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3章 学園へ
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多少のモニカ様からの嫌がらせはあったものの、学園生活は順調に過ぎていく。
え?
どんな嫌がらせがあったかって?
陰でわたしの悪口を言われたり、机に置きっぱなしにしていた教科書を破られる程度で、かわいい子どものいたずら程度のことだった。
よかった。
毒を盛られたり、暗殺者を雇われて殺されそうになったりする過激な嫌がらせじゃなくて。
魔法の勉強は思ったよりも為になり、ルーク様の火傷を消す範囲も少し大きくなった気がする。
でも、調節が難しくて、ちょっとやり過ぎるとその日のわたしは使い物にならなくなるから、ちゃんと見極めなくちゃいけない。
他の火水風の魔法は授業以外では使用禁止だけど、光の魔法だけは校内での練習が許可されている。
癒しの魔法だからだと言うことだが、それでも、教わった魔法以外は使ってはいけない。試してもいけないと言われている。
教わっていないものは使えないから、わたしにとってはどうでもいいことだ。
アンリエル様からの紹介で、わたしにもお友達ができたり、ルーク様にもお友達ができたりした。
……ただ、ルーク様のお友達は、わたしのお兄様のお友達なので、全員年上だけど……。
ルーク様は、自分を遠巻きに見ている同級生とは仲良くする気はないらしい。
そこは、ルーク様の気持ちを優先しようと思い、わたしは何も言っていない。
それに、お兄様のお友達とは仮面を着けずとも仲良くできているのだし、少しずつ、人と人との繋がりの輪を広げていけばいいと思うから。
季節は巡り、そろそろ学年末。
学園では毎年恒例の剣術大会がおこなわれる。
「はやくはやく! ジーナ様、席がなくなってしまいますわ」
アンリエル様が珍しく大きな声を出している。
わたしたちは今、学園内の闘技場まで来ている。
造りは小さなコロシアムのように、丸い競技場を囲って見やすいように段差をつけて席が作られているけど、いい席は早く行かないとなくなってしまう。
アンリエル様は、一つ学年が上の先輩のファンになったようで、今日試合が見られるのを楽しみにしていた。
正面、前から3列目の席をなんとか2つ確保してわたしたちは腰を下ろす。
「ジーナ様、よかったですわね。ここならとてもよく見えますわ」
頬を赤らめてわくわくとアンリエル様が言う。
「アンリエル様が見たいのは、一つ上のマイケル様でしたね。」
「ジーナ様、そんな大きい声で言わないでくださいませ!」
あらら。
顔が真っ赤になっちゃった……。
「アンリエル様、ごめんなさい」
剣術大会は、さすがに腕に覚えのある生徒が参加するだけあって、とても見応えのあるものだった。
マイケル様は、アンリエル様が推しているだけあって、茶色の髪を靡かせて、華麗に剣を振るっていたけど、三回戦で敗退。
でも、イケメンなので、剣術的にも芸術的にも大変見応えのある試合でした。
わたしの推し(?)のルーク様は、三回戦も危なげなく勝利した。
何故か、ルーク様の出る試合は、観戦者が多く、黄色い声援も多数あった。
疑問をそのまま口にすると、アンリエル様は目をまん丸にしてわたしに言った。
「ジーナ様、ご存知ないのですか? ルーク様は今や大変な人気者ですのよ? 一回生ではありますが、その中でも背が高く、幼い頃から剣を握っていただけあって、体は鍛えられてとてもバランスのいい立ち姿でいらっしゃるし、金糸のようなしなやかなお髪に透き通るようなエメラルドの瞳。お顔の半分は仮面で隠れてしまっておりますが、それを補ってあまりあるお姿に、上級生のお姉様方さえ
もお熱をあげておりますわ」
「……へぇ」
まったく知らなかった。
「ジーナ様との仲を邪魔する者がおりませんのは、ルーク様の一途なお姿によるところが大きいですわ。この前の建国祭では、生涯ジーナ様以外の婚約者は認めないと大きなお声で宣言なさったと聞きますし。おモテになるのにジーナ様以外によそ見もしないところも、ご令嬢方から好感をもたれているところですわ。貴族の令息なんて、側室や愛人がいて当たり前のように思っていますもの」
うっとりと物語の王子様のことでも語るように言うアンリエル様に、なんとなくわたしは居心地が悪かった。
だって、そんなに多勢の人から熱い視線を向けられている人の婚約者が、お父様似の男顔のわたしなのだ。
それでみなさまは納得していらっしゃるのだろうか……。
納得されなくても婚約者は辞退しないけど。
そうこうしているうちに、ルーク様は4回戦も勝ち抜き、つぎは準決勝だ。
やっぱりルーク様は幼い頃から剣を習っているだけあって強いな。
上級生相手でも、ひるみもしない。
しかも今日は観戦者が多いことから、仮面をつけての参戦だ。
仮面は火傷を隠すのにはいいけど、視界が悪いだろう。
ルーク様、仮面は暑いだろうな。
熱中症にならなければいいけど。
ルーク様が心配になり、じっとルーク様を見ていたわたしに、アンリエル様が驚いたように声をかける。
「ジーナ様、次のルーク様の対戦相手は、お兄様なんですのね!」
「へ?」
アンリエル様の興奮した声に、対戦相手の方のゲートを見ると、うちのお兄様が胸とお腹に防具を着けて立っているのが見えた。
「げ、ほんとだ。お兄様だ……」
「ジーナ様、オリバー様はお強かったのですね」
「いや、わたしも知らなかったです……」
いつもヘラヘラとしているお兄様が、剣が得意だなんて知らなかった。
そういえば、たまにルーク様のお屋敷に一緒に行くと、ルーク様と手合わせをしていたっけ。
お兄様は不適に笑う。
「ルーク様、久々に手合わせできるな。覚悟しろよ」
ルーク様も剣を一振りして、お兄様に笑顔を見せる。
「義兄上。あれからオレも成長しました。幼い頃は勝てませんでしたが、今日は勝たせてもらいますよ」
観戦席から遠い場内で、そんな会話が交わされていたのは、わたしの耳には届かなかった。
え?
どんな嫌がらせがあったかって?
陰でわたしの悪口を言われたり、机に置きっぱなしにしていた教科書を破られる程度で、かわいい子どものいたずら程度のことだった。
よかった。
毒を盛られたり、暗殺者を雇われて殺されそうになったりする過激な嫌がらせじゃなくて。
魔法の勉強は思ったよりも為になり、ルーク様の火傷を消す範囲も少し大きくなった気がする。
でも、調節が難しくて、ちょっとやり過ぎるとその日のわたしは使い物にならなくなるから、ちゃんと見極めなくちゃいけない。
他の火水風の魔法は授業以外では使用禁止だけど、光の魔法だけは校内での練習が許可されている。
癒しの魔法だからだと言うことだが、それでも、教わった魔法以外は使ってはいけない。試してもいけないと言われている。
教わっていないものは使えないから、わたしにとってはどうでもいいことだ。
アンリエル様からの紹介で、わたしにもお友達ができたり、ルーク様にもお友達ができたりした。
……ただ、ルーク様のお友達は、わたしのお兄様のお友達なので、全員年上だけど……。
ルーク様は、自分を遠巻きに見ている同級生とは仲良くする気はないらしい。
そこは、ルーク様の気持ちを優先しようと思い、わたしは何も言っていない。
それに、お兄様のお友達とは仮面を着けずとも仲良くできているのだし、少しずつ、人と人との繋がりの輪を広げていけばいいと思うから。
季節は巡り、そろそろ学年末。
学園では毎年恒例の剣術大会がおこなわれる。
「はやくはやく! ジーナ様、席がなくなってしまいますわ」
アンリエル様が珍しく大きな声を出している。
わたしたちは今、学園内の闘技場まで来ている。
造りは小さなコロシアムのように、丸い競技場を囲って見やすいように段差をつけて席が作られているけど、いい席は早く行かないとなくなってしまう。
アンリエル様は、一つ学年が上の先輩のファンになったようで、今日試合が見られるのを楽しみにしていた。
正面、前から3列目の席をなんとか2つ確保してわたしたちは腰を下ろす。
「ジーナ様、よかったですわね。ここならとてもよく見えますわ」
頬を赤らめてわくわくとアンリエル様が言う。
「アンリエル様が見たいのは、一つ上のマイケル様でしたね。」
「ジーナ様、そんな大きい声で言わないでくださいませ!」
あらら。
顔が真っ赤になっちゃった……。
「アンリエル様、ごめんなさい」
剣術大会は、さすがに腕に覚えのある生徒が参加するだけあって、とても見応えのあるものだった。
マイケル様は、アンリエル様が推しているだけあって、茶色の髪を靡かせて、華麗に剣を振るっていたけど、三回戦で敗退。
でも、イケメンなので、剣術的にも芸術的にも大変見応えのある試合でした。
わたしの推し(?)のルーク様は、三回戦も危なげなく勝利した。
何故か、ルーク様の出る試合は、観戦者が多く、黄色い声援も多数あった。
疑問をそのまま口にすると、アンリエル様は目をまん丸にしてわたしに言った。
「ジーナ様、ご存知ないのですか? ルーク様は今や大変な人気者ですのよ? 一回生ではありますが、その中でも背が高く、幼い頃から剣を握っていただけあって、体は鍛えられてとてもバランスのいい立ち姿でいらっしゃるし、金糸のようなしなやかなお髪に透き通るようなエメラルドの瞳。お顔の半分は仮面で隠れてしまっておりますが、それを補ってあまりあるお姿に、上級生のお姉様方さえ
もお熱をあげておりますわ」
「……へぇ」
まったく知らなかった。
「ジーナ様との仲を邪魔する者がおりませんのは、ルーク様の一途なお姿によるところが大きいですわ。この前の建国祭では、生涯ジーナ様以外の婚約者は認めないと大きなお声で宣言なさったと聞きますし。おモテになるのにジーナ様以外によそ見もしないところも、ご令嬢方から好感をもたれているところですわ。貴族の令息なんて、側室や愛人がいて当たり前のように思っていますもの」
うっとりと物語の王子様のことでも語るように言うアンリエル様に、なんとなくわたしは居心地が悪かった。
だって、そんなに多勢の人から熱い視線を向けられている人の婚約者が、お父様似の男顔のわたしなのだ。
それでみなさまは納得していらっしゃるのだろうか……。
納得されなくても婚約者は辞退しないけど。
そうこうしているうちに、ルーク様は4回戦も勝ち抜き、つぎは準決勝だ。
やっぱりルーク様は幼い頃から剣を習っているだけあって強いな。
上級生相手でも、ひるみもしない。
しかも今日は観戦者が多いことから、仮面をつけての参戦だ。
仮面は火傷を隠すのにはいいけど、視界が悪いだろう。
ルーク様、仮面は暑いだろうな。
熱中症にならなければいいけど。
ルーク様が心配になり、じっとルーク様を見ていたわたしに、アンリエル様が驚いたように声をかける。
「ジーナ様、次のルーク様の対戦相手は、お兄様なんですのね!」
「へ?」
アンリエル様の興奮した声に、対戦相手の方のゲートを見ると、うちのお兄様が胸とお腹に防具を着けて立っているのが見えた。
「げ、ほんとだ。お兄様だ……」
「ジーナ様、オリバー様はお強かったのですね」
「いや、わたしも知らなかったです……」
いつもヘラヘラとしているお兄様が、剣が得意だなんて知らなかった。
そういえば、たまにルーク様のお屋敷に一緒に行くと、ルーク様と手合わせをしていたっけ。
お兄様は不適に笑う。
「ルーク様、久々に手合わせできるな。覚悟しろよ」
ルーク様も剣を一振りして、お兄様に笑顔を見せる。
「義兄上。あれからオレも成長しました。幼い頃は勝てませんでしたが、今日は勝たせてもらいますよ」
観戦席から遠い場内で、そんな会話が交わされていたのは、わたしの耳には届かなかった。
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