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8章 記憶

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「え? サリーさん、今、なんて?」
わたしが首を傾げると、サリーさんも首を同じ方向に傾げた。

「わたしにもよくわからないのだけれど、ルーク様が、あなたをルーク様付きの侍女にするようにって」
「え? じゃあ、サリーさんは?」
「わたしもそのままルーク様付きよ。一人だけではルーク様のお世話は完璧にできないでしょう? 実は、もう一人ルーク様付きの侍女を増やしたいって話はずっとしていたの。でも、ルーク様が知らない侍女をつけるのは嫌がっていたから、わたし一人でやっていたのよ。だから、ルーク様が侍女を増やすことを了承してくださったのは、とてもありがたいんだけど、何故なのかが不思議なのよね……」
「そうですね……」
ふたりで首を傾げたが、さっぱりわからない。

「でも、まぁ、わたしが助かるってことで、納得しましょう」
「はい!」
その日から、わたしはルーク様のお部屋の掃除や、お食事をお持ちする役目を仰せつかった。

サリーさんと手分けしてやるので、毎日ルーク様とお会いできるわけではないが、それでもルーク様付きの侍女になってからは、ルーク様とお会いできる機会は多い。

ルーク様付きになったわたしの一番の楽しみは、ルーク様を朝起こしに行くことだ。
これは主にサリーさんの仕事だけれど、サリーさんに用事があると、わたしが代わりに行くことになっている。
サリーさんが一人で専属侍女をやっていた今までは、何があってもサリーさんが行かなくてはならなかったので、サリーさんには大変有り難がられている。

コンコン。
一応軽くノックをしてから、お部屋に入る。
まだ寝ているルーク様の寝顔を覗き込むと、少年だった頃の面影が見えるので、この時間が大好きだ。

ふふ。
わたしはニマニマしながら、シャッとカーテンを開ける。
太陽の陽射しに、ルーク様が身動みじろぎする。
「ルーク様、お時間になりました。朝食はこちらで召し上がりますか?」

ルーク様は枕に埋めた顔を少しだけこちらに向ける。
「そうだな。こちらに持ってきてくれ」
「かしこまりました」

わたしはルーク様が今日着る服をお出ししてから、一度下がって朝食を取りに行く。

別棟の厨房からルーク様の朝食をもらって、ワゴンで押して行く。

別棟のルーク様の食事は、本館からある程度調理されたものを調理部の人が別棟の厨房に運び、仕上げをそこでするようになっているので、ルーク様が召し上がるお食事も温かいまま、お届けすることができるのだ。

ワゴンの上を見ると、今日のメニューはしっかりめに作られていた。
朝からお肉かあ。
さすが男の人だな。わたしは朝から肉は無理だもん。

ルーク様の部屋まで戻り、わたしはルーク様の部屋のテーブルに、朝食をセットする。

ルーク様が椅子に座り、食べ始めた頃に、わたしはお茶の用意に取り掛かった。

「ニーナ、今日は帰りが遅くなる。夕飯はいらないと本館の料理長に伝えてくれ」
「あ、はい。かしこまりました」

食べ終わった頃、飲み頃になったお茶をお出しすると、ルーク様は一口飲んで、ニヤリと笑った。
「ニーナ、うまく入れられるようになったな」
「はい。ルーク様に散々ダメ出しされたおかげです」

最初の頃、何度もルーク様に「おいしくない」と言われて、悔しくてたくさん練習したのだ。

「これで今日一日がんばろうかという気になるな」
カップを置くと、ルーク様はため息をついた。
「今日、お忙しいんですか?」

何の気なしにわたしが聞くと、ルーク様はわたしの顔を見て曖昧に笑った。
「まあな」

よくわからないけど、きっと忙しいんだろう。
わたしはいつもよりも力を込めて、お見送りをした。
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