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21章 責任
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弁論が終わると、国王は一つ後ろの席に座り直した。
そこで、判決が下るのを待つことになる。
思わず、ほ~っと、わたしの口から息が漏れた。
わたしもかなり緊張していたみたい。
ルーク様が席に戻ったのを確認して、裁判官が次の裁判の声を掛ける。
そう。
次に裁判にかけられるのは、王太子様だ。
法廷の入り口からやってきた王太子様の隣には、かつて学院で側近候補と呼ばれていた伯爵子息ただ一人だけが付き添っていた。
学院でも爽やかな笑みを浮かべていた王太子様は、見る影もなく老けこんでいる。
国王と同じ、白いブラウスに焦茶のトラウザーズの姿は、王家の品格などの彩りはなく、なめらかな金糸のようだった髪は色もくすみ、目の下には黒く隈ができていた。
裁判長のガベルの音がして、王太子の裁判も始まる。
「アレックス王子。あなたの罪は国王と同じです。民を欺き、私利私欲のために王家の力を使った。この事実に申し開きはありますか?」
裁判長が王太子様に声を掛けると、王太子様は俯いたままでつぶやくような声で答える。
「……ありません」
「罪を認めるということですね?」
「はい。魔物を倒しても生贄を捧げる限り、討伐は意味のないことだと知っていました」
学園ではあんなに爽やかで輝いていた王太子が俯く姿は、とても小さく見えた。
裁判長はゆっくりと頷くと、罪を認めた王太子を、国王と同じ一つ後ろの席に移動するように促した。
王太子はくるりと裁判長に背を向けると、代わりにルーク様たちの方へ顔を向け、睨みつけた。
「ルーク。英雄気取りだな。そのまま傀儡の英雄であれば良かったものを」
そう言い捨てて下がろうとする王太子を、お兄様が呼び止める。
「何か言いたいことがあれば、きちんと弁論するべきではありませんか? いつもおっしゃっていたでしょう? 気高いように見せかけた王太子殿」
王太子は、ルーク様やお兄様の座る席に向かうよう身体を戻す。
その表情は、今まで見たこともないくらい歪んでいた。
「聞いたであろう? 何故この国に魔法があるのかを。お前たちは考えたことがあるか? 雨が降らず飢饉が起こることを。土が富まず肥えた土がなくなり、穀物が育たなくなることを。魔法は必要なのだ。例え、生贄が必要だとしても、この国がなんの憂いもなく栄えるためには必要なものなのだ。たった数十人の隊士の生贄くらいなんだ。王家が生贄を見殺しにしたとしても必要悪というものだ」
っ!
わたしは息を呑んだ。
だって、それは王族の言葉ではないと、無知なわたしでもそう思ったからだ。
言葉を聞いて、傍聴席から悲鳴のような声が上がる。
声を絞り出すようにしているのは、髪も真っ白になった老婆だった。
「あたしの子どもはねぇ、さきの討伐で死んだんだよ! 先代の王家もそうだった。見せかけだけの支援をしていて、討伐隊を見殺しにするつもりだったんだ。息子は苦しい訓練の中、疑問を抱いていたよ。この訓練で、この剣で、ほんとに魔物を討伐できるのかと! 必要悪ってなんなんだい! 生贄くらいって、なんなんだよぉ!?」
泣き崩れるおばあさんを、周りに座る者たちが抱きかかえて席を立った。
おばあさんが出て行った後も、わたしたちが生まれる前の討伐で命を失った者の家族が傍聴席に何人か居て、その後も野次は止まらなかった。
カンカン。裁判長がガベルを鳴らす。
「静粛に」
裁判長の一言で、また法廷に静寂が戻る。
「アレックス王子よ、意見があるならはっきりといいなさい。証言台を降りてからの陳述は認めませんよ」
王太子様は裁判長の方に視線を向けると、力無く首を横に振った。
何を言っても、もう罪は消えない。
裁かれるのを覚悟した王太子の、最後のあがきだったんだろう。
そして、王太子が後ろの席に着くのを見届けて、裁判官は次の被告人を呼ぶ。
「王女ローゼリア。証言台に立ちなさい」
その声に合わせて、法廷内のドアが開いた。
そこには、質素なワンピースに身を包み、顔半分を包帯で巻いたローゼリア様が立っていた。
*****************
最近、エール機能に気がつきました。
送ってくださった方がいらして、エールをいただけたことを感動しております!
応援、ありがとうございます^_^
まだ完結までもう少しありますがよろしくお願いします!
そこで、判決が下るのを待つことになる。
思わず、ほ~っと、わたしの口から息が漏れた。
わたしもかなり緊張していたみたい。
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そう。
次に裁判にかけられるのは、王太子様だ。
法廷の入り口からやってきた王太子様の隣には、かつて学院で側近候補と呼ばれていた伯爵子息ただ一人だけが付き添っていた。
学院でも爽やかな笑みを浮かべていた王太子様は、見る影もなく老けこんでいる。
国王と同じ、白いブラウスに焦茶のトラウザーズの姿は、王家の品格などの彩りはなく、なめらかな金糸のようだった髪は色もくすみ、目の下には黒く隈ができていた。
裁判長のガベルの音がして、王太子の裁判も始まる。
「アレックス王子。あなたの罪は国王と同じです。民を欺き、私利私欲のために王家の力を使った。この事実に申し開きはありますか?」
裁判長が王太子様に声を掛けると、王太子様は俯いたままでつぶやくような声で答える。
「……ありません」
「罪を認めるということですね?」
「はい。魔物を倒しても生贄を捧げる限り、討伐は意味のないことだと知っていました」
学園ではあんなに爽やかで輝いていた王太子が俯く姿は、とても小さく見えた。
裁判長はゆっくりと頷くと、罪を認めた王太子を、国王と同じ一つ後ろの席に移動するように促した。
王太子はくるりと裁判長に背を向けると、代わりにルーク様たちの方へ顔を向け、睨みつけた。
「ルーク。英雄気取りだな。そのまま傀儡の英雄であれば良かったものを」
そう言い捨てて下がろうとする王太子を、お兄様が呼び止める。
「何か言いたいことがあれば、きちんと弁論するべきではありませんか? いつもおっしゃっていたでしょう? 気高いように見せかけた王太子殿」
王太子は、ルーク様やお兄様の座る席に向かうよう身体を戻す。
その表情は、今まで見たこともないくらい歪んでいた。
「聞いたであろう? 何故この国に魔法があるのかを。お前たちは考えたことがあるか? 雨が降らず飢饉が起こることを。土が富まず肥えた土がなくなり、穀物が育たなくなることを。魔法は必要なのだ。例え、生贄が必要だとしても、この国がなんの憂いもなく栄えるためには必要なものなのだ。たった数十人の隊士の生贄くらいなんだ。王家が生贄を見殺しにしたとしても必要悪というものだ」
っ!
わたしは息を呑んだ。
だって、それは王族の言葉ではないと、無知なわたしでもそう思ったからだ。
言葉を聞いて、傍聴席から悲鳴のような声が上がる。
声を絞り出すようにしているのは、髪も真っ白になった老婆だった。
「あたしの子どもはねぇ、さきの討伐で死んだんだよ! 先代の王家もそうだった。見せかけだけの支援をしていて、討伐隊を見殺しにするつもりだったんだ。息子は苦しい訓練の中、疑問を抱いていたよ。この訓練で、この剣で、ほんとに魔物を討伐できるのかと! 必要悪ってなんなんだい! 生贄くらいって、なんなんだよぉ!?」
泣き崩れるおばあさんを、周りに座る者たちが抱きかかえて席を立った。
おばあさんが出て行った後も、わたしたちが生まれる前の討伐で命を失った者の家族が傍聴席に何人か居て、その後も野次は止まらなかった。
カンカン。裁判長がガベルを鳴らす。
「静粛に」
裁判長の一言で、また法廷に静寂が戻る。
「アレックス王子よ、意見があるならはっきりといいなさい。証言台を降りてからの陳述は認めませんよ」
王太子様は裁判長の方に視線を向けると、力無く首を横に振った。
何を言っても、もう罪は消えない。
裁かれるのを覚悟した王太子の、最後のあがきだったんだろう。
そして、王太子が後ろの席に着くのを見届けて、裁判官は次の被告人を呼ぶ。
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