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9章 一筋の光は

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それから数日は、変わりない日々が続いた。
ルーク様の様子がおかしかったのはあの日だけで、あとは今まで通りお過ごしになられている。

最近は、庭にお花が咲いたのを見て、ガゼボでお茶を飲みながら書類仕事をすることもある。
外に目を向けて、穏やかな表情をするようになったことを、わたしは喜んでいた。

ある日、いつも通り、わたしはルーク様のお部屋の花を替えていたところ、一緒にルーク様のお部屋をお掃除していたサリーさんが突然声を上げた。
「大変! ルーク様ってば忘れ物だわ」
サリーさんは机の上にあった手袋を持って、わたしを振り返った。

「ニーナ、訓練場までこれを届けに行ってくれない?」
「手袋をですか? いいですけど、手袋くらい予備をお持ちではないのですか?」
「この手袋はルーク様専用のオーダーメイドなの。予備はいくつか作ってあるけど、毎日お取り替えになるから、洗濯の終わったものを毎日一つずつご用意していたの。だから、それを忘れて行ったら手袋はないわ」

サリーさんは言いながら手袋を小さな袋に用意して、わたしに渡した。
「実地訓練でお使いになられるから、急いでね」
「わかりました」

わたしは手袋を持って、急いで別棟を出た。

途中、フランクさんを探してルーク様のところに行くと伝えてディヴイス家を出ようとすると、フランクさんは馬車を用意してくれた。

馬車に揺られていると、すぐに訓練場に着く。門をぐぐる時に門番さんにディヴイス家の侍女であることを告げると、門番さんは馬車がディヴイス家のものであると確認してから、馬車を中に入れてくれた。

停車場まで馬車に乗り、そこからは歩いて訓練場の建物の中に入って行った。

前世の学校にあった、コロシアムと同じ作りだったけど、もっと大きくて設備も立派だった。

丸い格技場の周りに、座席があり、ルーク様は格技場で多くの隊員と剣を交わしているのが遠目で見える。
素手で剣を握っていたが、よく見ると隊員の中には手袋をつけていない人もいて、そこまで重要なものではないんじゃないかと思うと、訓練中のルーク様に声をかけるのは憚られた。

格技場の入口でウロウロしていると、後ろから声をかけられる。

「キミはルーク様のところの侍女じゃないか。どうしたんだこんなところで」
後ろを振り返ると、声を掛けてくれたのはオリバーお兄様だった。
お兄様はルーク様のとお揃いの隊服を着ていて、子どもの頃よりも凛々しくなっている。
すっかり大人の男の人になっているお兄様でも、知らない所で見知った顔を見て、わたしは安堵の息をついた。

「よかった。お、オリバー様。ルーク様が手袋をお忘れになったので、お届けに上がりました。訓練中でしたので、声をかけるのも憚られまして困っておりました」
わたしは危なく「お兄様」と呼びそうになった。
お兄様のお名前が「オ」で始まるお名前でよかったわ。うまく誤魔化せました。

お兄様はわたしの顔をじっと見てから、手袋を受け取ってくれた。
「せっかくだから、侍女殿も訓練を見て行けば?」
「いえ、仕事中ですので、これで帰ります」
「オレからも言ってやるからさ。二階の座席に案内してやるから」

お兄様はそう言うと、有無を言わさずわたしの手を引いて、裏手にある階段を上って行く。

仕事がある、は建前で、ルーク様のが普段何をやっているかは興味があったので、お兄様のおっしゃることは、とてもありがたかった。

お兄様は、二階の座席の中でも、ルーク様がよく見えるあたりにわたしを案内してくれる。
「じゃ、オレも下に戻って訓練を受けるから。今日はもう少ししたら、光の討伐隊がやってくるから、それまで見ているといい。普段のルークが見られるぞ」

すぐにお兄様は訓練に戻ってしまい、わたしは1人そこに残された。
光の討伐隊がいらっしゃるということは、ローゼリア様もここに来るのだろうか……。
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