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17章 隊服
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「お、お父様、そんな急に……」
オロオロとするわたしに、お父様は微笑みかける。
「何を心配しているんだい? 大丈夫だよ。大司教様はお優しい方だから」
「いや、優しい優しくないの問題ではなくてですね、なんてお願いをしようか、まだ考えがまとまっていなくて」
そもそも、普通はそう簡単にお会いできる方ではないのだから、まずなんて言えばいいのかすらもわからない。
「ああ、そんなこと。きみは何も言わなくていいよ。わたしが大司教様にお話ししよう」
お父様はそう言うと、わたしの手を取って部屋を出た。
こうなったら、もうお父様にお任せするしかない。
わたしは、黙ってお父様に連れられて廊下を歩いた。
白く、綺麗な廊下を歩いていくと、一番奥に大きなドアが見えてきた。
お父様はそのドアの前で立ち止まると、コンコンと軽くノックをする。
「大司教様、ジョー・ミラーです」
お父様はドアの前で名乗ると、耳を澄ませた。
「ジョーか。入りなさい」
ドアの奥から小さな声が聞こえる。
「さあ、行くよ」
お父様はわたしにだけ聞こえるような小さな声でそう言って、ゆっくりとドアを開けた。
ドアの向こうには、臙脂色のカーペットの上に大きな机と、いくつかの大きな本棚にぎっしりと本が詰まっているのが見えた。
その大きな机の向こうに、座っている大司教様らしき人がいた。
朱色に金糸で刺繍の施されたローブを着て、ローブと同じ様に朱色に金糸で刺繍されたミトラ(帽子)をかぶっている。
髪も髭も白髪で、なんか冬の寒い時期にトナカイが引くソリに乗ってやってくる、赤い服を着たあの人を連想させるような方だった。
ローブも赤だし…。
つい、と大司教様の視線がわたしに動く。
「ジョー、そちらのお嬢さんは?」
一瞬、わたしはぴくりと体を強張らせる。
そんなわたしをよそに、お父様はわたしを大司教様の前に立たせた。
「光の討伐隊の者です。隊服をいただきたく参上したそうです」
けろっと、お父様はわたしを光の討伐隊だと紹介してしまった。
ええーっっ!
お父様、なんてことを!
嘘がバレたらどうするんですか!?
だらだらと冷や汗が流れそうになるが、気持ちをぐっと堪えて笑顔を作る。
「ニーナと申します。平民ですので家名はございません。お忙しい中、申し訳ございません。隊服をいただきたく参上いたしました。何卒、よろしくお願い致します」
ワンピースの裾を軽く持ち上げ、カーテシーをする。
大司教様は、そんなわたしをじっと見つめていた。
わたしも顔を上げて大司教様を見つめたが、大司教様は微動だにせず、わたしを見ている。
い、居心地が悪い…。
それでもわたしは笑顔を崩さずに、大司教様の視線に笑顔で応えた。
大司教様は、次にお父様に向き直り、お父様の目をじっと見つめた。
「そうか。討伐隊の隊服か」
真剣な表情でお父様に力強く言うと、お父様も大きく頷いた。
「はい。必要、だったのです」
「そうか。このために……」
大司教様は次に、わたしの方へと顔を向けると、今度はゆっくりと笑顔を浮かべた。
「よく来たね。ここまで、よく来たね。では、隊服につける印章を授けよう」
そして、机の引き出しを開けると、一枚のワッペンを取り出して、何やら詠唱を始めた。
「…………、命を賭し、平和を守る者に神の御加護があらんことを」
言い終わった大司教様が、ワッペンを額に頂くと、ワッペンは白く光り、その光はワッペンの中に吸い込まれるように消えて行った。
「ジョー、これを隊服につけて渡してあげなさい」
大司教様はヒラヒラと認定章をお父様に向けて振った。
「ありがとうございます。さ、ニーナも」
「あ、ありがとうございます! しっかり勤めをはたします」
慌てて頭を下げるわたしに、大司教様はにっこりと笑い、何度も頷いてくれた。
オロオロとするわたしに、お父様は微笑みかける。
「何を心配しているんだい? 大丈夫だよ。大司教様はお優しい方だから」
「いや、優しい優しくないの問題ではなくてですね、なんてお願いをしようか、まだ考えがまとまっていなくて」
そもそも、普通はそう簡単にお会いできる方ではないのだから、まずなんて言えばいいのかすらもわからない。
「ああ、そんなこと。きみは何も言わなくていいよ。わたしが大司教様にお話ししよう」
お父様はそう言うと、わたしの手を取って部屋を出た。
こうなったら、もうお父様にお任せするしかない。
わたしは、黙ってお父様に連れられて廊下を歩いた。
白く、綺麗な廊下を歩いていくと、一番奥に大きなドアが見えてきた。
お父様はそのドアの前で立ち止まると、コンコンと軽くノックをする。
「大司教様、ジョー・ミラーです」
お父様はドアの前で名乗ると、耳を澄ませた。
「ジョーか。入りなさい」
ドアの奥から小さな声が聞こえる。
「さあ、行くよ」
お父様はわたしにだけ聞こえるような小さな声でそう言って、ゆっくりとドアを開けた。
ドアの向こうには、臙脂色のカーペットの上に大きな机と、いくつかの大きな本棚にぎっしりと本が詰まっているのが見えた。
その大きな机の向こうに、座っている大司教様らしき人がいた。
朱色に金糸で刺繍の施されたローブを着て、ローブと同じ様に朱色に金糸で刺繍されたミトラ(帽子)をかぶっている。
髪も髭も白髪で、なんか冬の寒い時期にトナカイが引くソリに乗ってやってくる、赤い服を着たあの人を連想させるような方だった。
ローブも赤だし…。
つい、と大司教様の視線がわたしに動く。
「ジョー、そちらのお嬢さんは?」
一瞬、わたしはぴくりと体を強張らせる。
そんなわたしをよそに、お父様はわたしを大司教様の前に立たせた。
「光の討伐隊の者です。隊服をいただきたく参上したそうです」
けろっと、お父様はわたしを光の討伐隊だと紹介してしまった。
ええーっっ!
お父様、なんてことを!
嘘がバレたらどうするんですか!?
だらだらと冷や汗が流れそうになるが、気持ちをぐっと堪えて笑顔を作る。
「ニーナと申します。平民ですので家名はございません。お忙しい中、申し訳ございません。隊服をいただきたく参上いたしました。何卒、よろしくお願い致します」
ワンピースの裾を軽く持ち上げ、カーテシーをする。
大司教様は、そんなわたしをじっと見つめていた。
わたしも顔を上げて大司教様を見つめたが、大司教様は微動だにせず、わたしを見ている。
い、居心地が悪い…。
それでもわたしは笑顔を崩さずに、大司教様の視線に笑顔で応えた。
大司教様は、次にお父様に向き直り、お父様の目をじっと見つめた。
「そうか。討伐隊の隊服か」
真剣な表情でお父様に力強く言うと、お父様も大きく頷いた。
「はい。必要、だったのです」
「そうか。このために……」
大司教様は次に、わたしの方へと顔を向けると、今度はゆっくりと笑顔を浮かべた。
「よく来たね。ここまで、よく来たね。では、隊服につける印章を授けよう」
そして、机の引き出しを開けると、一枚のワッペンを取り出して、何やら詠唱を始めた。
「…………、命を賭し、平和を守る者に神の御加護があらんことを」
言い終わった大司教様が、ワッペンを額に頂くと、ワッペンは白く光り、その光はワッペンの中に吸い込まれるように消えて行った。
「ジョー、これを隊服につけて渡してあげなさい」
大司教様はヒラヒラと認定章をお父様に向けて振った。
「ありがとうございます。さ、ニーナも」
「あ、ありがとうございます! しっかり勤めをはたします」
慌てて頭を下げるわたしに、大司教様はにっこりと笑い、何度も頷いてくれた。
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