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21章 責任

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デイヴィス家の別棟に着くと、フランクさんとサリーさんが暖かく迎えてくれる。

わたしは討伐が終わってすぐにここの自分の部屋に戻ってきたけど、ルーク様は数日振りの帰宅だ。

討伐は無事に終わったと聞いても、やっぱりフランクさん達は心配だったようで、ルーク様の姿を見ると、うっすらと目に涙を浮かべていた。

「フランク、サリー、心配かけたな」

ルーク様が2人に声を掛けると、一瞬だけホッとしたような笑みを浮かべたけど、さすが2人とも使用人のプロ。次の瞬間にはきりりといつもの表情に戻り、ルーク様の上着を脱がせたり、留守の間の報告をしたりしていた。

「サリー、これから義兄上とニーナの3人で執務室にこもる。熱いお茶を持ってきてくれ」
「かしこまりました」

わたしはうっかり、ルーク様たちと執務室に行こうとして、はっとする。

だめじゃん。
わたしはメイドだったわ。

「ルーク様、お茶ならわたしがご用意いたしますよ?」
「ん? ああ、いや、でもニーナにも関係のある話もするんだ。サリー、悪いがニーナは借りる。他に手伝いが必要なら本邸に使いを出すが?」

気遣わしげにルーク様がサリーさんを見ると、サリーさんは胸を張って答えた。

「ぼっちゃま。わたくしはこれでもこの別棟を取り仕切る別棟の侍女長ですのよ? ニーナひとりが居なくても、問題ございません。今後も、ニーナにメイドの仕事はさせません。別の仕事をしてもらおうと思っておりますので、大丈夫ですわ」

自信あり気にそう言うサリーさんは、とても頼もしかった。
……頼もしかったけど、ちょっと待って!!
メイドの仕事をさせないって、なに!?


「サリーさん! わたしクビですか!?」

慌ててサリーさんのスカートにしがみつくわたしを見て、サリーさんとフランクさんは顔を見合わせて微笑んだ。

「ばかね、ニーナ。別の仕事をしてもらうって言ったでしょ?」
「え、でもわたしの仕事はメイドで」
「もっと大事な仕事をやってもらおうと思ってるの。だけら、覚悟しててね。今はのんびりしてなさい」
「ほんとにクビじゃないんですね?」
「当たり前でしょ。ほら、ルーク様がお待ちよ。早く行きなさい」

サリーさんに促されて、わたしはルーク様と執務室へ向かった。



わたしたちが執務室のソファに腰を下ろすと、間も無くサリーさんがお茶を運んでくれる。

3人分の紅茶を淹れてお茶菓子を出すと、サリーさんは一礼して部屋を出て行った。

ふふっ。
今日のお茶菓子はソフトクッキーとマカロンだぁ。
一つもらおっと。
ぱく。もぐもぐ。おいしーい。

そんなわたしの様子を、テーブルを挟んだ向かい側のソファに座ってお茶を飲みながらお兄様が見ている。

「よくそんなにがっつけるなぁ」
「だって、疲れちゃいましたもの。疲れた体に甘いものが沁み渡ります~」

にこにこと頬張るわたしを、隣に座るルーク様は微笑ましく見ててくれる。

「ルーク様も、今はこのままでいいが、ちゃんと教育しろよ」
「大丈夫ですよ。義兄上。三つ子の魂百まで、と言うではありませんか。ジーナは勉強も大変がんばっていましたから、きっと覚えていますよ」
「だといいがなぁ」

口の中に幸せをいっぱい詰め込んだわたしは、次に温かい紅茶を口に含んだ。
あ~、幸せだなあ。

「ところで、早速本題に入るが、ルーク様、根回しは済んだか?」

お兄様は身を乗り出してルーク様を見る。

「はい。ただ、現在の議会は、王族の言いなりになっていた貴族も少なくないため、ワンマンで政治を行っていた国王なくして、意見をまとめるのは大変困難でしょうね」
「だが、王族の権力はもぎ取った。あとは力でねじ伏せるしかないだろう」

ああ、まだ会議にかける議題があるとさっき言ってたっけ。
わたしにはよくわからないけど、きっとその話しだろう。
しかし、なんでわたしは呼ばれたのかしら……。

真剣に話す2人に声を掛けられるわけもなく、わたしはお茶を飲みながら2人の話を聞いていた。

「王族の無償労働の件だが、やはり辺境伯の元に送り、外交面で役に立ってもらうのが一番いいと思う。ルーク様も、王都で何かやらせるよりは、遠く離れた地で役に立ってもらう方がいいだろう」
「そうですね。国境付近に居てもらうのがいいでしょう。特に、ガージナル国との境目辺りが妥当かと」

お兄様は地図を広げて思わず、といったように吹き出す。

「ルーク様、ガージナルって言ったら、相当我が国に恨みを持ってる国じゃないか。拉致られたら一発で命取られるだろうな」
「そうですね。かつて国王はガージナルの領地を騙し討ちのような形で譲渡させましたからね。もし、攻め込まれるようなことがあれば、戦争になる前にあいつの頭を下げさせましょう」
「床に擦り付けるくらいにな。我が国は、本当はガージナルの土地なんて要らなかったんだ。それを、遊び半分に取り上げたりするから恨まれる。自分のやったことに責任を持ついい機会だろう」

2人は和気藹々と話しているけど、それって……。

「それって、国王様、危なくないですか?」

わたしが首を傾げて聞くと、ルーク様は真面目な顔で答えた。

「だが、戦争を起こさないためには必要なことなんだ。国王が自分の蒔いた種を自分で刈り取る。判決の無償労働には、そんな意味があるんだ」







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