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21章 責任
わたくしの未来
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新しいワインのコルクを抜きグラスに注いだ後、一口飲んだところで、花火の音が聞こえた。
やっぱり、ルークは役立たずだわ。
まあ、いい。
これでルークが死んでもわたくしは特に困らない。
わたくしは立ち上がって近衛に告げた。
「あなた方は階下に行き、混乱するであろう場を収めてきなさい。約束した通り、あなた方の家族と避難する方法を考えます」
近衛は納得して部屋を出て行ったが、彼らを連れて逃げるつもりなど毛頭ない。
ひとりでも多くの餌を魔獣に喰わせるためだ。
近衛を部屋から追い出した後、わたくしは隠し通路を通って、お兄様の用意した馬車があるところまで道を急いだ。
そこで、結界を越えた魔獣に襲われるなんて、夢にも思わなかった。
腹が立つことに脱出までには色々とあったが、わたくしは御者を叱責しつつ、先へ先へと馬車を急がせた。
ああ、顔と腕ががヒリヒリする。
あまりの痛みに鼓動が早まる。
腕にそっと目をやると、逸らしたくなるほど酷い有り様だった。
黒く変色し、歪んだ皮膚。
きっと、顔も同じようになっているに違いない。
幼き日のルークのようだ。
もっとも、ルークが火傷を負ったのは左半分で、わたくしは右半分だけど。
花火の音を聞いても、近衛は部屋に残しておくんだった。
あの副隊長が、あんなにも使えないなんて思わなかったわ。
痛みを堪えて、口が呻き声が出てしまう。
嫌だわ。
わたくしはこんなに無様に醜態を晒してはいけないのに。
一国の王女たるもの、いつでも毅然としていなければ。
自分で自分に光魔法がかけられないのが口惜しい。
何故自分自身には、魔法がかけられないのかしら。
そういえば、光魔法の使い手は何人残しておいたのかしら。
王家のために別荘に何人か、魔力の強い光魔法使いを監禁していたはずだけれど。
わたくしはそっと腕を見る。
シミのように腕に広がる魔獣火傷。
綺麗に治すのには何年もかかると言われている。
何故、「言われている」のかというと、完治させたものはルーク以外にいないからだ。
かなりな魔力を注ぎ込んでも、数ミリしか癒すことができない。
そもそも、ルークが火傷を治すまでは、一点に集中して魔法をかけるなどの発想はなく、火傷全体に広がるように魔法を掛けていた。その時は、火傷は薄くなることもなく、魔力火傷は治らないものとされていた。
ルークも完治させるまでに数年かけている。
まあ、よい。
魔獣騒ぎが収まった頃、王家の名を使って国中の光の術者を掻き集めて治療にあたらせればよいだろう。
とりあえず、別荘についたらすぐに、痛みを取る光魔法を掛けさせねば。
痛みを取るだけならば、光魔法の効果はすぐにあらわれるはず。
火傷を負った腕をさすり、イライラと馬車についている小窓から外を見ていると、急に馬が嘶き、馬車が停まった。
「何をしておる! 早く先を行かんか!」
狭い馬車の、とても小さな小窓から乗り出して窓の外を見ると、あと少しで街というところだった。
「お、王女様っ!」
御者の子どもが怯えた声を出す。
御者に子どもを選んだのは、あとで殺すためだ。
余計なことを外で話されたらたまらない。そのために、孤児を選んだ。
特に難しい道もなく、ただ馬車を走らせるだけなら子どもでもできて、不要になれば大人より簡単に口を塞ぐことができる。
そう思って14.5歳の子どもにしたのがいけなかったのか、こんなところで馬車を止めるなど、役に立たない。
御者をどなりつけようと、小窓から首を出すと、馬車が盗賊らしき男達に囲まれているのがわかった。
ちっ。
このあたりの賊は、討伐前に一掃しておいたのに、また湧き出てきたのか。
わたくしは小窓を閉めて、馬車の内鍵をしっかりと掛けた。
この馬車は魔獣の攻撃に備えて、多少は頑丈に作ってある。
しかし、数人の盗賊の攻撃にどれくらい持ち堪えられるかはわからない。
何か方法はないか思案していると、数頭の馬の蹄の音が聞こえた。
「そこなる狼藉者! この馬車をなんと心得る! 尊いお方の乗る馬車ぞ!」
「近衛ども、車内にいるローゼリアの安全を最優先に、賊を討伐せよ!」
「はっ! 王太子殿下のお心のままに!」
外からはお兄様と近衛たちの声がする。
その後、すぐに剣と剣が打ち合う音がした。
さすがはお兄様だわ。
わたくしを助けにやってきてくださったのね。
外からは激しい鍔迫り合いの様子が聞こえて来る。
「うわあっ! た、助けてください!」
御者をしていた子どもの声がした。
外はどのようになっているのだろう。
そっと、小窓に寄ろうとした時、ガタンと馬車が揺れた。
「うっ、」
座席から床へと崩れ落ちると、外から数頭の馬の蹄の音がした。
そして、すぐに馬車を叩く音がする。
「ローゼリア! ローゼリア! しっかりしろ! 無事か!? 破落戸どもは追い払った。ここを開けてくれ」
わたくしを思い遣るお兄様の声に、安心して扉を開けると、扉の外には馬に乗り、剣を抜いた近衛が10名ほどいて、わたくしたちを見守っていた。
両手を広げてわたくしを迎えるお兄様に、思わず安堵のため息が出てしまう。
「お兄様……」
わたくしの姿を見て、一瞬安心したような顔をしたお兄様だったが、すぐに顔と腕の魔獣火傷に気が付き、表情を歪めた。
「ローゼリア……。可哀想に、こんな傷まで背負って我々を救ってくれたのだな。もう安心するがいい。これから先は、わたしがおまえを守ろう」
涙ながらにわたくしを抱きしめてくれたお兄様は、わたくしを抱き抱えてご自分の馬に乗せて、王家の別荘まで連れて行ってくれる。
馬に揺られて振り返ると、馬車の周りには激しく争った跡があった。
きっと、御者の子どもは殺させていると思ったが、死体はどこにも落ちていない。
周りを取り囲む近衛に聞こえないように、わたくしはお兄様に声をかけた。
「お兄様、御者はどうしたのですか?」
「破落戸どもが攫って行った。孤児であるから身代金も取れないというのに」
「攫われたのはまずいのでは……」
「なに、万が一何かを話したとしても子どもの言うことに真剣に耳を傾ける者もいないだろう。そのためにも子どもを選んだのだ。しかも、破落戸どもに攫われて行ったのだ。おそらく、何かをしゃべる前に殺されるだろうな」
それもそうだ。
わたくしは頼りになるお兄様の言葉に、安心してその身を預けた。
お兄様はわたくしを安全に別荘まで連れて行ってくれるだろう。
大丈夫。
わたくしの未来は、変わらず薔薇色に染まっている。
やっぱり、ルークは役立たずだわ。
まあ、いい。
これでルークが死んでもわたくしは特に困らない。
わたくしは立ち上がって近衛に告げた。
「あなた方は階下に行き、混乱するであろう場を収めてきなさい。約束した通り、あなた方の家族と避難する方法を考えます」
近衛は納得して部屋を出て行ったが、彼らを連れて逃げるつもりなど毛頭ない。
ひとりでも多くの餌を魔獣に喰わせるためだ。
近衛を部屋から追い出した後、わたくしは隠し通路を通って、お兄様の用意した馬車があるところまで道を急いだ。
そこで、結界を越えた魔獣に襲われるなんて、夢にも思わなかった。
腹が立つことに脱出までには色々とあったが、わたくしは御者を叱責しつつ、先へ先へと馬車を急がせた。
ああ、顔と腕ががヒリヒリする。
あまりの痛みに鼓動が早まる。
腕にそっと目をやると、逸らしたくなるほど酷い有り様だった。
黒く変色し、歪んだ皮膚。
きっと、顔も同じようになっているに違いない。
幼き日のルークのようだ。
もっとも、ルークが火傷を負ったのは左半分で、わたくしは右半分だけど。
花火の音を聞いても、近衛は部屋に残しておくんだった。
あの副隊長が、あんなにも使えないなんて思わなかったわ。
痛みを堪えて、口が呻き声が出てしまう。
嫌だわ。
わたくしはこんなに無様に醜態を晒してはいけないのに。
一国の王女たるもの、いつでも毅然としていなければ。
自分で自分に光魔法がかけられないのが口惜しい。
何故自分自身には、魔法がかけられないのかしら。
そういえば、光魔法の使い手は何人残しておいたのかしら。
王家のために別荘に何人か、魔力の強い光魔法使いを監禁していたはずだけれど。
わたくしはそっと腕を見る。
シミのように腕に広がる魔獣火傷。
綺麗に治すのには何年もかかると言われている。
何故、「言われている」のかというと、完治させたものはルーク以外にいないからだ。
かなりな魔力を注ぎ込んでも、数ミリしか癒すことができない。
そもそも、ルークが火傷を治すまでは、一点に集中して魔法をかけるなどの発想はなく、火傷全体に広がるように魔法を掛けていた。その時は、火傷は薄くなることもなく、魔力火傷は治らないものとされていた。
ルークも完治させるまでに数年かけている。
まあ、よい。
魔獣騒ぎが収まった頃、王家の名を使って国中の光の術者を掻き集めて治療にあたらせればよいだろう。
とりあえず、別荘についたらすぐに、痛みを取る光魔法を掛けさせねば。
痛みを取るだけならば、光魔法の効果はすぐにあらわれるはず。
火傷を負った腕をさすり、イライラと馬車についている小窓から外を見ていると、急に馬が嘶き、馬車が停まった。
「何をしておる! 早く先を行かんか!」
狭い馬車の、とても小さな小窓から乗り出して窓の外を見ると、あと少しで街というところだった。
「お、王女様っ!」
御者の子どもが怯えた声を出す。
御者に子どもを選んだのは、あとで殺すためだ。
余計なことを外で話されたらたまらない。そのために、孤児を選んだ。
特に難しい道もなく、ただ馬車を走らせるだけなら子どもでもできて、不要になれば大人より簡単に口を塞ぐことができる。
そう思って14.5歳の子どもにしたのがいけなかったのか、こんなところで馬車を止めるなど、役に立たない。
御者をどなりつけようと、小窓から首を出すと、馬車が盗賊らしき男達に囲まれているのがわかった。
ちっ。
このあたりの賊は、討伐前に一掃しておいたのに、また湧き出てきたのか。
わたくしは小窓を閉めて、馬車の内鍵をしっかりと掛けた。
この馬車は魔獣の攻撃に備えて、多少は頑丈に作ってある。
しかし、数人の盗賊の攻撃にどれくらい持ち堪えられるかはわからない。
何か方法はないか思案していると、数頭の馬の蹄の音が聞こえた。
「そこなる狼藉者! この馬車をなんと心得る! 尊いお方の乗る馬車ぞ!」
「近衛ども、車内にいるローゼリアの安全を最優先に、賊を討伐せよ!」
「はっ! 王太子殿下のお心のままに!」
外からはお兄様と近衛たちの声がする。
その後、すぐに剣と剣が打ち合う音がした。
さすがはお兄様だわ。
わたくしを助けにやってきてくださったのね。
外からは激しい鍔迫り合いの様子が聞こえて来る。
「うわあっ! た、助けてください!」
御者をしていた子どもの声がした。
外はどのようになっているのだろう。
そっと、小窓に寄ろうとした時、ガタンと馬車が揺れた。
「うっ、」
座席から床へと崩れ落ちると、外から数頭の馬の蹄の音がした。
そして、すぐに馬車を叩く音がする。
「ローゼリア! ローゼリア! しっかりしろ! 無事か!? 破落戸どもは追い払った。ここを開けてくれ」
わたくしを思い遣るお兄様の声に、安心して扉を開けると、扉の外には馬に乗り、剣を抜いた近衛が10名ほどいて、わたくしたちを見守っていた。
両手を広げてわたくしを迎えるお兄様に、思わず安堵のため息が出てしまう。
「お兄様……」
わたくしの姿を見て、一瞬安心したような顔をしたお兄様だったが、すぐに顔と腕の魔獣火傷に気が付き、表情を歪めた。
「ローゼリア……。可哀想に、こんな傷まで背負って我々を救ってくれたのだな。もう安心するがいい。これから先は、わたしがおまえを守ろう」
涙ながらにわたくしを抱きしめてくれたお兄様は、わたくしを抱き抱えてご自分の馬に乗せて、王家の別荘まで連れて行ってくれる。
馬に揺られて振り返ると、馬車の周りには激しく争った跡があった。
きっと、御者の子どもは殺させていると思ったが、死体はどこにも落ちていない。
周りを取り囲む近衛に聞こえないように、わたくしはお兄様に声をかけた。
「お兄様、御者はどうしたのですか?」
「破落戸どもが攫って行った。孤児であるから身代金も取れないというのに」
「攫われたのはまずいのでは……」
「なに、万が一何かを話したとしても子どもの言うことに真剣に耳を傾ける者もいないだろう。そのためにも子どもを選んだのだ。しかも、破落戸どもに攫われて行ったのだ。おそらく、何かをしゃべる前に殺されるだろうな」
それもそうだ。
わたくしは頼りになるお兄様の言葉に、安心してその身を預けた。
お兄様はわたくしを安全に別荘まで連れて行ってくれるだろう。
大丈夫。
わたくしの未来は、変わらず薔薇色に染まっている。
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