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19章 闘い

王家の闇

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王家に望まれた……?

茫然と剣を握るオレを見て、魔物は笑う。

『知らないのなら教えてやろう。何百年も前のことだ』



遠い昔。この国は飢饉に見舞われた。
何日も何日も、雨が降らなかったのだ。
大地は渇き、草木は枯れる。
民は飢えて痩せ細り、それに遅れて貴族や国王も飢えていった。

明日の食べ物にも困るようになったある日、城に仕えていた学者が言った。

いにしえの書には、神に生け贄いけにえを捧げて雨乞いをした記述があります」

国の最高権力者である国王ですら、満足に食べることができない。
贅沢に慣れた国王は、すぐに生け贄を用意することを選んだ。

生け贄はどのように選ぶか。

夜、国王が外を眺めると、月が赤く囁いていた。
″はやく、はやく血を捧げよ″と。

うるさく囁く月の横で、ひとつの輝く星が流れた。
ひとつ流れるとまたひとつと、国王の目に7つの星が流れていくのが見えた。
王は、明日生け贄を決めようと心に誓った。

城の会議室に集めた貴族たち。
ざわめく中、王の耳に届いた言葉があった。

「昨夜、子どもが産まれた」と。
年若い大臣は、嬉しそうにしながらも、食べる物がないため、乳の出が悪いと心配そうに話していた。

国王は席に着き、みなを黙らせると、おもむろに口を開く。

「雨が降るきざしがない。神に生け贄を捧げて、雨を乞い願うことにした」

ざわめく貴族たち。

「い、生け贄とは、どういうことでしょうか」

今までになかったことに、貴族は震える。

「そのままの意味だ。生きた人間を神に捧げる」

「そんなことで雨が降るわけがない!」

馬鹿らしい国王の言葉に、反対するものもいた。
しかし、何も方法がない今、他に代替え案も出なかった。

「陛下、生け贄はどのように選ぶのでしょうか」

ある貴族の言葉に国王は考える。

最初は、下賤の身から誰でもいいから殺そうと考えていた。
だが、嬉しそうに子どもが産まれたことを話す大臣の顔を見て、気が変わった。
確か、あそこの領地は災害のために蓄えをしていた。
蓄えた穀物を全て差し出せと言っても、全ては差し出さなかった。
「これ以上を納めたら、領民が飢えてしまいます。飢饉がきても飢えないように、他領よりも高い税を納めた領民の為に、これ以上は出せません」
生意気にもそう言った。

ふん。

国王は鼻を鳴らす。

「生け贄にする者は″赤い月の晩に7つの流れ星が流れた日に産まれた者″とするよう、古の書に書かれておる」
もちろん、その場の思いつきで言ったのだが。

会議に出席した者は顔を見合わせた。

「赤い月」
「7つの流れ星?」
「そういえば、昨日の月は赤かった」
「流れ星もいくつか流れたぞ」

昨日産まれた者。

そこに居る全ての者が、ある男に視線をやった。

「……何を……」

昨日子どもが産まれたと言った大臣は、自分の子どもが生け贄にされそうなことを悟り、弾かれたように立ち上がった。視線を振り切りその場から立ち去ろうと走り出す。
しかし、国王の衛兵を呼ぶ声が早く、大臣は幾人もの衛兵に取り押さえられ、家族を逃がすこともできずに、牢に入れられた。
牢からは、我が子を呼ぶ大臣の声がいつまでも悲鳴のように響いていた。

大臣が牢にいる間に、城の衛兵が大臣の屋敷に押し入り、産まれたばかりの赤ん坊を泣き叫ぶ夫人から取り上げて国王に捧げた。

その日のうちに、赤ん坊は王都より離れた山の中に棄てられた。

その山の前で、国王は形ばかりの祈りを捧げる。

「神に供物を捧げる。国民が、飢えることの無きよう、願い奉る」

国民が、死ぬまで働き、我が王家が、豊かに飢えることの無きように、その命の限り下々の者どもが、王家に尽くすよう、願い奉る。

国王の本心は、誰にも聞かれることはなかった。


国王は生け贄を捧げるこんなことくらいで雨が降るとは思っていなかった。

ただ、何もせずにいて、国民が反乱をおこすのは面倒だと思っていた。
生け贄を貴族から出し、平民と同じように苦しんでいるというパフォーマンスを見せることには成功したが。

さて。
この後はどうするか。
雨が降るのを祈るしかないが。

城に戻った国王は、臣下の身内の死を悼むふりをして、城の庭園に散歩に出た。

いつもなら綺麗に咲いた花が迎えてくれるのだが、日照り続きで水もやれずにほとんどの花が枯れていた。

からからに乾いた土を触る。

土が柔らかくなり、以前のように豊かな大地に戻るのはいつなのか。

じっと土を見つめると、土が勝手に動き出した。

国王が、柔らかくなれと念じると、その通りに土が動き始めたのだ。

これは一体どうしたことか。

国王はいろいろと試してみた。
大地全てが国王の思う通りに動くわけではないが、狭い範囲でなら土が国王の思うように動いた。

これは魔法か……?

神に生け贄を捧げたから、神が我に力を与えたのではないか?

あんな赤ん坊一人で不思議な力が手に入るのならば……。

にやりと、口角が上がるのを感じた。
いや、危ない危ない。

臣下の身内の死を悼んでいる国王は、決して笑みなど浮かべてはいけない。

しかし、そう思っていても、自然と口角は上がっていくのだった。
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