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15章 加護

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次の日、わたしは町娘の装いで演習場の中にいた。

朝、お兄様が馬車で迎えに来てくれて、そのまま誰にも見つからないように、こっそりと建物の2階にある座席まで連れて行ってくれた。

演習場は王家所有のものだけあって、とても広い。
その広い円形闘技場を囲うように、それを見学できる座席がある。
いくらローゼリア様が目敏いと言っても、その広さからわたし一人を見つけるのは難しいと思う。……思いたい!

ここで見ていて、何か不測の事態が起こった場合は、この白いハンカチを風魔法でお兄様のところまで飛ばすことになっている。
よし! 計画完璧!


わたしは、魔法を使う演習の時まで出番はないので、2階席から普通にルーク様たちを見学する。

ルーク様たちは、朝から素振りや模擬剣で隊員同士の試合をしていた。
汗を流して頑張っている隊員はみんなカッコいいと思うんだけど、見学者は確かにあんまりいない。
おそらく、隊員の身内とか婚約者さんだろう人が、たまに差し入れを持ってきたりしたついでに2階席に上がってくることもあるけど、座席も広い演習場で、わたしは誰の目にも止まらなかった。

一通り午前中の稽古が終わったのか、一旦隊士たちがグラウンドから退出していく。

あれ?
お昼って、わたしはどこで食べればいいんだ?
一応サンドイッチは持ってきたけど、この2階席ってモノを食べてもいいのかな。

そんなことを考えながら、ほけーっと人の少なくなったグラウンドの地面を見ていると、後ろからお兄様に声をかけられた。

「ボケっとしてないで、さっさと荷物持ってついて来い」
それだけ言うと、お兄様はお弁当の入ったバスケットを持って、とっとと歩き出した。
「待ってくださいよ」
わたしも慌てて、膝掛けを掴んで後を追った。

すすすーっと、音をあまり立てずに歩いていくお兄様についていくと、1階部分のある部屋へとたどり着いた。

お兄様はノックもせずに、その部屋へと滑り込んだ。

「お兄様、ここは?」
お兄様は後ろ手でドアを閉めると、わたしの問いに答える。
「ここは副官室だ。司令室はルーク様専用の休憩室としているが、ローゼリアが突撃してくるからな。オレの部屋は隊員以外来ないし」

部屋には、小さな執務デスクと応接用に小さなテーブルと簡易なソファが置いてあった。
お兄様はテーブルにお弁当を置くと、執務デスクに置いてあったティーセットもテーブルに移した。

保温ポットからティーカップにお茶を注いでわたしに渡してくれる。
ありがたく受け取って、一口飲むと少しホッとした。
やっぱり、ローゼリア様と対面するかもしれないと思って、緊張していたらしい。

さて、お弁当の中身を広げようとバスケットを手元に持ってきた時に、ルーク様が部屋にやってきた。

「義兄上、いつも通りまだローゼリアは来ていない。今のうちに昼を食べて剣に加護をつけよう」

ルーク様は周りを見回ってから来たらしく、少し息を切らしている。

「ま、ま。茶でも一杯飲んで落ち着いて。ローゼリアのことなんか考えて食ったら、ニーナの飯が不味くなるぞ」
お兄様はポットから紅茶を注ぎ、ルーク様に渡した。

ぐぐっと、それを一気に飲むルーク様を見て、わたしはハッとする。

「えっ、隊員は食堂で食べるんじゃないんですか?」

いそいそとバスケットを開けていたお兄様が、ルーク様の代わりに答える。

「ああ、食堂で食べてもいいが、持参してきてもいいんだ。おっ、うまそうなサンドイッチだな」
「あっ、お兄様、勝手に食べないでください。手を拭いてくださいね。こっちがお野菜中心で、こっちがお肉です。でも、お昼はお兄様たちは食堂だと思っていたので、わたしのお昼分と、ちょっとしたオヤツ程度しか量がないんですけど……」

わたしがしょんぼりして言うと、ルーク様が微笑んだ。

「大丈夫だ。動かなければならないから、オレ達はいっぱいまで腹を満たすことはない。その代わり、午後にも2回休憩が入る。その時には、食堂から軽食をもらってくるから、ニーナも楽しみにしていてくれ」
「じゃ、これで足りますか?」
「ちょうどいいくらいじゃないか?」

ルーク様が頷いてくれると、お兄様が口を出す。

「ああ、量はこれでいいから、明日からは肉をもっと入れてくれ。肉!」

……お兄様、ミラー子爵家でもちゃんとお肉は食卓に上がっていましたよ。
何故そんなに、肉にこだわるんですか!?
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