上 下
193 / 255
19章 闘い

6

しおりを挟む
木影に腰を下ろして休んでいるわたしたちを囲むように、数体の魔獣の気配を感じ始めた頃、お兄様が立ち上がった。

「さ、休んでいる暇はないようだ。のお越しだぜ」
お兄様はパンパンと足についた枯葉を払うと、剣を構えた。

それを見たルーク様が、わたしをきゅっと抱き寄せる。
「絶対に、オレ達から離れるんじゃないぞ」
耳元でそう囁くと、ルーク様も立ち上がり、剣を構える。

ふたりはわたしを背に庇い、気配の滲み出る方向に剣を向けた。

がさりと落ち葉が踏み潰される音がして、狼のような魔獣が二体現れた。
その後ろから、二足歩行の大型が一体唸り声をさせながら、ゆっくりとこちらに向かってくる。

全部で三体。

「魔物の近くに来たのに、もう、これだけしか現れないということは、我が討伐隊はかなりいい働きをしたと言うことだな」
「そうですね。義兄上がここにくる途中にも、かなりの数の討伐された魔獣が転がっていたでしょう?」
「まあな」

ルーク様たちは魔獣から目を離さずに会話をする。

ひぇぇぇ。
よくこんな状況で普通どおりに話ができるよ~。
ルーク様もお兄様も、信用していないわけではないけれど、怖いものは怖くて、わたしは小さくなりながらそれを見守っていた。

ふと、視線を上げた時に、狂犬病にかかった犬のように、涎をたらし目を血走らせている魔獣と目が合った。

「っ!」
目が合った瞬間、わたしはおびえてしまった。
わたしがひるんだのを見て、魔獣の一体がわたしに飛びかかった。

「いやぁ!」
わたしはその場に頭を抱えてしゃがみ込む。

しかし、魔獣がわたしを襲うより早く、ルーク様の剣が魔獣を斬り裂いた。

「ニーナ! 座り込むな。怯えた様子を見せるな。アイツらは、自分より弱い者には躊躇なく襲い掛かってくる」

ルーク様の声に、わたしははっとして立ち上がった。
足手まといになるためにここに来たんじゃない。
ルーク様を、御守りするためにここにいるんだ。
しっかりしろ! わたし!

わたしが立ち上がったのを見て、ルーク様とお兄様は魔獣を相手に剣を振るった。

ルーク様は火の魔法の持ち主で、剣に炎を纏って魔獣を斬り捨てる。
お兄様は風の魔法の持ち主で、剣を振ると剣に風の圧がかかるのだ。
魔獣はかまいたちにあったかのように、ズタズタに切り裂かれる。

ちなみに、水の剣士は剣から凄い水圧の水が出て、圧力で切られたところが抉り取られる。
土の剣士は振った先の土が味方をしてくれるので、切ると同時に土が魔獣を襲う。
足が土に埋もれたり、切られたところから生き埋めにできたりするらしい。


「念のために、ルーク様の剣に光の魔法を掛け直してくれるか?」

お兄様が剣についた魔獣の血を振り払いながら言う。

「かしこまりました。お兄様は大丈夫ですか?」
「オレは塔に戻った時に掛け直してもらった魔力がまだ残ってるから。それに、ニーナの魔法を剣に掛けたことがないから、どんな風になるか予想がつかん。それなら、訓練と同じ魔法の方がいい」
「そうですか」

わたしがルーク様の剣に魔法を重ね掛けすると、剣に込めた魔力が少し溢れ出た。

「ルーク様、あんまり魔法は使わなかったのですか?」
「あぁ、そうだな。魔獣一体くらいを斬るならば、魔法を使わなくても大丈夫だったし、使った後で魔物と対峙した時に、光の魔法がなくなっていたら意味がないと思ってたんで。……ニーナが来ると思ってなかったしな」

ルーク様は軽くわたしを睨んだ。

「何故、ここに居るのかは討伐が終わった後で、ゆっくりと聞かせてもらうからな。ニーナ、義兄上、行きますよ」

笑っていない目で微笑まれたわたしは、ぶるると身を震わせた。
魔獣より、ルーク様の方が怖いかも……。

ゆっくりと進むわたしたちは、岩の砦の入り口までたどり着いた。





*****************



遅くなりましたが、本年もどうぞよろしくお願い致します。^_^

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

記憶をなくしたあなたへ

ブラウン
恋愛
記憶をなくしたあなたへ。 私は誓約書通り、あなたとは会うことはありません。 あなたも誓約書通り私たちを探さないでください。 私には愛し合った記憶があるが、あなたにはないという事実。 もう一度信じることができるのか、愛せるのか。 2人の愛を紡いでいく。 本編は6話完結です。 それ以降は番外編で、カイルやその他の子供たちの状況などを投稿していきます

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する

紅子
恋愛
あなたは私の連理の枝。今世こそは比翼の鳥となりましょう。 私は、女神様のお願いで、愛し子として転生した。でも、そのことを誰にも告げる気はない。可愛らしくも美しい双子の妹の影で、いない子と扱われても特別な何かにはならない。私を愛してくれる人とこの世界でささやかな幸せを築ければそれで満足だ。 その希望を打ち砕くことが起こるとき、私は全力でそれに抗うだろう。 完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

夫と親友が、私に隠れて抱き合っていました ~2人の幸せのため、黙って身を引こうと思います~

小倉みち
恋愛
 元侯爵令嬢のティアナは、幼馴染のジェフリーの元へ嫁ぎ、穏やかな日々を過ごしていた。  激しい恋愛関係の末に結婚したというわけではなかったが、それでもお互いに思いやりを持っていた。  貴族にありがちで平凡な、だけど幸せな生活。  しかし、その幸せは約1年で終わりを告げることとなる。  ティアナとジェフリーがパーティに参加したある日のこと。  ジェフリーとはぐれてしまったティアナは、彼を探しに中庭へと向かう。  ――そこで見たものは。  ジェフリーと自分の親友が、暗闇の中で抱き合っていた姿だった。 「……もう、この気持ちを抑えきれないわ」 「ティアナに悪いから」 「だけど、あなただってそうでしょう? 私、ずっと忘れられなかった」  そんな会話を聞いてしまったティアナは、頭が真っ白になった。  ショックだった。  ずっと信じてきた夫と親友の不貞。  しかし怒りより先に湧いてきたのは、彼らに幸せになってほしいという気持ち。  私さえいなければ。  私さえ身を引けば、私の大好きな2人はきっと幸せになれるはず。  ティアナは2人のため、黙って実家に帰ることにしたのだ。  だがお腹の中には既に、小さな命がいて――。

旦那様に離縁をつきつけたら

cyaru
恋愛
駆け落ち同然で結婚したシャロンとシリウス。 仲の良い夫婦でずっと一緒だと思っていた。 突然現れた子連れの女性、そして腕を組んで歩く2人。 我慢の限界を迎えたシャロンは神殿に離縁の申し込みをした。 ※色々と異世界の他に現実に近いモノや妄想の世界をぶっこんでいます。 ※設定はかなり他の方の作品とは異なる部分があります。

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

処理中です...