172 / 255
17章 隊服
9
しおりを挟む
シスターアベールはわたしに近付くと、テーブルに置いた籐の籠からまち針を取り出すと、素早くわたしの体に合わせて服を詰めていき、まち針で留める。
「この隊服はね、男女問わず同じものを着るのよ。男性はこの隊服だけだけど、女性はこの上に白いベールを着けるわ」
てきぱきと針を操りながら教えてくれる。
そうか。
ベールをかぶるのか。
それなら顔を隠しやすいかな。
次々とまち針で仮留めされていく隊服。
胸のところに折り返しがあり、腰がキュッとしまってそこから先はスカート状になる。
丈はくるぶしまでが規定の長さだそうだ。
「はい、終わり。そうね、一着だから明日には出来上がるわ」
シスターアベールは針に注意しながら隊服を脱がせていく。
えっ、明日?
明日は訓練があるから取りに来られないわ。
訓練の後はルーク様とお屋敷に帰って、ルーク様の身の回りのことをやらなくてはならないし、全部終わって自由な時間が得られるのは深夜になる。
わたしが何も言えずに困っていると、お父様がシスターアベールに声をかけた。
「シスター、ありがとうございました。討伐も近いので助かりました。では、よろしくお願いします」
お父様に倣って、わたしも慌てて頭を下げた。
「本当に、ありがとうございました」
そう言って顔を上げると、シスターアベールは少し笑った。
「なぁに、気にしなくてもいいわよ。これがわたしの仕事なんだから。それより、わたしには光の才能がなくて討伐には参加できないけど、あんたはがんばってね。祈るくらいはできるから、当日は誠心誠意祈っとくわ」
シスターアベールは軽く隊服をたたんで、籐の籠と一緒にそれを持って部屋を出て行った。
パタンとドアが閉まって、部屋にお父様と2人きりになると、わたしはお父様に泣きついた。
「お父様! 明日では困るんです。自由な時間って今日しかなくって……。もし、明日になるなら深夜になるけど取りに来てもいいですか!?」
お父様はわたしの勢いに、少し後ずさったけど、くすりと笑ってわたしの腕を掴み、わたしをソファに座らせた。
「大丈夫だよ、心配しなくても。明日、直しが済んだらわたしが受け取ってデイヴィス家に届けよう」
「お父様がデイヴィス家に来たら、ルーク様に気付かれちゃいます……」
だって、お父様は元婚約者の父!
もし、お屋敷に来たら、ルーク様の耳に入らない訳がない。
「大丈夫。それはわたしの方でなんとかしよう」
「ほんとに?」
「ああ。本当だよ。わたしがジーナとの約束を守らなかったことがあるかい?」
「……ないわ」
「では、安心してわたしに任せて、きみはお屋敷に帰りなさい」
「……はい」
お父様の笑顔が、あんまりにも変わりなく、いえ、変わったのは変わったんだけど。シワとか白髪とか。でも、以前と同じ、優しくて安心できる笑顔を見たら、もうお父様に全てを任せようと思った。
「お父様……」
わたしはお父様の胸に顔を埋めて、甘えるようにきゅっと抱きついた。
「おいおい。ジーナは生まれ変わっても甘えん坊だな。昔を思い出すよ。小さなきみが、わたしの腕に抱かれて、安心したように眠りについたあの日を」
お父様も、わたしに回した腕に少しだけ力を入れる。
ぽとんと、お父様の瞳から落ちた雫がわたしの肩を濡らしたけれど、わたしはそのままお父様の胸に頬を擦り寄せた。
「この隊服はね、男女問わず同じものを着るのよ。男性はこの隊服だけだけど、女性はこの上に白いベールを着けるわ」
てきぱきと針を操りながら教えてくれる。
そうか。
ベールをかぶるのか。
それなら顔を隠しやすいかな。
次々とまち針で仮留めされていく隊服。
胸のところに折り返しがあり、腰がキュッとしまってそこから先はスカート状になる。
丈はくるぶしまでが規定の長さだそうだ。
「はい、終わり。そうね、一着だから明日には出来上がるわ」
シスターアベールは針に注意しながら隊服を脱がせていく。
えっ、明日?
明日は訓練があるから取りに来られないわ。
訓練の後はルーク様とお屋敷に帰って、ルーク様の身の回りのことをやらなくてはならないし、全部終わって自由な時間が得られるのは深夜になる。
わたしが何も言えずに困っていると、お父様がシスターアベールに声をかけた。
「シスター、ありがとうございました。討伐も近いので助かりました。では、よろしくお願いします」
お父様に倣って、わたしも慌てて頭を下げた。
「本当に、ありがとうございました」
そう言って顔を上げると、シスターアベールは少し笑った。
「なぁに、気にしなくてもいいわよ。これがわたしの仕事なんだから。それより、わたしには光の才能がなくて討伐には参加できないけど、あんたはがんばってね。祈るくらいはできるから、当日は誠心誠意祈っとくわ」
シスターアベールは軽く隊服をたたんで、籐の籠と一緒にそれを持って部屋を出て行った。
パタンとドアが閉まって、部屋にお父様と2人きりになると、わたしはお父様に泣きついた。
「お父様! 明日では困るんです。自由な時間って今日しかなくって……。もし、明日になるなら深夜になるけど取りに来てもいいですか!?」
お父様はわたしの勢いに、少し後ずさったけど、くすりと笑ってわたしの腕を掴み、わたしをソファに座らせた。
「大丈夫だよ、心配しなくても。明日、直しが済んだらわたしが受け取ってデイヴィス家に届けよう」
「お父様がデイヴィス家に来たら、ルーク様に気付かれちゃいます……」
だって、お父様は元婚約者の父!
もし、お屋敷に来たら、ルーク様の耳に入らない訳がない。
「大丈夫。それはわたしの方でなんとかしよう」
「ほんとに?」
「ああ。本当だよ。わたしがジーナとの約束を守らなかったことがあるかい?」
「……ないわ」
「では、安心してわたしに任せて、きみはお屋敷に帰りなさい」
「……はい」
お父様の笑顔が、あんまりにも変わりなく、いえ、変わったのは変わったんだけど。シワとか白髪とか。でも、以前と同じ、優しくて安心できる笑顔を見たら、もうお父様に全てを任せようと思った。
「お父様……」
わたしはお父様の胸に顔を埋めて、甘えるようにきゅっと抱きついた。
「おいおい。ジーナは生まれ変わっても甘えん坊だな。昔を思い出すよ。小さなきみが、わたしの腕に抱かれて、安心したように眠りについたあの日を」
お父様も、わたしに回した腕に少しだけ力を入れる。
ぽとんと、お父様の瞳から落ちた雫がわたしの肩を濡らしたけれど、わたしはそのままお父様の胸に頬を擦り寄せた。
1
お気に入りに追加
261
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
運命の歯車が壊れるとき
和泉鷹央
恋愛
戦争に行くから、君とは結婚できない。
恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。
他の投稿サイトでも掲載しております。
記憶をなくしたあなたへ
ブラウン
恋愛
記憶をなくしたあなたへ。
私は誓約書通り、あなたとは会うことはありません。
あなたも誓約書通り私たちを探さないでください。
私には愛し合った記憶があるが、あなたにはないという事実。
もう一度信じることができるのか、愛せるのか。
2人の愛を紡いでいく。
本編は6話完結です。
それ以降は番外編で、カイルやその他の子供たちの状況などを投稿していきます
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する
紅子
恋愛
あなたは私の連理の枝。今世こそは比翼の鳥となりましょう。
私は、女神様のお願いで、愛し子として転生した。でも、そのことを誰にも告げる気はない。可愛らしくも美しい双子の妹の影で、いない子と扱われても特別な何かにはならない。私を愛してくれる人とこの世界でささやかな幸せを築ければそれで満足だ。
その希望を打ち砕くことが起こるとき、私は全力でそれに抗うだろう。
完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
夫と親友が、私に隠れて抱き合っていました ~2人の幸せのため、黙って身を引こうと思います~
小倉みち
恋愛
元侯爵令嬢のティアナは、幼馴染のジェフリーの元へ嫁ぎ、穏やかな日々を過ごしていた。
激しい恋愛関係の末に結婚したというわけではなかったが、それでもお互いに思いやりを持っていた。
貴族にありがちで平凡な、だけど幸せな生活。
しかし、その幸せは約1年で終わりを告げることとなる。
ティアナとジェフリーがパーティに参加したある日のこと。
ジェフリーとはぐれてしまったティアナは、彼を探しに中庭へと向かう。
――そこで見たものは。
ジェフリーと自分の親友が、暗闇の中で抱き合っていた姿だった。
「……もう、この気持ちを抑えきれないわ」
「ティアナに悪いから」
「だけど、あなただってそうでしょう? 私、ずっと忘れられなかった」
そんな会話を聞いてしまったティアナは、頭が真っ白になった。
ショックだった。
ずっと信じてきた夫と親友の不貞。
しかし怒りより先に湧いてきたのは、彼らに幸せになってほしいという気持ち。
私さえいなければ。
私さえ身を引けば、私の大好きな2人はきっと幸せになれるはず。
ティアナは2人のため、黙って実家に帰ることにしたのだ。
だがお腹の中には既に、小さな命がいて――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる