通報され軟禁されるに決まっている。


となると残る手段はただ一つ。気の毒だが、祖父の爺には危篤になってもらうほかない?


「あの、陛下?  聞いてます?」

「ん?  聞いてないぞ。だから何だ」

「ですから、再来月といわず、茶会を来月早々に繰り上げては?」

「何故だ」

「王妃不在はよろしくありませんし、他国の皇女がいつまでもとめおくのはいささか外聞が悪うございましょう。幸い候補者選定は最終段階を経て陛下に拝謁されるのみ」

いかがでしょう、と進言する司馬青 の意図があけすけすぎだ。

つまりは、選定があらかた終わったので、さっさと王妃を決めろというわけだ。

しかも皇女不在であるこの時を好機とみなし。決まってしまえば拒めないだろうという弱者切り捨ての悪質な悪徳商法まがいもいいところ。

あの少し気弱そうな皇女に反論する気概すらないだろうという司馬青のもくろみはこの余が未然にたつ。

もし余が皇女と婚姻しようものなら煌禿はしめしめとばかりに伎玉を妻に迎えるだろう。

一昨日、余は確信した。

ヤツの本命は伎玉であると。

昨日の友は明日の敵。


煌禿の思い通りにさせてなるものか。


煌禿が先手を打ってくるのなら、余はさらに先をよみ、遅れを挽回して必ずや伎玉を手にいれてみせる。


「それは余の一存では決められまい。皇女が戻られたのち、それとなくうかがってみてみよう。次の案件をのべよ」


この温泉旅行で皇女と煌禿の仲が深まってくれたらーーーー


そう切に祈った。


    
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