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13章 確信

ジーナの遺したもの

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オレは再度立ち上がる。

「王女の思い違いでしょう。隊士達は光の術者ともうまく連携して、退魔の剣は威力を発揮しています」

オレが座ると、今度は王太子は立ち上がらず座って腕組みをしたまま、オレを睨んだ。

「剣技の問題ではない。隊長、いや英雄たるルーク・デイヴィスの剣が未熟で、破魔の剣が使えていないと聞いているが?」

あいつが座ったままなら、オレも立ち上がる必要はないと、オレも座ったままで答える。

「いいえ。問題ありません。剣はこれ以上ないくらい仕上がっています」

これ以上ないくらい。
つまり、オレとローゼリアは今の剣以上に寄り添うことはないってことだ。

オレの態度に王太子がピクリと眉を上げる。

「では、出撃の用意を。それが終わり次第、出撃でいいな?」
「はい」

今のままで討伐に向かうということは、かなり苦しい戦いを強いられることになるだろう。
それでも、こちらがこれ以上光との連携が取れる可能性がないならば、まだ魔物が成長し切っていない今叩かなければ、勝機は完全になくなってしまうだろう。
オレの読みだと、勝敗は五分五分といったところか。


やるせない気持ちを抱えて帰宅すると、ニーナ達が笑顔で迎え入れてくれる。

ああ。
帰ってきたな。
あの、薄汚れた場所から。

心の底からほっと息を吐く。

その後も、長くニーナの顔を見ていたくて、飲みたくもない酒を飲むことにした。
オレは元々、酒に強くないので、すぐに意識が混濁してくる。
ただ、何か柔らかいものを抱き込んだ記憶はあった。
何よりも愛しいものを抱きしめたら、こんな感じだろうかと、よく回らない頭で考えた。

次の日、少し重い頭をかかえて出仕すると、義兄上が心配そうにオレの様子を伺いにきた。
だが、ニーナに晩酌を付き合ってもらったからか、気持ちはそんなに重くなかった。

午後、隊士と訓練をしていると、義兄上が走ってこちらにやって来る。

「義兄上。昼休み長くないか? もう午後の訓練は始まってますよ」

のんびりやの義兄上に苦言を呈すと、そんなことを気にしない義兄上がオレに剣を差し出した。
剣の鞘には、ブラウンのリボンが巻かれていた。

「いいから。ルーク様、ちょっとこの剣を振ってみてくれないか? 破魔の気を含んで」

義兄上から剣を受け取り構えると、リボンがふわりと手の甲を撫でていく。

これは……まさか……。

まさかまさかと思いながら、破魔の気を剣に纏わせ、一気に剣を振り抜いた。

-その瞬間、切先から轟音を唸らせて炎が立ち上り、演習場の空に霧散する。


「す、すげぇ……。オレが振り下ろしたのとは比べ物にならないくらい、ルーク様の破魔の気と剣が連携できている……!」


他の隊士や義兄上が口をポカンと開けて、炎が立ち上った後の空を見ていた。

「いやあ、ルーク様。剣先に人がいなくて良かったな」
ヘラヘラと笑う義兄上に駆け寄り、その両腕を掴む。

「義兄上! このリボンはジーナのっ」
ジーナの物なのか? その一言が声が詰まって言えず、義兄上の瞳をじっと見る。

「あ、ああ。そうだよ。ジーナの物だ」
「こんなっ、ジーナが居なくなってから随分と経つのに、それでもオレを護ってくれるなんて……!」

熱いものが込み上げ、オレの瞳から涙が溢れ出てくる。

死してなお、オレに愛情をもたらしてくれるジーナを想って。

リボンの付く剣を胸に抱き、目を閉じるオレに義兄上が暖かく肩を叩く。

「ルーク様、ジーナの遺した物はそう多くはない。討伐の時には何本か剣を用意して交換しながら戦うしかないだろう」

魔法を掛けた剣の威力はずっと続くわけではない。
およそ数時間ごとに、魔法を掛け直さなくてはならないのだ。
剣一本はそんなに軽いものではないが、腰に何本も振る下げて戦うことは難しいだろう。

「リボンを持っておいて、巻き変えればいいのでは?」
「あー、リボンを巻いただけじゃないんだ。剣にリボンを巻いて、しばらく剣と馴染ませないといけないんだ」

なるほど……。
それならジーナのリボンだけを持っていればいいとはならないか。

「これで、あの女とではないが、ルーク様も光の術者と連携できたことになるな」

義兄上は笑う。

オレ達剣士が光の加護を纏った剣を振るう時、連携されなければ光の魔法と属性魔法、オレで言うと火の魔法が反発しあってお互いを打ち消してしまう。
しかし、双方の魔法が馴染めばその威力はかけ算される。

それが、オレとローゼリアの魔法は全く馴染まず、それどころか打ち消しあってマイナスの効果を発揮していた。
オレの剣は、一般騎士の剣にも及ばないものになっていたのだ。



ジーナ。
空の上から見ていてくれ。
オレはジーナの力を借りて、君が大事にしていたものを守るよ。

君の家族や、君が好きだった大地に咲く花々を。
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