202 / 255
20章 決着
2
しおりを挟む
キィィィン……!
剣と剣とがぶつかり合う音がする。
わたしは岩の影で隠れていたけど、見ていられなくて思わず目を閉じてしまった。
打ち合いをすると言っていたのに、それ以降の音が聞こえず、おっかなびっくり目を開けると、そこにはお兄様ではなく、ルーク様が魔物と剣を重ねている姿が見えた。
「なぜ……」
「義兄上。これはオレの戦いだ。これまでも義兄上にはいろいろと世話になった。これ以上、あなたに甘えていてはいけない」
「ニーナはどうなるっ!? ルーク様を、おまえを追いかけてあり得ない奇跡まで起こして、ここまでたどり着いたジーナはどうなるんだ!!」
魔物とルーク様が対峙するのを確認したように、一頭の魔獣がお兄様を襲う。
お兄様もルーク様も、それぞれ剣を振るい、それをいなす。
「義兄上、ジーナが奇跡を起こしたことはすごいことだと思う。それなら、オレも奇跡を起こそう。オレだって、何があってもニーナの元へ還ってくる。オレはニーナを愛している! 必ず戻る! だから、義兄上。それまで、ニーナを、ジーナを頼みます」
「ルーク様……」
お兄様の表情が緩んだその隙に、魔獣はお兄様に飛びかかった。
でも、お兄様も副官を務めるだけあって、爪の餌食になることはなかったが、お兄様より大きな黒豹の魔獣に押し倒される形となった。
両手で持つ剣で魔獣の牙を押さえ、かろうじて殺されるのを防いでいる状態だ。
「義兄上っ! 大丈夫ですかっ!?」
お兄様を気遣うルーク様も、魔物からの攻撃で後ろを向く余裕がない。
「こっちのことは大丈夫だ。それより、しっかり斬られないようにしてくれよ? 光と闇を融合させる前に、ルーク様が斬り殺されてしまったらジーナが浮かばれない」
「わかってますよ!」
ふたりとも、軽口を叩いているようで余裕がないのが側から見てもよくわかる。
わたしには、何もできることはないの?
ここから光の魔法をかけてみる?
ダメだ。届くわけがない。
石でも投げてぶつけてみようか?
いやいや、ノーコンのわたしが投げたら、運が悪ければルーク様に当っちゃう。
オロオロと様子を見ていると、二人の影でうごめくものを発見した。
二頭のいたうちの、もう一頭だ。
大人しくしていたから、ルーク様もお兄様も注意をはらっていない。
黒豹のような魔獣は、姿勢を低くしてルーク様を狙っているのがわかった。
でも、ルーク様は目の前の魔物しか見ていない。
どうしよう。
魔獣が飛びかかりそう。
どうしよう。
ルーク様が殺されちゃう。
どうしよう。
そんな時、わたしが取る行動は一つしかない。
決まっている。
「ルーク様っ! 危ない!!」
わたしはルークの前に飛び出した。
ガッ!
もの凄い衝撃と、静寂。
あぁ、背中が冷たい。
あの時と同じだ。
過ぎた痛みは冷たく感じるのは、今世でも変わらないんだね。
わたしは魔獣の爪で、背中を引き裂かれている。
背中、きっとひどい怪我だ。
だんだんと、指先にも冷たさが広がっていく。
ルーク様は振り向くと同時に、わたしを襲った魔獣を斬り裂いた。
お兄様もなんとか剣を振り抜き、魔獣を倒す。
最後の敵、魔物は剣を下ろし、わたしたちを見つめていた。
ルーク様がまた泣きそうな顔でわたしに駆け寄り、わたしを抱き起こした。
ふふ。
もう大人になったのに、あの時と同じお顔だね。
「ニーナっ! ニーナっ!!」
また、わたしはルーク様のところに還って来られるかなぁ。
次に転生して、あなたに逢ったらあなたは何歳?
そんな歳の差があっても、あなたはわたしを愛してくれるかしら?
今度はわたし、産まれた時からルーク様のことを思い出したいな。
だって、ルーク様に会うのが遅くなっちゃうもの。
「だめだっ! 逝くな、ニーナ、逝かないでくれ! これ以上、オレを置いて逝くなっ!!」
あの時と同じに、ルーク様の瞳からポロポロと涙が溢れる。
ごめんなさい。
また、あなたを泣かせてしまっ……た……ね……。
剣と剣とがぶつかり合う音がする。
わたしは岩の影で隠れていたけど、見ていられなくて思わず目を閉じてしまった。
打ち合いをすると言っていたのに、それ以降の音が聞こえず、おっかなびっくり目を開けると、そこにはお兄様ではなく、ルーク様が魔物と剣を重ねている姿が見えた。
「なぜ……」
「義兄上。これはオレの戦いだ。これまでも義兄上にはいろいろと世話になった。これ以上、あなたに甘えていてはいけない」
「ニーナはどうなるっ!? ルーク様を、おまえを追いかけてあり得ない奇跡まで起こして、ここまでたどり着いたジーナはどうなるんだ!!」
魔物とルーク様が対峙するのを確認したように、一頭の魔獣がお兄様を襲う。
お兄様もルーク様も、それぞれ剣を振るい、それをいなす。
「義兄上、ジーナが奇跡を起こしたことはすごいことだと思う。それなら、オレも奇跡を起こそう。オレだって、何があってもニーナの元へ還ってくる。オレはニーナを愛している! 必ず戻る! だから、義兄上。それまで、ニーナを、ジーナを頼みます」
「ルーク様……」
お兄様の表情が緩んだその隙に、魔獣はお兄様に飛びかかった。
でも、お兄様も副官を務めるだけあって、爪の餌食になることはなかったが、お兄様より大きな黒豹の魔獣に押し倒される形となった。
両手で持つ剣で魔獣の牙を押さえ、かろうじて殺されるのを防いでいる状態だ。
「義兄上っ! 大丈夫ですかっ!?」
お兄様を気遣うルーク様も、魔物からの攻撃で後ろを向く余裕がない。
「こっちのことは大丈夫だ。それより、しっかり斬られないようにしてくれよ? 光と闇を融合させる前に、ルーク様が斬り殺されてしまったらジーナが浮かばれない」
「わかってますよ!」
ふたりとも、軽口を叩いているようで余裕がないのが側から見てもよくわかる。
わたしには、何もできることはないの?
ここから光の魔法をかけてみる?
ダメだ。届くわけがない。
石でも投げてぶつけてみようか?
いやいや、ノーコンのわたしが投げたら、運が悪ければルーク様に当っちゃう。
オロオロと様子を見ていると、二人の影でうごめくものを発見した。
二頭のいたうちの、もう一頭だ。
大人しくしていたから、ルーク様もお兄様も注意をはらっていない。
黒豹のような魔獣は、姿勢を低くしてルーク様を狙っているのがわかった。
でも、ルーク様は目の前の魔物しか見ていない。
どうしよう。
魔獣が飛びかかりそう。
どうしよう。
ルーク様が殺されちゃう。
どうしよう。
そんな時、わたしが取る行動は一つしかない。
決まっている。
「ルーク様っ! 危ない!!」
わたしはルークの前に飛び出した。
ガッ!
もの凄い衝撃と、静寂。
あぁ、背中が冷たい。
あの時と同じだ。
過ぎた痛みは冷たく感じるのは、今世でも変わらないんだね。
わたしは魔獣の爪で、背中を引き裂かれている。
背中、きっとひどい怪我だ。
だんだんと、指先にも冷たさが広がっていく。
ルーク様は振り向くと同時に、わたしを襲った魔獣を斬り裂いた。
お兄様もなんとか剣を振り抜き、魔獣を倒す。
最後の敵、魔物は剣を下ろし、わたしたちを見つめていた。
ルーク様がまた泣きそうな顔でわたしに駆け寄り、わたしを抱き起こした。
ふふ。
もう大人になったのに、あの時と同じお顔だね。
「ニーナっ! ニーナっ!!」
また、わたしはルーク様のところに還って来られるかなぁ。
次に転生して、あなたに逢ったらあなたは何歳?
そんな歳の差があっても、あなたはわたしを愛してくれるかしら?
今度はわたし、産まれた時からルーク様のことを思い出したいな。
だって、ルーク様に会うのが遅くなっちゃうもの。
「だめだっ! 逝くな、ニーナ、逝かないでくれ! これ以上、オレを置いて逝くなっ!!」
あの時と同じに、ルーク様の瞳からポロポロと涙が溢れる。
ごめんなさい。
また、あなたを泣かせてしまっ……た……ね……。
1
お気に入りに追加
261
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
運命の歯車が壊れるとき
和泉鷹央
恋愛
戦争に行くから、君とは結婚できない。
恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。
他の投稿サイトでも掲載しております。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
記憶をなくしたあなたへ
ブラウン
恋愛
記憶をなくしたあなたへ。
私は誓約書通り、あなたとは会うことはありません。
あなたも誓約書通り私たちを探さないでください。
私には愛し合った記憶があるが、あなたにはないという事実。
もう一度信じることができるのか、愛せるのか。
2人の愛を紡いでいく。
本編は6話完結です。
それ以降は番外編で、カイルやその他の子供たちの状況などを投稿していきます
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する
紅子
恋愛
あなたは私の連理の枝。今世こそは比翼の鳥となりましょう。
私は、女神様のお願いで、愛し子として転生した。でも、そのことを誰にも告げる気はない。可愛らしくも美しい双子の妹の影で、いない子と扱われても特別な何かにはならない。私を愛してくれる人とこの世界でささやかな幸せを築ければそれで満足だ。
その希望を打ち砕くことが起こるとき、私は全力でそれに抗うだろう。
完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
夫と親友が、私に隠れて抱き合っていました ~2人の幸せのため、黙って身を引こうと思います~
小倉みち
恋愛
元侯爵令嬢のティアナは、幼馴染のジェフリーの元へ嫁ぎ、穏やかな日々を過ごしていた。
激しい恋愛関係の末に結婚したというわけではなかったが、それでもお互いに思いやりを持っていた。
貴族にありがちで平凡な、だけど幸せな生活。
しかし、その幸せは約1年で終わりを告げることとなる。
ティアナとジェフリーがパーティに参加したある日のこと。
ジェフリーとはぐれてしまったティアナは、彼を探しに中庭へと向かう。
――そこで見たものは。
ジェフリーと自分の親友が、暗闇の中で抱き合っていた姿だった。
「……もう、この気持ちを抑えきれないわ」
「ティアナに悪いから」
「だけど、あなただってそうでしょう? 私、ずっと忘れられなかった」
そんな会話を聞いてしまったティアナは、頭が真っ白になった。
ショックだった。
ずっと信じてきた夫と親友の不貞。
しかし怒りより先に湧いてきたのは、彼らに幸せになってほしいという気持ち。
私さえいなければ。
私さえ身を引けば、私の大好きな2人はきっと幸せになれるはず。
ティアナは2人のため、黙って実家に帰ることにしたのだ。
だがお腹の中には既に、小さな命がいて――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる