252 / 255
最終章 こぼれ落ちた運命は
9
しおりを挟む
デイヴィス侯爵家のガゼボで、そよそよと風を受けてゆっくりとティーカップに口をつける。
暖かい紅茶があって、お菓子があって、そして何よりルーク様がここに居て。
あぁ。わたしはなんて幸せなんだろう。
そんなことを考えていたら、ルーク様がこちらをじっと見つめていることに気がついた。
「どうかしましたか?」
「いや、幸せだなぁと思って」
そう言ってルーク様は、向かい合わせの椅子から立ち上がって、わたしの隣にやってきて、そこに腰を下ろした。
そして、わたしの肩に頭を乗せて、体重を掛けないように気を使ってわたしにもたれかかった。
「ルーク様、誰かに見られちゃいますよ」
「いいんだよ。婚約者なんだから、誰に見られたって」
ルーク様はそう言うけど、わたしはいちゃいちゃしているところを人に見られるのは恥ずかしい。
「ほら、ルーク様。紅茶、冷めちゃいますよ」
「いいじゃん。紅茶くらい。冷めたっておいしく飲めるよ。それより、やっとニーナとゆっくりできるんだ。その時間を堪能させて?」
そう言われると、ダメって言えない。
わたしはルーク様に弱い。
「これからはさ、オレ、ちょっと忙しくなるかもしれない。まあ、討伐訓練よりは融通がきくが、間も無くデイヴィス侯爵家を出て、デイヴィス伯爵家の当主になるからな」
「……そうですね。親元を離れて、独り立ちなさるのですね」
「それから、国政にも参加しなければならない。オレの持っていた英雄の称号は、首相となったジュリアン代表にとって、大変使えるものらしいからな」
「今まで忙しかった分、領地でゆっくりしようと思っていたのに、残念でしたね。でも、いくらでも時間はあるんですもの。落ち着いたら、ゆっくりしましょうね」
わたしがそう言ってルーク様の頭を撫でると、ルーク様は姿勢を正した。
「ごめんな。ゆっくりできなくて。それだけじゃない。平民になるって言ったのに、平民にしてやれなくて」
ルーク様はじっと、わたしの目を見つめる。
「いいんですよ。王都にいても、領地にいても、ルーク様と一緒でしたら、わたしはどこにいても幸せです」
「オレも……」
わたしが微笑むと、ルーク様が急にわたしを抱きしめた。
「これからはずっと一緒だ。もう、どこにも行かないでくれ」
わたしにしがみつくように、つらい思いを吐き出すように言うルーク様は、少し辛そうだった。
多分、わたしが死んだ日を思い出しているのだろう。
ルーク様が安心できるように、わたしはそっとルーク様の背中に手を回して、ゆっくりと撫でてあげる。
「大丈夫ですよ、ルーク様。もう、どこにも行ったりしませんから」
「……オレより、先に死なないでくれ。もう置いていかれるのはたくさんだ」
「もちろんです。もう、先に逝ったりはしません。それに、ルーク様より13歳も若いんですもの。今度はちゃんとルーク様を見送ってから、わたしも逝きますよ」
「オレは先に逝くけど、ニーナがこの世を去る時には、迎えにくるよ」
「まあ! では、2人で一緒に魂のお洗濯場に行きましょう。運が良ければ、また近くに生まれ変われるかもですよ」
「ははっ。そうだな2人で洗濯されような」
ルーク様は笑顔になり、わたしも笑顔になり、2人で一緒に、にーっこりと笑い合った。
「ニーナ」
「はい。ルーク様」
「この世の中で、一番大事なのはニーナだよ。もう、ニーナのいない世界なんて考えられない。愛してる」
「……わたしも愛してます」
ゆっくりと顔と顔が近付き、さらにゆっくりとくちびるが重なる。
甘い感触。
そして、ささやくように、ルーク様が言う。
「ニーナ、オレは、ニーナを愛しています。一生、大事にします。オレと、結婚してずっとオレの隣にいてください」
前世では。
まだ思春期で、好きとか愛してるとか、ルーク様に言われたことはなかった。
それでも、ルーク様に愛されているとわかっていたし、わたしもルーク様を愛していた。
ジーナは、ずっとルーク様と一緒に居たいと思っていた。
結婚すれば、同じ家に住み、同じ食事をして同じベッドで眠る。
一度もそう口にしたことはないけれど、そんな生活に憧れていた。
それが、やっと叶うんだね。
「はい! ルーク様。喜んで!」
「やった!」
ルーク様もわたしも、満面の笑顔になり、ぎゅっと抱きしめあった。
まあ、今プロポーズしてもらっても、実際に結婚できるのは一年後ですけどね。
暖かい紅茶があって、お菓子があって、そして何よりルーク様がここに居て。
あぁ。わたしはなんて幸せなんだろう。
そんなことを考えていたら、ルーク様がこちらをじっと見つめていることに気がついた。
「どうかしましたか?」
「いや、幸せだなぁと思って」
そう言ってルーク様は、向かい合わせの椅子から立ち上がって、わたしの隣にやってきて、そこに腰を下ろした。
そして、わたしの肩に頭を乗せて、体重を掛けないように気を使ってわたしにもたれかかった。
「ルーク様、誰かに見られちゃいますよ」
「いいんだよ。婚約者なんだから、誰に見られたって」
ルーク様はそう言うけど、わたしはいちゃいちゃしているところを人に見られるのは恥ずかしい。
「ほら、ルーク様。紅茶、冷めちゃいますよ」
「いいじゃん。紅茶くらい。冷めたっておいしく飲めるよ。それより、やっとニーナとゆっくりできるんだ。その時間を堪能させて?」
そう言われると、ダメって言えない。
わたしはルーク様に弱い。
「これからはさ、オレ、ちょっと忙しくなるかもしれない。まあ、討伐訓練よりは融通がきくが、間も無くデイヴィス侯爵家を出て、デイヴィス伯爵家の当主になるからな」
「……そうですね。親元を離れて、独り立ちなさるのですね」
「それから、国政にも参加しなければならない。オレの持っていた英雄の称号は、首相となったジュリアン代表にとって、大変使えるものらしいからな」
「今まで忙しかった分、領地でゆっくりしようと思っていたのに、残念でしたね。でも、いくらでも時間はあるんですもの。落ち着いたら、ゆっくりしましょうね」
わたしがそう言ってルーク様の頭を撫でると、ルーク様は姿勢を正した。
「ごめんな。ゆっくりできなくて。それだけじゃない。平民になるって言ったのに、平民にしてやれなくて」
ルーク様はじっと、わたしの目を見つめる。
「いいんですよ。王都にいても、領地にいても、ルーク様と一緒でしたら、わたしはどこにいても幸せです」
「オレも……」
わたしが微笑むと、ルーク様が急にわたしを抱きしめた。
「これからはずっと一緒だ。もう、どこにも行かないでくれ」
わたしにしがみつくように、つらい思いを吐き出すように言うルーク様は、少し辛そうだった。
多分、わたしが死んだ日を思い出しているのだろう。
ルーク様が安心できるように、わたしはそっとルーク様の背中に手を回して、ゆっくりと撫でてあげる。
「大丈夫ですよ、ルーク様。もう、どこにも行ったりしませんから」
「……オレより、先に死なないでくれ。もう置いていかれるのはたくさんだ」
「もちろんです。もう、先に逝ったりはしません。それに、ルーク様より13歳も若いんですもの。今度はちゃんとルーク様を見送ってから、わたしも逝きますよ」
「オレは先に逝くけど、ニーナがこの世を去る時には、迎えにくるよ」
「まあ! では、2人で一緒に魂のお洗濯場に行きましょう。運が良ければ、また近くに生まれ変われるかもですよ」
「ははっ。そうだな2人で洗濯されような」
ルーク様は笑顔になり、わたしも笑顔になり、2人で一緒に、にーっこりと笑い合った。
「ニーナ」
「はい。ルーク様」
「この世の中で、一番大事なのはニーナだよ。もう、ニーナのいない世界なんて考えられない。愛してる」
「……わたしも愛してます」
ゆっくりと顔と顔が近付き、さらにゆっくりとくちびるが重なる。
甘い感触。
そして、ささやくように、ルーク様が言う。
「ニーナ、オレは、ニーナを愛しています。一生、大事にします。オレと、結婚してずっとオレの隣にいてください」
前世では。
まだ思春期で、好きとか愛してるとか、ルーク様に言われたことはなかった。
それでも、ルーク様に愛されているとわかっていたし、わたしもルーク様を愛していた。
ジーナは、ずっとルーク様と一緒に居たいと思っていた。
結婚すれば、同じ家に住み、同じ食事をして同じベッドで眠る。
一度もそう口にしたことはないけれど、そんな生活に憧れていた。
それが、やっと叶うんだね。
「はい! ルーク様。喜んで!」
「やった!」
ルーク様もわたしも、満面の笑顔になり、ぎゅっと抱きしめあった。
まあ、今プロポーズしてもらっても、実際に結婚できるのは一年後ですけどね。
11
お気に入りに追加
261
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
記憶をなくしたあなたへ
ブラウン
恋愛
記憶をなくしたあなたへ。
私は誓約書通り、あなたとは会うことはありません。
あなたも誓約書通り私たちを探さないでください。
私には愛し合った記憶があるが、あなたにはないという事実。
もう一度信じることができるのか、愛せるのか。
2人の愛を紡いでいく。
本編は6話完結です。
それ以降は番外編で、カイルやその他の子供たちの状況などを投稿していきます
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する
紅子
恋愛
あなたは私の連理の枝。今世こそは比翼の鳥となりましょう。
私は、女神様のお願いで、愛し子として転生した。でも、そのことを誰にも告げる気はない。可愛らしくも美しい双子の妹の影で、いない子と扱われても特別な何かにはならない。私を愛してくれる人とこの世界でささやかな幸せを築ければそれで満足だ。
その希望を打ち砕くことが起こるとき、私は全力でそれに抗うだろう。
完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
夫と親友が、私に隠れて抱き合っていました ~2人の幸せのため、黙って身を引こうと思います~
小倉みち
恋愛
元侯爵令嬢のティアナは、幼馴染のジェフリーの元へ嫁ぎ、穏やかな日々を過ごしていた。
激しい恋愛関係の末に結婚したというわけではなかったが、それでもお互いに思いやりを持っていた。
貴族にありがちで平凡な、だけど幸せな生活。
しかし、その幸せは約1年で終わりを告げることとなる。
ティアナとジェフリーがパーティに参加したある日のこと。
ジェフリーとはぐれてしまったティアナは、彼を探しに中庭へと向かう。
――そこで見たものは。
ジェフリーと自分の親友が、暗闇の中で抱き合っていた姿だった。
「……もう、この気持ちを抑えきれないわ」
「ティアナに悪いから」
「だけど、あなただってそうでしょう? 私、ずっと忘れられなかった」
そんな会話を聞いてしまったティアナは、頭が真っ白になった。
ショックだった。
ずっと信じてきた夫と親友の不貞。
しかし怒りより先に湧いてきたのは、彼らに幸せになってほしいという気持ち。
私さえいなければ。
私さえ身を引けば、私の大好きな2人はきっと幸せになれるはず。
ティアナは2人のため、黙って実家に帰ることにしたのだ。
だがお腹の中には既に、小さな命がいて――。
旦那様に離縁をつきつけたら
cyaru
恋愛
駆け落ち同然で結婚したシャロンとシリウス。
仲の良い夫婦でずっと一緒だと思っていた。
突然現れた子連れの女性、そして腕を組んで歩く2人。
我慢の限界を迎えたシャロンは神殿に離縁の申し込みをした。
※色々と異世界の他に現実に近いモノや妄想の世界をぶっこんでいます。
※設定はかなり他の方の作品とは異なる部分があります。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる