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7章 こぼれ落ちた運命は再び拾えるか?

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食事が終わる頃、サリーさんが慌ててわたしを迎えに来てくれた。
「ごめんなさいね、ニーナ。わたしはぼっちゃま付きのメイドだから、朝のお世話はいろいろあって、バタバタしてしまって」
「いえ、いいんです。調理場もいろいろなことが知れて楽しかったですし、ゼンと友達になりました」
「そう。ゼンは去年入ったばかりなのよ。ニーナとは年も近いから、仲良くするといいわ」

サリーさんが次に案内してくれたのは、洗濯場だった。
「わたしたち別棟で働いている者が本館の中で覚えるのは、調理場と洗濯場の二箇所だけよ。あとは、別棟での仕事になるわ」
「はい。わかりました」
「じゃ、別棟の洗濯物を持ってきているから、少し洗ってちょうだい」

サリーさんにそう言われて、洗濯籠の中に入っているものを出して、タライに水を汲む。
「ニーナの魔法属性は何?」
「わたしは風です」
聞かれて、素直に答えると、サリーさんは笑顔を浮かべた。
「やった! わたしは水だから、洗濯するときに水を運ばなくていいんだけど、乾かすのには時間がかかってたのよね。本館のメイドに手伝ってもらったりしてたけど、ニーナがいればこれからは大丈夫ね」
「洗濯物って、そんなに多いんですか?」
サリーさんは、石鹸をタライに入れて、洗濯物をゴシゴシ洗いながら答えた。
「少ないわよ。カーテンやテーブルクロスなんかは本館の洗濯メイドがやってくれるから。わたしたち別棟のメイドが洗うのは、ぼっちゃまの物だけね」

ふーん。
そうなのか。ルーク様のものを洗うのか。

そう思いながらサリーさんを手伝って、わたしもタライに手を入れてゴシゴシ洗った。

乾かすために、物干しに洗濯物を広げて干した時に、ルーク様の下着があったのを見て、顔を赤らめたのはナイショだ。


洗濯物を干したが、今日はいいお天気なので、お日様で殺菌するためにも、日に当てておくことにした。

「じゃ、次はいよいよ別棟のお仕事を見てもらうわよ」

サリーさんについて周り、別棟の中を隅々まで案内してもらう。
ルーク様の書斎は、いろいろな機密事項があるとかで、サリーさんも鍵は持っていないそうで、でもそれ以外の部屋は、ほとんど見せてもらった。

「最後に、ここがルーク様の私室ね」
鍵を開けて入ったそこは、13年前と、ほとんど変わっていない、ルーク様の部屋だった。

サリーさんは中に入って、シャッとカーテンと窓を開けた。
「わたしたちがやっていいのは、ベッドシーツの交換と、部屋続きにあるお風呂の掃除、リネンの洗濯ね。机は埃が酷くない限りは、触らないように。ただ、しばらくはルーク様のお部屋のお掃除はわたしがやるから、わたしがどうしてもできない時だけ、ニーナにお願いするわね」
「はい」

やっぱり、新人には主人の部屋のお掃除は任せてもらえなかった。

でも、変わりないルーク様のお部屋に、自然と笑みが溢れる。
壁に掛けてあるチェス盤は、よくルーク様と遊んだわ。
窓から夕焼けが差し込むまで、何回も勝負したこともあった。

もう、13年以上も前のことなんだ……。


「今後のニーナの仕事だけど、主に屋敷の廊下や窓、飾ってある壺や絵画のお掃除をお願いしたいと思うの。別棟は本館と違って、メイドの数が少ないから大変だとは思うけど、よろしくね。わからないことがあったら、わたしか、別棟執事のフランクさんに聞いてね」
「はい。わかりました。これからよろしくお願いします」
わたしはペコリと頭を下げた。
「あの、それでルーク様は……」
わたしが声を掛けると、サリーさんは困ったように眉を寄せた。

「今日はもう登城していらっしゃるわ。討伐隊の訓練は、お城で管理している演習場を使うから。騎士団とも合同演習をよくしていらっしゃるようだし。明日はお休みだけど、おそらくニーナがルーク様とお会いすることはないでしょう」
「やっぱり、誰ともお会いにならないんですか?」

サリーさんは寂しそうに笑う。
「よく知ってるわね。そうよ。多分、明日もお部屋に籠もりっきりになると思うわ。お食事もお部屋で取られて、誰とも話さずに休日を終えるの」
「……そうですか」

サリーさんは目を細める。
「わたしが来たばかりの頃は、そんなことなかったのよ。子どもらしく遊んで、笑って。あの頃は、この別棟も明るかったわ」


わたしが居なくなってからのルーク様を思うと、胸がつぶれる思いがした。
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