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16章 討伐前
脱出経路
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「しかし、ルークは相変わらず生意気だな」
会議が終わった後、王族しか使用を許されない王宮内のサロンでお父様とお兄様の3人でお茶をいただく。
お兄様は先ほどのルークの態度に腹を立てているようだった。
「アレックスよ、そう怒るでない。王族はいつでも余裕を持つべきだ」
「しかし父上。ローゼリアに持てる守りの力を全て注ぎ込むのは当たり前のことなのに、よくもまあ、あんなことが言えると……!」
お兄様は両手を握りしめて、ワナワナと怒りに震わせた。
わたくしはその間も優雅にお茶を飲む。
別にルークがどうしようと問題ない。
副隊長はわたくしを護ると言ったのだ。
まあ、ずっと張りつきでないことは腹立たしいが、副隊長を名乗っている以上、現場にも顔を出さなければならないのも事実だろう。
それに、もし討伐軍が負けるのであれば、わたくしが安全地帯へ逃げ出すまでの間のことだ。
その間くらいは、わたくしに張りつきで護らせればいい。
「ローゼリア、あんな奴におまえをくれてやらなければならないとは!」
お兄様が申し訳なさそうにわたくしを見る。
「大丈夫ですわ、お兄様。ルークとの婚姻は他国からの婚姻要請を断るための口実。それに、わたくしが結婚した後は、王宮内にわたくしの新居もご用意くださるのでしょう?」
今度はお父様が力強く頷く。
「もちろんだ。ローゼリアのために素晴らしい宮殿を用意しよう。それに、ほとぼりが冷めたら離縁して新たな婚姻を結ぶことも検討しよう」
「あら、わたくし、再婚なんて嫌ですわ」
「白い婚姻であれば、その婚姻自体をなかったことにできるだろう? それを使えばいい」
「ふふ。では、ルークはわたくしと結婚しても、わたくしには指一本触れられないのですね」
わたくしは扇で口元を隠して笑う。
だって、それが嬉しいことであると、お父様やお兄様にわかってしまうから。
「もちろんだ。オレからもルークには言っておこう。かわいいオレの妹を娶れるのだ。それくらいは我慢してもらおう」
「でもお兄様、わたくし浮気されるのは嫌ですわ」
他に女でも囲われたら、わたくしの立場がなくなる。
「なに、そんなことはさせないさ。ルークには近衛としての役職と公爵の爵位を与えて、城から出られないようにすればいい。城の中で女に手を付けるほど、馬鹿ではないだろう」
「ほほほ。それではルークの存在意義は、本当に居るだけとなってしまいますわね」
「何を今更。ルークはローゼリアのために生きているだけで良いんだ。幸せだろう」
ふふっ、確かに、わたくしの為に人生を捧げられるのであれば、これ以上の幸せはないわね。
「ところで王太子アレックスよ、国王と王位継承者である我ら王族の避難についてだが」
「そうでした。父上、これをご覧ください」
お兄様はテーブルの上に一枚の地図を広げた。
「ここが魔物の森、ここが討伐塔になります。討伐塔から城までの間に、王族しか知らない地下道があります。負けがほぼ確実となったところで、森のすぐ前に待機している騎士団が信号弾を打ち上げます。ローゼリアは信号弾が上がったら、通路を通って城へと帰還してくれ。父上母上とわたしは城から王都の外れまで繋がる地下道で待っている。地下道は馬車でギリギリ通れるくらいの通路だ。そこを通って、そこからは港町の別荘で過ごせるよう手筈を整えておく。それでいいですよね? 父上」
お父様はお兄様に向かって力強く頷く。
「民を捨てて逃げるのは心苦しいが、これも王家の存続のためだ。だが、民より先に逃げることを、決して他者に悟られてはいかんぞ」
「承知いたしました」
お父様の言葉に、わたくしとお兄様は頭を下げて了承した。
「ローゼリア、おまえが一番魔物に近いところにいるのだけが心配だ。何かあったら、何者よりも先に、地下道を通ってわたしたちのもとに来るのだぞ」
「はい。もちろんですわ。お父様、お兄様」
お姉様はいいわね。
もう隣国へ嫁いで行ってしまったのだから、こんな危険な目に合わなくて。
わたくしはもう一度地図を見る。
討伐塔の裏手の井戸のかげに地下通路への入り口がある。
塔から裏庭まで出る間、副隊長に護衛をさせるが、入り口を知られてはならない。
光の討伐隊の部下は捨てて、わたくしだけがそこに入るからだ。
どこで副隊長を撒こう……?
それとも、わたくしも短剣のひとつでも護身用と偽って持ち、それで副隊長を殺してから逃げようか。
なに、背後から刺せば殺せるであろう。
護るべき者から刃を向けられるとは思っていないだろうからな。
死体は、魔獣が食い散らかしてくれれば、剣による傷とはわかるまい。
わたくしが逃げる時は、討伐が失敗する時。
魔獣は、街に溢れるだろうからな。
会議が終わった後、王族しか使用を許されない王宮内のサロンでお父様とお兄様の3人でお茶をいただく。
お兄様は先ほどのルークの態度に腹を立てているようだった。
「アレックスよ、そう怒るでない。王族はいつでも余裕を持つべきだ」
「しかし父上。ローゼリアに持てる守りの力を全て注ぎ込むのは当たり前のことなのに、よくもまあ、あんなことが言えると……!」
お兄様は両手を握りしめて、ワナワナと怒りに震わせた。
わたくしはその間も優雅にお茶を飲む。
別にルークがどうしようと問題ない。
副隊長はわたくしを護ると言ったのだ。
まあ、ずっと張りつきでないことは腹立たしいが、副隊長を名乗っている以上、現場にも顔を出さなければならないのも事実だろう。
それに、もし討伐軍が負けるのであれば、わたくしが安全地帯へ逃げ出すまでの間のことだ。
その間くらいは、わたくしに張りつきで護らせればいい。
「ローゼリア、あんな奴におまえをくれてやらなければならないとは!」
お兄様が申し訳なさそうにわたくしを見る。
「大丈夫ですわ、お兄様。ルークとの婚姻は他国からの婚姻要請を断るための口実。それに、わたくしが結婚した後は、王宮内にわたくしの新居もご用意くださるのでしょう?」
今度はお父様が力強く頷く。
「もちろんだ。ローゼリアのために素晴らしい宮殿を用意しよう。それに、ほとぼりが冷めたら離縁して新たな婚姻を結ぶことも検討しよう」
「あら、わたくし、再婚なんて嫌ですわ」
「白い婚姻であれば、その婚姻自体をなかったことにできるだろう? それを使えばいい」
「ふふ。では、ルークはわたくしと結婚しても、わたくしには指一本触れられないのですね」
わたくしは扇で口元を隠して笑う。
だって、それが嬉しいことであると、お父様やお兄様にわかってしまうから。
「もちろんだ。オレからもルークには言っておこう。かわいいオレの妹を娶れるのだ。それくらいは我慢してもらおう」
「でもお兄様、わたくし浮気されるのは嫌ですわ」
他に女でも囲われたら、わたくしの立場がなくなる。
「なに、そんなことはさせないさ。ルークには近衛としての役職と公爵の爵位を与えて、城から出られないようにすればいい。城の中で女に手を付けるほど、馬鹿ではないだろう」
「ほほほ。それではルークの存在意義は、本当に居るだけとなってしまいますわね」
「何を今更。ルークはローゼリアのために生きているだけで良いんだ。幸せだろう」
ふふっ、確かに、わたくしの為に人生を捧げられるのであれば、これ以上の幸せはないわね。
「ところで王太子アレックスよ、国王と王位継承者である我ら王族の避難についてだが」
「そうでした。父上、これをご覧ください」
お兄様はテーブルの上に一枚の地図を広げた。
「ここが魔物の森、ここが討伐塔になります。討伐塔から城までの間に、王族しか知らない地下道があります。負けがほぼ確実となったところで、森のすぐ前に待機している騎士団が信号弾を打ち上げます。ローゼリアは信号弾が上がったら、通路を通って城へと帰還してくれ。父上母上とわたしは城から王都の外れまで繋がる地下道で待っている。地下道は馬車でギリギリ通れるくらいの通路だ。そこを通って、そこからは港町の別荘で過ごせるよう手筈を整えておく。それでいいですよね? 父上」
お父様はお兄様に向かって力強く頷く。
「民を捨てて逃げるのは心苦しいが、これも王家の存続のためだ。だが、民より先に逃げることを、決して他者に悟られてはいかんぞ」
「承知いたしました」
お父様の言葉に、わたくしとお兄様は頭を下げて了承した。
「ローゼリア、おまえが一番魔物に近いところにいるのだけが心配だ。何かあったら、何者よりも先に、地下道を通ってわたしたちのもとに来るのだぞ」
「はい。もちろんですわ。お父様、お兄様」
お姉様はいいわね。
もう隣国へ嫁いで行ってしまったのだから、こんな危険な目に合わなくて。
わたくしはもう一度地図を見る。
討伐塔の裏手の井戸のかげに地下通路への入り口がある。
塔から裏庭まで出る間、副隊長に護衛をさせるが、入り口を知られてはならない。
光の討伐隊の部下は捨てて、わたくしだけがそこに入るからだ。
どこで副隊長を撒こう……?
それとも、わたくしも短剣のひとつでも護身用と偽って持ち、それで副隊長を殺してから逃げようか。
なに、背後から刺せば殺せるであろう。
護るべき者から刃を向けられるとは思っていないだろうからな。
死体は、魔獣が食い散らかしてくれれば、剣による傷とはわかるまい。
わたくしが逃げる時は、討伐が失敗する時。
魔獣は、街に溢れるだろうからな。
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