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8章 記憶

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夕方には、会議をしていた討伐隊のみなさまは帰られたというので、わたしとサリーさんは執務室に空になったであろう食器をさげに行った。

ワゴンを押してサリーさんと執務室に行くと、ほかのみなさんは帰られたが、オリバーお兄様だけがまだ執務室に残っていた。

ルーク様は窓を背にした机に座り、その隣にお兄様が立って一緒に書類を見て、何やら難しそうな話をしてしている。

それは、13年前にも見たことのある風景で、うっかり、涙が浮かびそうになるけど、我慢だ。

サリーさんと2人で、無言で食器を片付ける。

「なあ、侍女殿。侍女殿は、魔法の特性はなんだ?」
不意に、片付けをしているわたし達に、オリバーお兄様が声をかけた。

わたしはびくっとしてしまったが、サリーさんはにこやかに答える。
「わたくしは水属性です」
「ほぉ、水か。うちの母上や上の妹と同じだな。そちらの侍女殿はどうだ? 見かけない顔だが、新人か?」
思わず、食器を片付ける手が止まる。
「わ、わたしは風でございます」

答えて、オリバーお兄様の顔を見ると、こちらをじっと見つめていた。

「……風か。オレと同じだな。わかった。ありがとう」
お兄様はぶっきらぼうに、そう言った。

「義兄上、なんだ? 今は侍女の属性など関係ないだろ?」
「まあ、そうなんだが。侍女殿が光属性ならいいなと思ったんだ」

ルーク様は眉を寄せながらも、少し笑う。
「光なわけがないだろう。光属性であれば、こんなところで侍女をしているわけがない。教会で働く方が、よっぽどもいい給料をもらえる」
「おまえのところ、そんなに薄給なのか?」
「義兄上……。そういうことではないのだが……」

2人が話している間に、すべての食器をワゴンに乗せ終える。
サリーさんと並んで、お二人に向けて腰を折って頭を下げた。
そうして、部屋を出ようとすると、オリバーお兄様が、まるでわたし達に言うように、こちらを向いて言葉を紡ぐ。

「光だったらいいなと思ったんだ。ルーク様と相性のいい、光の術者が必要だろ? ローゼリアとうまく連携ができないルーク様を助けてくれるような」

ローゼリア様とルーク様は、うまく連携できていないの?

お兄様の言葉に、思わず問いかけそうになるが、ぐっと我慢をして、サリーさんと一緒に執務室を出た。


ワゴンを押して、廊下を歩く。
誰も周りにいないのを見て、サリーさんは口を開けた。
「やっぱり、ルーク様と第二王女様はうまくいっていないのね」
「やっぱりって、サリーさんご存知だったんですか?」
「ええ。ここで働いているからには少しは耳に入るもの。詳しくはわからないけれど、討伐には光の術者が必要っていうのは有名な話でしょ? その訳まで知っている人は少ないけど、その理由はね、戦う時にルーク様の属性の火の剣と、光の術者の加護がうまく組み合わさると、討伐に有効な魔法が発動するらしいわ。それが、ご婚約から連携の練習をしても、一度も発動していないらしいの」
「……一度も?」
「ええ。一度も」

発動していないって、それじゃ、ルーク様の剣の威力が魔物に及ばなくなってしまうんじゃないの?

「ど、どうして発動しないんでしょうか?」
「よくはわからないけれど、息が合わないとでも言うの? 英雄の婚約者が光の術者が望ましいと言われている所以ゆえんではないかしら。お互いが信頼しあっていないとダメなのかもね」
「ローゼリア様とは、信頼しあっていない……?」

サリーさんは寂しげに笑う。
「あんなに嫌っているのに、第二王女と信頼しあっているわけがないでしょう。……ジーナ様とだったら、きっと息も会ってうまく行っていただろうに」

サリーさんの言葉に、わたしは身を固まらせた。
「あ、ごめんなさいね。ジーナ様というのは、ルーク様の前の婚約者様なんだけど、残念なことにお亡くなりになってね」
「そう、なんですか……」

わたしは胸の痛みを隠して、ぎこちなくサリーさんに微笑んだ。
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