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4章 そして運命の歯車は回り出す
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「ルーク様! 歩くのが早いです!」
わたしの手を取ったまま、寮までの道を急ぎ足で歩くルーク様に、必死で声をかける。
このままでは転んでしまいそう。
ルーク様はわたしの声に慌てて歩みを止めた。
「ジーナ、ごめん……」
「いえ、いいんです。助けに来てくださって、ありがとうございます」
ルーク様は建物を見上げて、結構ローゼリア様達のいる建物から離れたのを確認すると、やっと少し息を吐いた。
「……腕、見せて」
「あっ、」
ルーク様がわたしの右腕を触ると、激痛が走った。
「熱を持っている……。何をされたんだ?」
仮面の奥からルーク様の目がわたしを射抜く。
嘘は許さないと、言外に言われているのだ。
「ムチで、叩かれました」
「ムチで!?」
ルーク様はもう一度わたしの右腕を見る。
「そう言えば、部屋に入る時に音がしていた。でも、痕がないが」
「光の魔法で、表面だけ治療されました。ムチで叩いたのがわからないように。でも、痛みは残るように」
「なんだって?」
ルーク様が痛そうにわたしを見る。
「……ごめん。本当にごめん。ジーナはオレの婚約者になってから、ロクなことがない。オレは、ジーナにいろいろなものをもらっているのに、ジーナには苦痛しか与えてない」
泣きそうになっているルーク様の肩に、左手を回す。抱きしめようとしたけど、右手は痛いから、だらんと下げたままだ。
「ルーク様。そんなことないですよ。わたしはルーク様が大好きなんです。ルーク様が笑うと、わたしも幸せになれるんです。わたしはルーク様の笑った顔がとても好きです。だから、わたしも幸せをいっぱいもらってますよ?」
「ジーナ……」
ルーク様も、わたしの背中に手を回し、きゅっと抱きしめてくれる。
「まだまだ、たくさん笑って、わたしに幸せをくださいね?」
「あぁ」
その後、ルーク様は女子寮まで送ってくれた。
寮長にわたしが怪我をしていることを伝えると言うので、頼み込んでそれはやめてもらった。
だって、見せられない怪我だから。
腕は熱を持って腫れてきたけれど、表面は綺麗なのだ。
どうやって怪我をしたのか説明すれば、わたしを打ち付けた犯人は光の術者とわかってしまう。
もしかしたら、ローゼリア様がやったとわかってしまうかもしれないのだ。
いくらなんでも、王族が令嬢をムチで叩くなど、ありえない。
その事実が白日の下に晒された時、王家はわたしにどんなことをするかわからない。
人の良さそうな王様も、爽やかに卒業していった王子様も、お腹の中は黒いかもしれない。
何しろ王室は、ルーク様とわたしの婚約を祝福するフリをして、ローゼリア様との婚約も企んでいたのだ。
余計な火の粉は被らない方がいい。
わたしは痛みを隠して、寮の自分の部屋に閉じこもった。
夕飯の時間になっても、右手が痛くて多分フォークも持てないだろうと、食堂にも行かなかった。
わたしの姿が見えないので、心配したアンリエル様が様子を見に来てくれたけど、アンリエル様を巻き込めないから、笑顔でお腹が空いていないと言い訳をした。
だんだんと痛みがひどくなってくる。
わたしは食堂に顔を出し、給仕をしてくれる寮の使用人さんに氷をもらい、氷嚢を作ってもらった。
ベッドに横になり、右手に氷嚢を乗せる。
冷やしたら、少し楽になった気がした。
ムチで叩かれたくらいなので、たいしたことはないのだけど、叩かれたことのないわたしは精神的ショックを受けていたし、ジンジンと腕の内側からやってくる痛みに、心が折れそうだった。
暗くなってきたけど、部屋にランプを灯すのも面倒。
右手が使えないから着替えもできないし、今日はこのまま眠ってしまおう。
制服がシワになるけど、知ったこっちゃない。
あーあ。
なんでわたしはあの時、右手を差し出しちゃったんだろう。
利き腕じゃないの。
後悔しながら、左腕を両目の上に乗せ、ため息をついた。
寝てしまおうと思うのに、地味に右手がジンジンと痛みを訴えているので、寝付けない。
腕に氷嚢を乗せているから寝返りも打てないし。
乗せていた左腕を目の上から下ろす。
暗い部屋は気が滅入るな。
やっぱり、ランプ点けようかな。
そんなことを考えていたら、窓から何やらおとがした。
コンコン。
まるで、ノックのようだった。
わたしの部屋は一階だ。
もし、ローゼリア様が暗殺者とか雇って襲おうとしたら、めちゃくちゃ簡単に部屋に押し入れる。
起き上がって怖々と窓に近付いて見ると、仮面をつけたルーク様が窓の外に立っていた。
わたしの手を取ったまま、寮までの道を急ぎ足で歩くルーク様に、必死で声をかける。
このままでは転んでしまいそう。
ルーク様はわたしの声に慌てて歩みを止めた。
「ジーナ、ごめん……」
「いえ、いいんです。助けに来てくださって、ありがとうございます」
ルーク様は建物を見上げて、結構ローゼリア様達のいる建物から離れたのを確認すると、やっと少し息を吐いた。
「……腕、見せて」
「あっ、」
ルーク様がわたしの右腕を触ると、激痛が走った。
「熱を持っている……。何をされたんだ?」
仮面の奥からルーク様の目がわたしを射抜く。
嘘は許さないと、言外に言われているのだ。
「ムチで、叩かれました」
「ムチで!?」
ルーク様はもう一度わたしの右腕を見る。
「そう言えば、部屋に入る時に音がしていた。でも、痕がないが」
「光の魔法で、表面だけ治療されました。ムチで叩いたのがわからないように。でも、痛みは残るように」
「なんだって?」
ルーク様が痛そうにわたしを見る。
「……ごめん。本当にごめん。ジーナはオレの婚約者になってから、ロクなことがない。オレは、ジーナにいろいろなものをもらっているのに、ジーナには苦痛しか与えてない」
泣きそうになっているルーク様の肩に、左手を回す。抱きしめようとしたけど、右手は痛いから、だらんと下げたままだ。
「ルーク様。そんなことないですよ。わたしはルーク様が大好きなんです。ルーク様が笑うと、わたしも幸せになれるんです。わたしはルーク様の笑った顔がとても好きです。だから、わたしも幸せをいっぱいもらってますよ?」
「ジーナ……」
ルーク様も、わたしの背中に手を回し、きゅっと抱きしめてくれる。
「まだまだ、たくさん笑って、わたしに幸せをくださいね?」
「あぁ」
その後、ルーク様は女子寮まで送ってくれた。
寮長にわたしが怪我をしていることを伝えると言うので、頼み込んでそれはやめてもらった。
だって、見せられない怪我だから。
腕は熱を持って腫れてきたけれど、表面は綺麗なのだ。
どうやって怪我をしたのか説明すれば、わたしを打ち付けた犯人は光の術者とわかってしまう。
もしかしたら、ローゼリア様がやったとわかってしまうかもしれないのだ。
いくらなんでも、王族が令嬢をムチで叩くなど、ありえない。
その事実が白日の下に晒された時、王家はわたしにどんなことをするかわからない。
人の良さそうな王様も、爽やかに卒業していった王子様も、お腹の中は黒いかもしれない。
何しろ王室は、ルーク様とわたしの婚約を祝福するフリをして、ローゼリア様との婚約も企んでいたのだ。
余計な火の粉は被らない方がいい。
わたしは痛みを隠して、寮の自分の部屋に閉じこもった。
夕飯の時間になっても、右手が痛くて多分フォークも持てないだろうと、食堂にも行かなかった。
わたしの姿が見えないので、心配したアンリエル様が様子を見に来てくれたけど、アンリエル様を巻き込めないから、笑顔でお腹が空いていないと言い訳をした。
だんだんと痛みがひどくなってくる。
わたしは食堂に顔を出し、給仕をしてくれる寮の使用人さんに氷をもらい、氷嚢を作ってもらった。
ベッドに横になり、右手に氷嚢を乗せる。
冷やしたら、少し楽になった気がした。
ムチで叩かれたくらいなので、たいしたことはないのだけど、叩かれたことのないわたしは精神的ショックを受けていたし、ジンジンと腕の内側からやってくる痛みに、心が折れそうだった。
暗くなってきたけど、部屋にランプを灯すのも面倒。
右手が使えないから着替えもできないし、今日はこのまま眠ってしまおう。
制服がシワになるけど、知ったこっちゃない。
あーあ。
なんでわたしはあの時、右手を差し出しちゃったんだろう。
利き腕じゃないの。
後悔しながら、左腕を両目の上に乗せ、ため息をついた。
寝てしまおうと思うのに、地味に右手がジンジンと痛みを訴えているので、寝付けない。
腕に氷嚢を乗せているから寝返りも打てないし。
乗せていた左腕を目の上から下ろす。
暗い部屋は気が滅入るな。
やっぱり、ランプ点けようかな。
そんなことを考えていたら、窓から何やらおとがした。
コンコン。
まるで、ノックのようだった。
わたしの部屋は一階だ。
もし、ローゼリア様が暗殺者とか雇って襲おうとしたら、めちゃくちゃ簡単に部屋に押し入れる。
起き上がって怖々と窓に近付いて見ると、仮面をつけたルーク様が窓の外に立っていた。
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