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15章 加護

わたくしを脅かす過去の気配

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わたくしがお兄様と悠々と演習場に入ると、不満気な顔をしたルークがで迎える。

「王太子殿下、ローゼリア王女殿下、ご機嫌麗しく。訓練へのご参加、ありがとうございます」

日除けのパラソルの下、テーブルに座るわたくしとお兄様にルークが挨拶をするが、とても愛しの婚約者を迎える顔ではない。
その、嫌そうな顔を見るのもまた一興。

ルークの態度に、お兄様も顔を顰める。

「まだ討伐の日取りが決まらんと聞くが、どうなっているのだ」
「今、隊士や光の討伐隊の体調に合わせて調整中です」
「では、決まるまでの間は訓練に精進するように」
「はい」

王族を王族とも思っていない態度のルークが挨拶を終えてしまったので、剣に加護を授けてやることにしよう。
立ってやる義理もない。
このままの姿勢で剣を掲げるルークに、両手を差し出す。

「愛しき者のために祝福を」

誰が愛しくなどあるものか。
それでも詠唱と共に、指先から光の魔法が流れ出て行く。

本気で愛しい等と思っていないわたくしの魔法は、ルークの上辺を覆っていく。
目に見える形でルークを覆うため、わたくしの精一杯の加護が授けられたように見える。
より、派手なパフォーマンスに見えるようにしなければ、ルークが戦死した時に、わたくしが非難されてしまう。

わたくしが満足気に微笑むと、ルークはわたくしを睨みつけてその場を去って行った。

また、無能な様子を見せるがいい。

ルークの後ろ姿を見送っていると、演習場の奥で派手に光の魔法と風の魔法を乗せた剣を振るう者がいた。
そちらに目を遣ると、確か副官と言われる男だった。

ほぉ、光の魔法が乗った剣をあれほどまでに使いこなせるとは、少しは見所があろうか。
討伐当日、わたくしの護衛にさせようか。

そんなことを考えながら、ルークを見遣ると、剣を構えたところだった。

どうせ、いつものように炎が剣を包むだけだろう。
そう思い、そのままルークをる見ていると、轟音を響かせて、空中へと光と炎の魔法を乗せた剣を振り下ろしていた。

わたくしは目を見張る。

何故だ?
わたくしの加護では、あそこまで大きな技が出せるはずはない。

ふと、どこかからか視線を感じた。

どこだ?
わたくしを見ているこの目線は。
十数年前を思い出す、嫌な感じは。

……2階……?

1階を見回した後、2階を見るが誰もいない。

気のせいか……?

ふ……。
あの娘は死んだのだ。
ルークの隣に立ち、その地位を譲らずにいたために、命を落としたのだ。

わたくしが怯える必要はない。

では、ルークのあの力はなんなのか。
よく目を凝らして見ると、ルークは剣を振るう度、いつもよりも消耗しているように見える。

光の魔法を纏っているように見せかけるため、いつもよりも魔力を剣に注いでいると、いうことだろうか。


「……リア、ローゼリア?」
パラソルの日影の中、隣に座っているお兄様がわたくしを呼ぶ。

「あら、ごめんなさい。聞いておりませんでしたわ」
「大丈夫か? この強い陽射しだ。気分でも悪くなったか?」

わたくしはゆっくりと扇子を口元へと持って行き、優雅に微笑む。
「いいえ、少しぼーっとしていただけですわ。ルークが初めてきちんとわたくしの魔法の成果を出して剣を振るったので」

わたくしの言葉に、お兄様が満足気に笑みを浮かべる。
「そうだな。やっと、ルークもできるようになったのだな。これで、討伐の日程も決まろうぞ」
「そうですわね」

わたくしは微笑んで紅茶を一口飲み込んだ。

お兄様とお話をしながら、アフタヌーンティーを楽しんだ後、今日は早々に退出することにした。

「ローゼリアは今日は体調が良くないようだ。少し早いが帰らせてもらう。光の討伐隊のみんなは、よく訓練に参加するように」

お兄様はみんなに宣言をすると、またパフォーマンスで下々の隊士達に声を掛けに行った。

わたくしがゆっくりと立ち上がるのを見て、お兄様が隣に戻ってくる。

そうしてまた、わたくしはお兄様にエスコートされて、演習場を後にした。



城まで戻ってくると、誰もいない廊下でお兄様がわたくしに話し掛ける。
カツンカツンと、わたくしのヒールの音だけが廊下に響く中、こっそりと吐息のような声で。
「ルークが光の連携ができるようになったのだ。早々に討伐の日が決まるだろう。父上には伝令を出しておいた。このまま、談話室へ行ってもいいか?」
「談話室ですの?」
「ああ、討伐が失敗した時のために、打ち合わせが必要だろう?」
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