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5章 別れ

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保健室で、隣のベッドに寝かされたわたしたち。

目が覚めると、隣からルーク様がわたしをじっと心配そうに見ていて、自分も貧血なのに、わたしの目が開いたのがわかると、横になっていたベッドから降りて、すごい勢いでわたしのベッドに張り付いた。

「バカジーナ!!」
「な、なんですかぁ。いきなり」
「オレは大丈夫だって、言おうとしたのにオレにはしゃべらせないで、勝手に治療して勝手に倒れて! どれだけオレが心配したと思ってるんだ!」
え、だってルーク様、血の気が引いてぐったりしてたじゃないですか……。

反論したくても、大きく成長したのに泣きそうな顔をしているルーク様に口答えすることもできなくて……。
「ごめんなさい」
わたしが素直に謝ると、奥からお兄様とお姉様がやってきた。

「そうよ、ジーナ。魔力切れだとわかっていても、倒れたらみんな心配するわ」
ベッドから身を起こすと、お姉様はわたしの頭を胸に抱いて撫でてくれた。
それは、お母様がよくやってくれたことで、とても安心する。

「まあ、ジーナが心配するのもわかるけどな。あの時のルーク様は、ちょっと出血が多くて心配した」
お兄様も安心したように、わたしに笑いかけた。

「お兄様、本物の剣が混ざっていたと聞きました。本物が混ざるってどうしてですか? 学園内に、本物の剣はたくさん存在するのですか?」
だとしたら、今後の剣技の授業はとても心配だ。

お兄様は難しい顔をした。
「それなんだよな。学園にある真剣は、警護が持つものに限定される。しかも、護衛が持つものには学園章が刻まれているからすぐにわかるはずなんだけど、混入していた真剣には学園章が刻まれてなかっただけでなく、模擬剣とまったく同じ造りだったんだ」
「それって、どういう……」
「狙って、真剣が混入されたと考えるのが正解だと思う」

狙って?
本物で斬り合いをしたら、死んじゃうのに?

「適当に混入されたんなら愉快犯だが、狙ってルーク様の対戦相手の剣とすり替えられていたとしたら、ルーク様が狙われたことになる」
「ルーク様の今日の対戦相手って、事前にわかっていたものなの?」
「もちろん。模擬剣とはいえ、あたったら痛いから、実力の近い者が対戦するようになっているんだ。今日の対戦相手は、先週からわかっていた。それに、模擬剣は使う者の身長に合わせて長さが違うから、狙ってすり替えられたと考える方が自然だ」

そんな……。
ルーク様を狙って得する人なんているの?
ルーク様が死んじゃったら、魔物討伐はできないかもしれないのに。

わたしが考えていると、お兄様がわたしの頭にぽんぽんと触れた。
「ジーナ、今学園が犯人を探しているから難しいことは考えるな。昔魔力切れを起こした時は丸一日寝ていただろう? 今日はまだ4時間しか寝ていない。部屋に帰ってゆっくり休むんだ」
「はい。お兄様」
ベッドから降りようとすると、ルーク様がベッド横に座り込む。
「ジーナ、オレの背に」

ええっ!
ルーク様におんぶなんてできないよぉ。

お兄様を振り返り、目線で助けを求める。
「あー、ルーク様。ジーナはオレがおんぶするからルーク様もそのまま自分の寮に帰れ」
「えっ、なんで」
ルーク様はお兄様に捨てられた子犬のような目線を向ける。

「うっ、そんな目をしてもダメだ。保健医も言っていただろう? ルーク様も貧血なんだから、早く自室に帰って薬を飲んで休むようにと」
「……ジーナを送って行くくらいできます」
「ダメだ。帰れ」

お兄様に弱いルーク様は、渋々お兄様に従った。

お兄様がわたしをおんぶしたのを見て、お姉様も立ち上がる。
「では、わたくしは保健医にふたりが帰ったと伝えてきますわ。先ほどの治療の時に目が覚めたら連れて帰って良いと言われてましたけど、一応念のために」

そうして、みんな保健室を後にした。

ルーク様は女子寮男子寮の分かれ道に来るまで、ずっとブツブツ言っていたけど、お兄様に睨まれてしょんぼりと首を落として男子寮に帰って行った。

お兄様はルーク様の後ろ姿を見送ると、「行くぞ」と言って女子寮に向かって歩き出した。

「ジーナ、オレはおまえがルーク様の婚約者でいることは反対しない。ルーク様が魔物討伐に行く時には、光の術者は同行しないと聞いている。ルーク様に加護を与えて、帰ってきたルーク様が怪我をしていたら治療するのが役目と聞いている。だが、もし万が一、討伐以外でもルーク様と一緒に危険な目に合うことがあれば、おまえは自分の身を守れ」

わたしはお兄様の背中にいるので、お兄様がどんな表情をしているのか見えない。
「お兄様?」
「ルーク様は英雄になる方だ。ルーク様に何かあれば、国一番の光の術者が来て、ルーク様を救おうとするだろう。だが、ジーナ、おまえはこの国にとっては取り替えがきく人間なんだ。おまえがダメなら別の光の術者にルーク様の婚約者を挿げ替えればいい」

確かに、ローゼリア様に替えられそうな今、それは痛いほどよくわかる。

「でもな、ジーナ。オレたちにとっては、おまえは誰の代わりにもならない、オレのかわいい末の妹だ。だから、ちゃんと自分を守ってくれ」

お兄様はいつもちゃかした言い方しかしない。
そのお兄様が、真剣な声でそう言うそれは、とても重みのあることだ。

「……はい。お兄様」

だから、わたしは素直に返事をするしかなかった。
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