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6章 再生

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不思議なことがある。

わたしは生まれてすぐに教会で鑑定してもらった時に、風の属性だと言われているはずなのだが、何故か治癒魔法が使える。

それがわかったのは、弟のルフィがお母さんもお父さんもお店に出ていて側にいない時に、居住スペースの階段から落ちて怪我をした時だ。

まだ六つになったばかりのルフィは、あまりの痛さに火がついたように泣き出した。
膝は擦り切れて、顔は鼻血で真っ赤に染まっていた。

オロオロとしたわたしは、お母さんを呼ぶより先に、全神経を集中して、ルフィの頭を撫でて、膝を撫でた。

すると、不思議なことに、膝の擦り傷が跡形もなく消えていたのだ。
鼻血の方は傷口が見えないのでなんとも言えないが、痛さのあまり泣き叫んでいたルフィは、突然治ったことに、キョトンとして膝を眺めていた。

とっさに、わたしはルフィに嘘をついた。
「怪我をしたと思ったけど、膝に鼻血がついただけだったのね。ほら、傷口がないでしょう? 鼻血はもう止まったみたいだし、転んでびっくりしたけど大したことなくてよかったわね」

ルフィは自分の膝を手で触ってみてから、じっと、わたしと同じアンバーの瞳でわたしの顔を見つめた。
「お姉ちゃんが治してくれたんじゃないの?」
「お姉ちゃんはルフィをいい子いい子しただけよ」
「ふーん?」

ルフィは首を傾げたが、ニッコリ笑った。
「お姉ちゃん、ありがとう!」
いや、だからわたしが治したんじゃないって言ってるのに。

ルフィはまた元気よく走って、遊びに行くために家を出て行こうとした。
「血ぃー拭いてから遊びに行きなさいよー」
わたしの言葉も聞かずに、血がダラダラ垂れている状態で店舗の方に行って、お母さんに悲鳴をあげられていた。


治癒魔法について気になったわたしは、近所に住みついた猫が怪我した時も、精神を集中して怪我が治るように祈ってみた。
すると、やっぱり猫の怪我は跡形もなく治っていた。

わたしには、光の属性があるみたい。
でも、二属性を持っている人なんて、聞いたことがない。
ちゃんと、風の魔法も使えるのだ。
どういうことなんだろうかと、お父さんお母さんに相談しようか悩んだ時期もあったが、二属性あったからといって困るものでもないし、ルフィは黙っていてくれていたので、誰にもバレていないから、放っておくことにした。
困ったことがあったら、その時にお父さんとか教会とかに相談すればいいや。

わたしは治癒魔法は、最初から結構思いのままに使えていたけど、風魔法はあんまりだったので、学校に居る間は、風魔法の修得に励んだ。
卒業間近の今では、どちらも同じように自由に使えるようになった。



「うーん……」
教室で進路希望書を机に置いて、うんうん唸っていたら、ぽんっと頭を撫でられた。
「なんだよ、ニーナ。なに唸ってんだ?」
「ユーリ、レディの頭を気安く触らないでよ」
「ばーか。誰がレディだよ」
「わたしに決まっているでしょう」

12歳になり、わたしより頭一つ分も背が高くなったユーリは、わたしを揶揄ってばかりいる。

わたしのことをバカバカ言うけど、そう言われる度に懐かしさが込み上げるのだ。
遠い昔、誰かにもよくバカって言われてた。
愛情のこもった「バカ」だった。
それが誰かは思い出せないけど。

「ニーナは卒業したらどうすんだ?」
「ユーリは?」
「質問に質問で返すなよ。オレはもちろんパン屋の修行をする。親父に教えてもらうから家の手伝いと変わらないけどな」
「ふーん」

うちの商会は、お父さんが一生懸命働いてくれているから、お金には困っていない。
せっかくだから、進学しようかと思っているけど、女の身でお城の文官になるのはかなりハードルが高いので、専門学校に行こうかと悩んでいるところだ。
でも、専門学校は、なりたいものが決まっていないと、どの専門学校に入るのかを決めることができない。

「わたしはまだ決まっていないんだよね」
わたしがそう言うと、ユーリは身を乗り出してわたしに言う。
「じゃあさ、経営学の専門学校にしろよ。将来パン屋を経営する時に経理ができたら助かるだろう?」
「はい? なんでわたしがパン屋の経理をするのよ」
「うちに嫁にきたらパン屋の経営するだろうが」
「いつ、わたしがユーリと結婚するって言ったの?」
「言ってないけど、そうなるだろ?」
「ならないわよ」

だって、わたしは、死が二人を分かつとも一緒に居るって約束した人がいるんだから。

そう言いそうになって、慌てて口をつぐんだ。
やだ、わたしってば。
いったい、どんな妄想をしたんだ?

ユーリはニヤリと笑う。
「オレに惚れさせてやるぜ」
「惚れないわよ。水クラスのキャロルちゃんにもいい顔してること、ちゃんと知ってるんだから」
「えっ、キャ、キャロルはただの友達だよ?」
「やましいことがないなら吃らないでしょ? 牛乳で顔洗って出直してきてね」
わたしは進路希望者をかばんにしまって、教室を出た。

「ちぇっ。こんなこと言うのはニーナにだけなのにな」
後ろでユーリがなんか言ってたけど、わたしが立ち止まることはなかった。
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