107 / 255
11章 光を探して
5
しおりを挟む
あの後は、わたしは黙ってルーク様の支度をお手伝いし、ルーク様も黙って着替えをしてわたしが再度厨房に行って持ってきた朝食を食べて、出仕された。
お見送りをした後、ルーク様のお部屋を掃除してリネンなどもお洗濯に出してお昼休みになった。
わたしは昼食を取った後で、別館の庭の隅に来ている。
あれだけ言われたのだから、少しでも魔法の練習をしなければならないからだ。
魔法の練習をしているふりをするために、わたしは2、3回風魔法を使って、庭の木の葉を舞い上げた。
風魔法なら、普通レベルには使いこなせるから、これくらいなら余裕だ。
そして、舞い上がった木の葉が地面に落ちたのを見届けて、わたしも木の根元に腰を下ろした。
仕事をしている時は仕事に集中できたけど、手が空くと思い出す。
ルーク様の笑っていない微笑みを。
何か怒っていらっしゃるのだろうか。
やはり、オリバーお兄様にご迷惑をお掛けしていることを怒ってる?
わたしは昨日の夜と、今朝見たルーク様が少し怖かった。
あんなルーク様を見たのは、前世も含めて初めてだ。
だって、ルーク様はもっと素直に表現される方で、不機嫌な時はそれを隠さず顔に現れていた。
不機嫌、もしくは怒っているのに微笑むなんて、見たことがなかった。
「それが大人になったってことなのかしら……」
木陰から見える噴水をぼんやり眺める。
あそこで一緒に遊んだルーク様は、可愛かったな。
「大人になるって、なんなのかしら」
「おまえはバカか。子どもが生意気言うんじゃない」
ひとりでいたはずなのに、上から降ってきた声に、顔を上げると、そこにはルーク様にそっくりのアロン様がいた。
「アロン様、すみません。独り言です。失礼しました!」
わたしが急いで立ち上がるも、アロン様は手でそれを制す。
「いい。座れ。今日は謝りに来たのだ」
アロン様はわたしを座らせると、ご自分もわたしの隣に腰を下ろした。
「アロン様、あの、お洋服が汚れます。何か、敷くものを持って参ります」
「いい。座れと言ったことも理解できんのか」
「……申し訳ありません」
わたしはしゅんと、俯いてしまった。
アロン様はそれを見て、慌ててわたしの顔を覗き込む。
「いや、違う。オレが悪かった。子ども相手に大人気なかった。昨日のことも含めて、済まなかった」
「昨日のこと、ですか」
アロン様は木に寄りかかり、空を見上げる。
「兄上に叱られた。事実関係をしっかり確認しろと。だから、噂のもとを辿ってみた。そうしたら、ただ単におまえとミラー卿が親しくしているのを見て、嫉妬した本館のメイドが立てた噂だった。おまえが誘惑をしたところは見ていないと言っていた。まあ、ミラー卿はモテるから仕方のないことだが、そのメイドにはいい加減な噂を流さないように注意しておいた。オレも、兄上の管理責任能力を疑われるのではないかと焦って、おまえを処分しようとしてしまった。申し訳なかった」
アロン様はわたしに向かって頭を下げる。
「やっ、やめてください、アロン様。わたしなんかに頭を下げてはいけません」
「ここは誰も見ていない。身分によって区別されることもない。誰にも見られていないのならば、悪いことに対して頭を下げるのは当たり前のことだ」
「アロン様……」
頭を下げたアロン様は、低い姿勢のまま、上目遣いにわたしを見る。
「許して、もらえるだろうか……?」
うっ、ルーク様によく似た顔で、上目遣いなんてやめて欲しい。
これでは、何をされても許してしまいそうになる。
「……許すも何も、怒っていません」
「では、許すと言ってくれ」
「わかりました。許します」
わたしの言葉にアロン様はにっこりと笑った。
「そうか。ありがとう」
その笑顔を見てから、わたしは一番気になっていることをアロン様に尋ねた。
「あの、ミラー子爵御子息様は、そんなにモテるんですか?」
お見送りをした後、ルーク様のお部屋を掃除してリネンなどもお洗濯に出してお昼休みになった。
わたしは昼食を取った後で、別館の庭の隅に来ている。
あれだけ言われたのだから、少しでも魔法の練習をしなければならないからだ。
魔法の練習をしているふりをするために、わたしは2、3回風魔法を使って、庭の木の葉を舞い上げた。
風魔法なら、普通レベルには使いこなせるから、これくらいなら余裕だ。
そして、舞い上がった木の葉が地面に落ちたのを見届けて、わたしも木の根元に腰を下ろした。
仕事をしている時は仕事に集中できたけど、手が空くと思い出す。
ルーク様の笑っていない微笑みを。
何か怒っていらっしゃるのだろうか。
やはり、オリバーお兄様にご迷惑をお掛けしていることを怒ってる?
わたしは昨日の夜と、今朝見たルーク様が少し怖かった。
あんなルーク様を見たのは、前世も含めて初めてだ。
だって、ルーク様はもっと素直に表現される方で、不機嫌な時はそれを隠さず顔に現れていた。
不機嫌、もしくは怒っているのに微笑むなんて、見たことがなかった。
「それが大人になったってことなのかしら……」
木陰から見える噴水をぼんやり眺める。
あそこで一緒に遊んだルーク様は、可愛かったな。
「大人になるって、なんなのかしら」
「おまえはバカか。子どもが生意気言うんじゃない」
ひとりでいたはずなのに、上から降ってきた声に、顔を上げると、そこにはルーク様にそっくりのアロン様がいた。
「アロン様、すみません。独り言です。失礼しました!」
わたしが急いで立ち上がるも、アロン様は手でそれを制す。
「いい。座れ。今日は謝りに来たのだ」
アロン様はわたしを座らせると、ご自分もわたしの隣に腰を下ろした。
「アロン様、あの、お洋服が汚れます。何か、敷くものを持って参ります」
「いい。座れと言ったことも理解できんのか」
「……申し訳ありません」
わたしはしゅんと、俯いてしまった。
アロン様はそれを見て、慌ててわたしの顔を覗き込む。
「いや、違う。オレが悪かった。子ども相手に大人気なかった。昨日のことも含めて、済まなかった」
「昨日のこと、ですか」
アロン様は木に寄りかかり、空を見上げる。
「兄上に叱られた。事実関係をしっかり確認しろと。だから、噂のもとを辿ってみた。そうしたら、ただ単におまえとミラー卿が親しくしているのを見て、嫉妬した本館のメイドが立てた噂だった。おまえが誘惑をしたところは見ていないと言っていた。まあ、ミラー卿はモテるから仕方のないことだが、そのメイドにはいい加減な噂を流さないように注意しておいた。オレも、兄上の管理責任能力を疑われるのではないかと焦って、おまえを処分しようとしてしまった。申し訳なかった」
アロン様はわたしに向かって頭を下げる。
「やっ、やめてください、アロン様。わたしなんかに頭を下げてはいけません」
「ここは誰も見ていない。身分によって区別されることもない。誰にも見られていないのならば、悪いことに対して頭を下げるのは当たり前のことだ」
「アロン様……」
頭を下げたアロン様は、低い姿勢のまま、上目遣いにわたしを見る。
「許して、もらえるだろうか……?」
うっ、ルーク様によく似た顔で、上目遣いなんてやめて欲しい。
これでは、何をされても許してしまいそうになる。
「……許すも何も、怒っていません」
「では、許すと言ってくれ」
「わかりました。許します」
わたしの言葉にアロン様はにっこりと笑った。
「そうか。ありがとう」
その笑顔を見てから、わたしは一番気になっていることをアロン様に尋ねた。
「あの、ミラー子爵御子息様は、そんなにモテるんですか?」
11
お気に入りに追加
261
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
運命の歯車が壊れるとき
和泉鷹央
恋愛
戦争に行くから、君とは結婚できない。
恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。
他の投稿サイトでも掲載しております。
記憶をなくしたあなたへ
ブラウン
恋愛
記憶をなくしたあなたへ。
私は誓約書通り、あなたとは会うことはありません。
あなたも誓約書通り私たちを探さないでください。
私には愛し合った記憶があるが、あなたにはないという事実。
もう一度信じることができるのか、愛せるのか。
2人の愛を紡いでいく。
本編は6話完結です。
それ以降は番外編で、カイルやその他の子供たちの状況などを投稿していきます
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する
紅子
恋愛
あなたは私の連理の枝。今世こそは比翼の鳥となりましょう。
私は、女神様のお願いで、愛し子として転生した。でも、そのことを誰にも告げる気はない。可愛らしくも美しい双子の妹の影で、いない子と扱われても特別な何かにはならない。私を愛してくれる人とこの世界でささやかな幸せを築ければそれで満足だ。
その希望を打ち砕くことが起こるとき、私は全力でそれに抗うだろう。
完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
悪役令嬢?いま忙しいので後でやります
みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった!
しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢?
私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。
夫と親友が、私に隠れて抱き合っていました ~2人の幸せのため、黙って身を引こうと思います~
小倉みち
恋愛
元侯爵令嬢のティアナは、幼馴染のジェフリーの元へ嫁ぎ、穏やかな日々を過ごしていた。
激しい恋愛関係の末に結婚したというわけではなかったが、それでもお互いに思いやりを持っていた。
貴族にありがちで平凡な、だけど幸せな生活。
しかし、その幸せは約1年で終わりを告げることとなる。
ティアナとジェフリーがパーティに参加したある日のこと。
ジェフリーとはぐれてしまったティアナは、彼を探しに中庭へと向かう。
――そこで見たものは。
ジェフリーと自分の親友が、暗闇の中で抱き合っていた姿だった。
「……もう、この気持ちを抑えきれないわ」
「ティアナに悪いから」
「だけど、あなただってそうでしょう? 私、ずっと忘れられなかった」
そんな会話を聞いてしまったティアナは、頭が真っ白になった。
ショックだった。
ずっと信じてきた夫と親友の不貞。
しかし怒りより先に湧いてきたのは、彼らに幸せになってほしいという気持ち。
私さえいなければ。
私さえ身を引けば、私の大好きな2人はきっと幸せになれるはず。
ティアナは2人のため、黙って実家に帰ることにしたのだ。
だがお腹の中には既に、小さな命がいて――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる