175 / 255
18章 討伐
1
しおりを挟む
討伐まであと一週間。
最近の訓練は追い込みをかけていて、わたしもルーク様もギリギリまで魔力と体力を消耗するため、デイヴィス家の別棟に帰る頃には泥のように眠っていることがある。
ルーク様はさすがというか、馬車の中で居眠りすることはないのだけれど、わたしは帰りの馬車の中でも寝込んでしまうことが多い。
ルーク様はそんなわたしを抱き抱えて、自室のベッドまで連れて行き、そのまま一緒に寝てしまうのだ。
最初の頃はフランクさんとサリーさんに怒られていたけど、もうそんな男女で同衾してもなんの間違いも起こしようがないくらい疲れているのを見て、何も言われなくなった。
当然、夕飯も食べずに寝ることも多いので、その分朝に重い食事が出てくる。
今朝は朝からステーキが出てきた。
わたしは平気でモリモリ食べるけど、ルーク様は胸焼けがすると言って、なかなか口にお肉を運べない。
「オレの若さがニーナに追いつかない……!!」
ルーク様がナイフとフォークを握って、悔しそうにわたしを見る。
今は、ルーク様のお部屋で、ふたりで朝食を食べているところだ。
「ルーク様、無理して食べなくても大丈夫ですよ? 元々食が細いんですし……」
「だが、ニーナより食べられないというのは、男としての威厳が」
「別にステーキ食べられなくたって、ルーク様は立派に男の人ですよ。食が細いルーク様もわたしは大好きですし」
「だっ……っっ!」
わたしが素直に思ったことを言うと、何故かルーク様は真っ赤になって、冷たいお水を一気飲みしていた。
ルーク様も十代の頃は、わたしが見ているだけで胸焼けがするほど食べていた人だ。
きっと、わたしがいなくなってから、食が細くなったのだろう。
討伐が終わったら、ゆっくり食べる楽しみとか、量とか栄養バランスとか、ルーク様と一緒に考えていきたい。
わたしはすっかりテーブルの上のものを食べ終わり、デザートのヨーグルトをのんびり食べる。
「でも、なんで今日はこんなにゆっくりなんですか?」
いつもならとっくに家を出ている時間なのに、ルーク様がまだゆっくりしていらっしゃるので、わたしもゆっくりと朝食が食べられた。
ルーク様はもうお腹いっぱいらしくて、ナイフとフォークをまとめてお皿の右端へと置く。
「なんだ、少し前から義兄上が言っていたのを聞いていなかったのか? 討伐当日に疲れ果てていてはいけないから、今日から当日までは、軽く訓練する程度だ。時間も朝ゆっくりで夕方早めに解散する」
あ、そうだったんですね。
わたしは帰りは朦朧として眠っちゃうし、ルーク様について行けば大丈夫と思っていたので、あまり気にしていませんでした。
「だったら休みにしちゃえばいいのに」
「何日も休んで体が動かなくなったら困るだろ。ほどほどには訓練をしておいた方がいいんだ」
ふーん。
そんなもんなのか。
わたしは食べ終わった食器を片付けて、支度をしに一旦自室に戻ることにした。
「ニーナ、出発は1時間後だ」
「かしこまりました」
わたしは急いで食器を厨房に戻して、自室に帰ってからシャワーを浴びて支度もして玄関ホールに急いだ。
いつもよりゆっくりめに演習場に行くと、ちらほらと隊士達も集まってきて、そこからはいつも通りの基礎訓練が行われる。
わたしにはランニング等の基礎訓練は関係ないから、観覧席に座ってその様子を見ていた。
ある程度の基礎訓練が終わる頃に、光の討伐隊も演習場にやってくる。
当然というか、なんで? というか、もちろんその中にローゼリア様の姿はなかった。
本当に、ローゼリア様はルーク様の婚約者として、ルーク様をお守りする気があるんだろうか。
そう考えて、ちくりと胸が痛いことに気がついた。
今まで、見ないふりをしていたけれど、ルーク様とローゼリア様は婚約していらっしゃるんだ。
わたしがどんなにルーク様を好きでも、前世と違ってルーク様と結婚できるわけではない。
討伐が終わって、ルーク様とローゼリア様がご結婚なさったら、わたしはどうしたらいいんだろう。
ぼんやり考え事をしながらルーク様の訓練の様子を見ていると、あっと言う間にお昼になった。
暗い考えは置いておいて、わたしはいつも通り、ランチボックスを持って、ルーク様の控室へと急いで行った。
いつも、午前中の体術の訓練の時は観覧席でそれを見ていて、わたしが訓練に参加するのは午後からなのだ。
控室の鍵は渡してもらっているので、勝手に部屋に入り、3人分のお茶を入れてルーク様とお兄様がやってくるのを待つ。
ポットに入れたお茶が飲み頃になった頃、ルーク様とお兄様が部屋に入ってきた。
ルーク様は眉間に皺を寄せて、ソファにどっかりと腰を下ろした。
「ルーク様、どうなさったんですか?」
不機嫌そうなルーク様に、わたしは思わず声をあげてしまった。
すると、ルーク様の後に続いて部屋に入ってきたお兄様が、ポリポリと頭をかきながらソファへと座った。
「あー……。実はな、これからオレとルーク様は王城に行かなければならなくなったんだ」
「打ち合わせですか?」
「まあ、多分な。予定にないことだったし、今日は演習場にローゼリアも来ないでサボってしまったから、ルーク様は機嫌が悪い」
お兄様の言葉に、ルーク様はギロリと視線を鋭くする。
ルーク様の不機嫌になる気持ちもわかる。
光の討伐隊の隊長なのに、ラスト一週間の訓練もサボるなんて。
おまけに、急な呼び出しで訓練の邪魔をされて。
「まぁ、まぁ。美味しいお昼でも食べましょう。王城へはお昼食べてからでいいんでしょ?せっかく飲み頃に入れたお茶が冷めちゃいますよ~」
わたしが笑顔でそう言うと、しかめっ面だったルーク様のお顔も、少しだけ和らいだ。
最近の訓練は追い込みをかけていて、わたしもルーク様もギリギリまで魔力と体力を消耗するため、デイヴィス家の別棟に帰る頃には泥のように眠っていることがある。
ルーク様はさすがというか、馬車の中で居眠りすることはないのだけれど、わたしは帰りの馬車の中でも寝込んでしまうことが多い。
ルーク様はそんなわたしを抱き抱えて、自室のベッドまで連れて行き、そのまま一緒に寝てしまうのだ。
最初の頃はフランクさんとサリーさんに怒られていたけど、もうそんな男女で同衾してもなんの間違いも起こしようがないくらい疲れているのを見て、何も言われなくなった。
当然、夕飯も食べずに寝ることも多いので、その分朝に重い食事が出てくる。
今朝は朝からステーキが出てきた。
わたしは平気でモリモリ食べるけど、ルーク様は胸焼けがすると言って、なかなか口にお肉を運べない。
「オレの若さがニーナに追いつかない……!!」
ルーク様がナイフとフォークを握って、悔しそうにわたしを見る。
今は、ルーク様のお部屋で、ふたりで朝食を食べているところだ。
「ルーク様、無理して食べなくても大丈夫ですよ? 元々食が細いんですし……」
「だが、ニーナより食べられないというのは、男としての威厳が」
「別にステーキ食べられなくたって、ルーク様は立派に男の人ですよ。食が細いルーク様もわたしは大好きですし」
「だっ……っっ!」
わたしが素直に思ったことを言うと、何故かルーク様は真っ赤になって、冷たいお水を一気飲みしていた。
ルーク様も十代の頃は、わたしが見ているだけで胸焼けがするほど食べていた人だ。
きっと、わたしがいなくなってから、食が細くなったのだろう。
討伐が終わったら、ゆっくり食べる楽しみとか、量とか栄養バランスとか、ルーク様と一緒に考えていきたい。
わたしはすっかりテーブルの上のものを食べ終わり、デザートのヨーグルトをのんびり食べる。
「でも、なんで今日はこんなにゆっくりなんですか?」
いつもならとっくに家を出ている時間なのに、ルーク様がまだゆっくりしていらっしゃるので、わたしもゆっくりと朝食が食べられた。
ルーク様はもうお腹いっぱいらしくて、ナイフとフォークをまとめてお皿の右端へと置く。
「なんだ、少し前から義兄上が言っていたのを聞いていなかったのか? 討伐当日に疲れ果てていてはいけないから、今日から当日までは、軽く訓練する程度だ。時間も朝ゆっくりで夕方早めに解散する」
あ、そうだったんですね。
わたしは帰りは朦朧として眠っちゃうし、ルーク様について行けば大丈夫と思っていたので、あまり気にしていませんでした。
「だったら休みにしちゃえばいいのに」
「何日も休んで体が動かなくなったら困るだろ。ほどほどには訓練をしておいた方がいいんだ」
ふーん。
そんなもんなのか。
わたしは食べ終わった食器を片付けて、支度をしに一旦自室に戻ることにした。
「ニーナ、出発は1時間後だ」
「かしこまりました」
わたしは急いで食器を厨房に戻して、自室に帰ってからシャワーを浴びて支度もして玄関ホールに急いだ。
いつもよりゆっくりめに演習場に行くと、ちらほらと隊士達も集まってきて、そこからはいつも通りの基礎訓練が行われる。
わたしにはランニング等の基礎訓練は関係ないから、観覧席に座ってその様子を見ていた。
ある程度の基礎訓練が終わる頃に、光の討伐隊も演習場にやってくる。
当然というか、なんで? というか、もちろんその中にローゼリア様の姿はなかった。
本当に、ローゼリア様はルーク様の婚約者として、ルーク様をお守りする気があるんだろうか。
そう考えて、ちくりと胸が痛いことに気がついた。
今まで、見ないふりをしていたけれど、ルーク様とローゼリア様は婚約していらっしゃるんだ。
わたしがどんなにルーク様を好きでも、前世と違ってルーク様と結婚できるわけではない。
討伐が終わって、ルーク様とローゼリア様がご結婚なさったら、わたしはどうしたらいいんだろう。
ぼんやり考え事をしながらルーク様の訓練の様子を見ていると、あっと言う間にお昼になった。
暗い考えは置いておいて、わたしはいつも通り、ランチボックスを持って、ルーク様の控室へと急いで行った。
いつも、午前中の体術の訓練の時は観覧席でそれを見ていて、わたしが訓練に参加するのは午後からなのだ。
控室の鍵は渡してもらっているので、勝手に部屋に入り、3人分のお茶を入れてルーク様とお兄様がやってくるのを待つ。
ポットに入れたお茶が飲み頃になった頃、ルーク様とお兄様が部屋に入ってきた。
ルーク様は眉間に皺を寄せて、ソファにどっかりと腰を下ろした。
「ルーク様、どうなさったんですか?」
不機嫌そうなルーク様に、わたしは思わず声をあげてしまった。
すると、ルーク様の後に続いて部屋に入ってきたお兄様が、ポリポリと頭をかきながらソファへと座った。
「あー……。実はな、これからオレとルーク様は王城に行かなければならなくなったんだ」
「打ち合わせですか?」
「まあ、多分な。予定にないことだったし、今日は演習場にローゼリアも来ないでサボってしまったから、ルーク様は機嫌が悪い」
お兄様の言葉に、ルーク様はギロリと視線を鋭くする。
ルーク様の不機嫌になる気持ちもわかる。
光の討伐隊の隊長なのに、ラスト一週間の訓練もサボるなんて。
おまけに、急な呼び出しで訓練の邪魔をされて。
「まぁ、まぁ。美味しいお昼でも食べましょう。王城へはお昼食べてからでいいんでしょ?せっかく飲み頃に入れたお茶が冷めちゃいますよ~」
わたしが笑顔でそう言うと、しかめっ面だったルーク様のお顔も、少しだけ和らいだ。
1
お気に入りに追加
261
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
運命の歯車が壊れるとき
和泉鷹央
恋愛
戦争に行くから、君とは結婚できない。
恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。
他の投稿サイトでも掲載しております。
記憶をなくしたあなたへ
ブラウン
恋愛
記憶をなくしたあなたへ。
私は誓約書通り、あなたとは会うことはありません。
あなたも誓約書通り私たちを探さないでください。
私には愛し合った記憶があるが、あなたにはないという事実。
もう一度信じることができるのか、愛せるのか。
2人の愛を紡いでいく。
本編は6話完結です。
それ以降は番外編で、カイルやその他の子供たちの状況などを投稿していきます
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する
紅子
恋愛
あなたは私の連理の枝。今世こそは比翼の鳥となりましょう。
私は、女神様のお願いで、愛し子として転生した。でも、そのことを誰にも告げる気はない。可愛らしくも美しい双子の妹の影で、いない子と扱われても特別な何かにはならない。私を愛してくれる人とこの世界でささやかな幸せを築ければそれで満足だ。
その希望を打ち砕くことが起こるとき、私は全力でそれに抗うだろう。
完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
夫と親友が、私に隠れて抱き合っていました ~2人の幸せのため、黙って身を引こうと思います~
小倉みち
恋愛
元侯爵令嬢のティアナは、幼馴染のジェフリーの元へ嫁ぎ、穏やかな日々を過ごしていた。
激しい恋愛関係の末に結婚したというわけではなかったが、それでもお互いに思いやりを持っていた。
貴族にありがちで平凡な、だけど幸せな生活。
しかし、その幸せは約1年で終わりを告げることとなる。
ティアナとジェフリーがパーティに参加したある日のこと。
ジェフリーとはぐれてしまったティアナは、彼を探しに中庭へと向かう。
――そこで見たものは。
ジェフリーと自分の親友が、暗闇の中で抱き合っていた姿だった。
「……もう、この気持ちを抑えきれないわ」
「ティアナに悪いから」
「だけど、あなただってそうでしょう? 私、ずっと忘れられなかった」
そんな会話を聞いてしまったティアナは、頭が真っ白になった。
ショックだった。
ずっと信じてきた夫と親友の不貞。
しかし怒りより先に湧いてきたのは、彼らに幸せになってほしいという気持ち。
私さえいなければ。
私さえ身を引けば、私の大好きな2人はきっと幸せになれるはず。
ティアナは2人のため、黙って実家に帰ることにしたのだ。
だがお腹の中には既に、小さな命がいて――。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる