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11章 光を探して

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「アロン様のご親切なんだから、アロン様の気が済むまで魔法を教えていただいたらいいじゃない」

サリーさんに相談したら、あっけらかんとそう言われた。

「はい?」
「だって、ニーナは魔法を練習したいのでしょう? わたしから見たら、ニーナの魔法力は全然不足していないと思うけど。洗濯物もよく乾かしてくれるし。でも、ニーナがもっと魔法を伸ばしたいと思うのなら、アロン様に教わるべきよ。アロン様は風魔法では、この王都で5本の指に入る使い手だから」

サリーさんとわたしは作業室で、ルーク様のお召しになるシャツやベッドシーツなどにアイロンを掛けていた。
サリーさんはその手を止めることなく、わたしの話を聞いている。

「でも、侯爵家の御子息様に教わるなんて、そんな……。また、玉の輿狙いなんて噂を立てられるのもいやです」
「それは大丈夫でしょう。子爵様ならともかく、侯爵家の御子息と平民は結婚なんてできないから」
「それはそうですけど……」

わたしはサリーさんがアイロンをかけたものを、綺麗にたたんで積み上げた。

「それに、ルーク様と噂が立つならともかく、アロン様なら大丈夫じゃない?」
「どうしてアロン様なら大丈夫なんですか?」
「アロン様は次男だもの。爵位はルーク様がお継ぎになられるから、アロン様は然るべき家に入婿なさるでしょう。入婿に愛人を持たせる心の広いご令嬢は滅多にいないわ。アロン様を誘惑しても、正妻になるのは難しいし、愛人になってもいい待遇は期待できないでしょう」

サリーさんの言うことは正しいだろう。

「そこいくと、ミラー様は子爵家とはいえご長男だから将来ご当主となることが決まっているじゃない。王女様が降嫁なさるデイヴィス侯爵家のルーク様から覚えめでたいし。それに子爵なら平民なら正妻を迎えることもあるし、愛人に収まっても悪い待遇にはならないでしょう。だから、使用人から人気のあるのはミラー様なのよ」

そういうもんなのか。
アロン様よりお兄様の方が人気なんて。
世の中がわからない。

だけど、妹の立場で言わせて貰えば、確かにうちのお兄様はイチオシだ。
カッコいいかと聞かれれば、妹であるわたしは微妙な答えしか言えないが、素敵なお兄様であることは間違いない。
お兄様は優しいから、結婚したら奥様は幸せだと思う。

考え事をしながらでも、単純作業はできるもので、2人で話しながらやっていたにも関わらず、あっという間に全ての洗濯物にアイロンをかけ終わった。

たたんだものを抱えて、2人で棚やクローゼットに仕舞い込む。

「サリーさん。わたし、アロン様に魔法を教わります。だから、もしまた何か噂が立ったりしたら教えてくださいね」

なんとなく、面倒だから流れに身を任せてみようと思った。
サリーさんもぴっちりとたたまれたシーツを抱えて返事をする。

「そうね。アロン様が気が済むまで、付き合っていただいたらいいわ」



その後は、ルーク様が帰ってくるのでお出迎えの準備をする。今日は定刻通りに、ルーク様は別館にお帰りになられるらしい。

定刻に集まれる使用人が玄関に集まり、ルーク様を迎える。
「おかえりなさいませ。ルーク様」
「ああ」

ルーク様は外套をわたしに手渡し、疲れた目でチロリと目線を向けた。

「すぐ夕食にしてくれ。部屋に持ってくるように」
「はい。かしこまりました」

わたしはルーク様がお部屋に入られるのを見送った後、急いで夕食の準備に取り掛かった。





コンコン。
「失礼します」

ゼンに急いで用意してもらったディナーをワゴンに乗せて、サリーさんと2人でルーク様の部屋へと入室する。

サリーさんはある程度テーブル周りを整えると、一度ルーク様に視線を向けて、浅くうなずきルーク様に一礼して部屋を出て行った。

給仕は、2人でやることもあれば、静かにしていたいルーク様のご希望で1人でやることもある。
今日はきっと、ルーク様は静かに過ごしたい日なのだろう。

わたしもテキパキと終わらせて、早く退散した方が良さそうだ。

食事が終わったあとのデザートをすぐにお出しできるようにして、紅茶のおかわりを先にお出しした。

お食事が終わったので、サッとデザートを出す。
今日は水菓子だ。いつも美味しそうだなあ。

それも食べ終わったので、空いたお皿をワゴンに乗せて、紅茶を飲み終わった後でテーブルクロスもお取り替えした。

ふう。
今日の仕事はこれで終わりだ。

「では、ルーク様。これで失礼いたします」
わたしも一礼して部屋を出ようとすると、ルーク様は笑顔でわたしを引き留める。

「ニーナ待て。今夜は晩酌をする。ブランデーを用意してくれないか」
「は……はい。かしこまりました」
わたしは焦って返事をした。

だって、ルーク様の笑顔は、また目だけが笑っていないあの笑顔だったんだもの。
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