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5章 別れ
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気にしていたわけではないけれど、あれからモニカ様が学園を休む日は多くなっていった。
何故だか、光魔法の授業だけは休まずに出ているけれど、それ以外の教科は単位が足りなくなるんじゃないかという勢いで欠席している。
ただでさえ、2年遅れて入学しているのに、留年したら居ずらいんじゃないのかな。
わたしが心配することじゃないけど。
今日も、この光魔法の授業があるから、登園したと言わんばかりに、遅刻してきて光魔法の授業にだけ参加している。
いつも通り、こじんまりした教室で、エミリア女史が講義をする。
いつも通りのはずなのに、何か違和感を感じて、過去の記憶と照らし合わせてみると、席がいつもと違うことに気がついた。
ローゼリア様とモニカ様の席が隣じゃないんだ。
遠く離れている訳ではないけれど、微妙に少し離れていて、授業中もあまり話さず、授業の前後も他の生徒のように一言二言交わすだけだわ。
ローゼリア様がクラスに慣れたからかしら。
それにしても、急に極端に会話がなくなった。
そんなことを考えていたら、急にエミリア女史に名前を呼ばれた。
「ジーナ・ミラーさん。この剣に、祝福を授けてください」
エミリア女史は、わたしの前まで歩いてきて、短剣をわたしに渡した。
えーっと、光の術者が授けることのできる祝福は、浄化を思い浮かべるんだったよね。
わたしは、考え事をしていたのがバレないように、慌てず落ち着いて剣を頭上に頂き、魔力を巡らせた。
浄化。
魔物の穢れにあたっても、傷まないように、光の魔法で剣をコーティングする。
一生懸命頭の中で、剣を光の魔法で包もうとしても、うまく剣は包めなかった。
「すみません。できませんでした」
素直に言うと、エミリア女史は頷いて剣を手に取った。
「そうですね。まだまだ祝福を与えるには時間が必要ですね。ジーナさんはゆくゆくは英雄の体全体を覆う祝福、加護を与えられるようにならなくてはなりません。少し、帰ってからも練習をした方がいいでしょう」
「はい」
エミリア女史は、そのまま別の人に短剣を渡して同じように祝福を授ける指導をして行った。
光の魔法を使える者は、身分職業を問わず、英雄が魔物討伐に行く際には駆り出され、討伐隊の剣や隊士に祝福を与える役目があるらしい。
何しろ、前回の討伐は数十年前だから、わたしは想像するしかないけど、きっと、ここにいるみなさまも討伐の時にはルーク様に力を貸してくれるのだろう。
光魔法の授業が終わると、わたしはさっさと片付けをして、元の教室に戻るために廊下に出た。
珍しく、モニカ様がわたしのすぐ後ろについて教室を出てきた。
やだなあ。
モニカ様とはクラスが一緒だから、教室に着くまでこの距離感で歩かなくちゃいけないのか。
わたしは後ろを振り返ることなく、なるべくモニカ様を意識しないように、歩いて行った。
校舎と校舎をつなぐ渡り廊下に差し掛かった頃、何か遠くで悲鳴のような声が聞こえた。
渡り廊下は校舎を出て屋根のあるところなので、思いっきり外だ。
そこで悲鳴が聞こえたということは、外で何かあったのだ。
光の術者は少ないため、わたしの周りにはモニカ様しかいなかった。
わたしは、モニカ様を振り返る。
「モニカ様、外でなにかあったようです。校舎の中に入りましょう」
モニカ様の腕を引いて、来た道を戻ろうとすると、モニカ様は動かなかった。
「モニカ様?」
心配してモニカ様を見ると、モニカ様はニヤリと笑っていた。
「わたくしを助けようと言うの? 英雄の婚約者様は随分と慈悲深いのねぇ」
そんなやり取りをしている間にも、騒ぎが近付いて来ている気がする。
「モニカ様、あとで聞きますから、早く行きましょう」
腕を引っ張ってもモニカ様は動かない。
「ねぇ、ジーナさん。英雄の匂いって、魔物が嫌いな匂いだそうよ。わたくし、色々調べたの。王宮の金書庫の中の、数十年前の討伐の記録もね」
モニカ様がいきなり訳の分からないことを言い出した。
「どうして12年前、魔獣は的確にルーク様を狙えたと思う? 知恵を持つ魔物と英雄ルーク様誕生の気にあてられて興奮状態だった魔獣が、たまたま森を越えたとして、それがルーク様の元へと来れたのは、英雄の放つ匂いを感じて来たからよ。匂いを辿って、ルーク様のところにきたの。だから、魔獣を誘うならより濃く英雄の匂いをさせるものが欲しかった。思った通り、ルーク様の血は英雄の匂いが濃くついていたようね」
「……なにを、言ってるの」
「ルーク様も大したことないわね。模擬戦だからといって、あんなに油断しているなんて。ちょっと傷がつけばいいくらいに思ってたのに、左腕がバッサリ斬られた時には、肝が冷えたわ」
「まさか、模擬剣を本物に摺り替えたのは……」
「そう。わたくしよ」
恍惚とした笑みを浮かべるモニカ様は、笑っているのにとても恐ろしく見えた。
何故だか、光魔法の授業だけは休まずに出ているけれど、それ以外の教科は単位が足りなくなるんじゃないかという勢いで欠席している。
ただでさえ、2年遅れて入学しているのに、留年したら居ずらいんじゃないのかな。
わたしが心配することじゃないけど。
今日も、この光魔法の授業があるから、登園したと言わんばかりに、遅刻してきて光魔法の授業にだけ参加している。
いつも通り、こじんまりした教室で、エミリア女史が講義をする。
いつも通りのはずなのに、何か違和感を感じて、過去の記憶と照らし合わせてみると、席がいつもと違うことに気がついた。
ローゼリア様とモニカ様の席が隣じゃないんだ。
遠く離れている訳ではないけれど、微妙に少し離れていて、授業中もあまり話さず、授業の前後も他の生徒のように一言二言交わすだけだわ。
ローゼリア様がクラスに慣れたからかしら。
それにしても、急に極端に会話がなくなった。
そんなことを考えていたら、急にエミリア女史に名前を呼ばれた。
「ジーナ・ミラーさん。この剣に、祝福を授けてください」
エミリア女史は、わたしの前まで歩いてきて、短剣をわたしに渡した。
えーっと、光の術者が授けることのできる祝福は、浄化を思い浮かべるんだったよね。
わたしは、考え事をしていたのがバレないように、慌てず落ち着いて剣を頭上に頂き、魔力を巡らせた。
浄化。
魔物の穢れにあたっても、傷まないように、光の魔法で剣をコーティングする。
一生懸命頭の中で、剣を光の魔法で包もうとしても、うまく剣は包めなかった。
「すみません。できませんでした」
素直に言うと、エミリア女史は頷いて剣を手に取った。
「そうですね。まだまだ祝福を与えるには時間が必要ですね。ジーナさんはゆくゆくは英雄の体全体を覆う祝福、加護を与えられるようにならなくてはなりません。少し、帰ってからも練習をした方がいいでしょう」
「はい」
エミリア女史は、そのまま別の人に短剣を渡して同じように祝福を授ける指導をして行った。
光の魔法を使える者は、身分職業を問わず、英雄が魔物討伐に行く際には駆り出され、討伐隊の剣や隊士に祝福を与える役目があるらしい。
何しろ、前回の討伐は数十年前だから、わたしは想像するしかないけど、きっと、ここにいるみなさまも討伐の時にはルーク様に力を貸してくれるのだろう。
光魔法の授業が終わると、わたしはさっさと片付けをして、元の教室に戻るために廊下に出た。
珍しく、モニカ様がわたしのすぐ後ろについて教室を出てきた。
やだなあ。
モニカ様とはクラスが一緒だから、教室に着くまでこの距離感で歩かなくちゃいけないのか。
わたしは後ろを振り返ることなく、なるべくモニカ様を意識しないように、歩いて行った。
校舎と校舎をつなぐ渡り廊下に差し掛かった頃、何か遠くで悲鳴のような声が聞こえた。
渡り廊下は校舎を出て屋根のあるところなので、思いっきり外だ。
そこで悲鳴が聞こえたということは、外で何かあったのだ。
光の術者は少ないため、わたしの周りにはモニカ様しかいなかった。
わたしは、モニカ様を振り返る。
「モニカ様、外でなにかあったようです。校舎の中に入りましょう」
モニカ様の腕を引いて、来た道を戻ろうとすると、モニカ様は動かなかった。
「モニカ様?」
心配してモニカ様を見ると、モニカ様はニヤリと笑っていた。
「わたくしを助けようと言うの? 英雄の婚約者様は随分と慈悲深いのねぇ」
そんなやり取りをしている間にも、騒ぎが近付いて来ている気がする。
「モニカ様、あとで聞きますから、早く行きましょう」
腕を引っ張ってもモニカ様は動かない。
「ねぇ、ジーナさん。英雄の匂いって、魔物が嫌いな匂いだそうよ。わたくし、色々調べたの。王宮の金書庫の中の、数十年前の討伐の記録もね」
モニカ様がいきなり訳の分からないことを言い出した。
「どうして12年前、魔獣は的確にルーク様を狙えたと思う? 知恵を持つ魔物と英雄ルーク様誕生の気にあてられて興奮状態だった魔獣が、たまたま森を越えたとして、それがルーク様の元へと来れたのは、英雄の放つ匂いを感じて来たからよ。匂いを辿って、ルーク様のところにきたの。だから、魔獣を誘うならより濃く英雄の匂いをさせるものが欲しかった。思った通り、ルーク様の血は英雄の匂いが濃くついていたようね」
「……なにを、言ってるの」
「ルーク様も大したことないわね。模擬戦だからといって、あんなに油断しているなんて。ちょっと傷がつけばいいくらいに思ってたのに、左腕がバッサリ斬られた時には、肝が冷えたわ」
「まさか、模擬剣を本物に摺り替えたのは……」
「そう。わたくしよ」
恍惚とした笑みを浮かべるモニカ様は、笑っているのにとても恐ろしく見えた。
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